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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【71】

 モヤモヤを抱えたままだったけど、今日の鍛錬は本当に本当に基本的なことだけだったからなんとかなった。ヒースさんの態度も全く変わらなかったし。まあ、彼にとっては仕事なんだから当たり前ではあるけど。


 午後の鍛錬は魔剣を使うところを人目に晒さなくていいように、小さめの鍛錬場を貸してもらって行う。

 改めて私の筋力不足を指摘され、毎日筋トレするように言われてメニューも決めてもらった。森に行く前のウォーミングアップを兼ねた軽いものと、午後の鍛錬の一環としてやるしっかりしたメニューの2種類。


 私は魔剣として魔法中心で戦う方がいいだろうということで、剣を振るうのはひとまずは素振りだけ。と言っても、1本を両手で持つパターン、右手だけ、左手だけ、左右交互に振るっていう4パターンをやるからなかなかハードだ。

 魔法はヴォルフィの判断を説明した上で、簡略版を見てもらった。ちなみに魔剣の名を呼ぶのも私だけにしておいた方がいいだろうってなったので、表記は「闇の剣」と「炎の剣」になっている。


「理論的なことガ見られないのは残念だガ、仕方ないナ。サツキはその魔剣デ、どこまでできル?」

「影月……闇の剣で治癒を行っただけです。それも呪文を唱える魔法としてではなく、剣の力を借りてなんとなくやってます」


「そうカ。サツキはそもそも、魔法についテどこまで知っていル?」

「水を出すとかの初歩的なやり方は教わってます。ただ、その時は自分の魔力でやってたのですぐ魔力切れを起こして、そのせいでそれより先の段階へは進んでないって感じです。あと……私が闇の剣で治癒を行っているのは、私の回復魔法を闇の剣が補助しているのだろうとイザベラ様には言われました」


 後半部分は言っていいのか迷ったけど、私が魔剣の魔法を使うことと私の魔法を魔剣が手助けすることは意味が全然違う気がしたので話しておいた。


「もっと根本的ナことは聞いテいないのか?」

「? はい」

「そうカ。では今日ハまずその説明ヲしよう」


 そう言われて、鍛錬場の端っこにあるベンチに座る。


「魔法というのハ、一言デまとめるとマナを変換しテ水や火の形で出力するものダ。それハ体内のマナでもできるガ、大気中のマナを取り込むことガかつては一般的だったと聞いていル」

「ちょっと待ってください。それってお母様から聞いた話ですか? 私が聞いていいのか……」

「構わなイ。サツキはオレ以上に秘密ヲ抱えているわけだかラ、オレに聞いタ話も人に話したりしないだろウ? ヴォルフに話すぐらいハ問題ない」


 まあ確かに異世界人であることに始まり、聖女の姉であることとか、転移の際に神様に会ったこととか、なんならサーラ神にもらった短剣も表に出せないし、秘密まみれではある。


「大気中のマナを取り込む方法ガ、いつどうして人間ノ世界で失われたのかハわからない。だが、どちらにしてもマナを自身ノ魔力回路を通すことによって、魔法としテ具現化することにハ変わりない。ここまではいいカ?」

「はい」


 おそらく、私がサーラ神にスキルとしてもらった魔法はその魔力回路を使うこと、すなわち魔力操作の能力なのだろう。


「人によって使えル魔法の属性が異なるのハ、魔力回路の形がそれぞれ違ウからなのだと思ウ。おそらくその魔剣ハ、闇魔法と火魔法の魔力回路を肩代わりするのだろウ。だから使い手ニ適性のない属性だとしてモ、その魔法ガ使えるようになる。サツキが使える属性ハなんだ?」

「一応、火・水・風・土・回復は使えるはずです」


 スキルを山ほど持ってることも言うなって言われてるから、それがスキルであることは伏せた。たぶん気づかれてるから意味はないと思うけど……。


「なら、闇魔法ハ適性がないのだナ。ああ、サツキが言っているのハおそらくスキルだろうガ、スキルにない属性でモ使えないことはなイ。ただ、強力な魔法ハ身につけにくいというだけダ」

「ええっ、そうなんですか!?」


 スキルであることもバレてたし、スキルがなくてもぞの属性が使えるというのは初耳だった。でも言われてみれば、ヴォルフィは風魔法のスキルしかないけど水を出したりしてたな。


「ギルド長の方針デ、ここに来た冒険者ハ全員飲み水程度の水ヲ出すこと、火魔法デ焚き火を起こすこと、土魔法デねぐらを作ることはできるようニさせられる。生き延びるためニ有用だからダ。それは魔法のスキルに関係なく、全員ダ」

「なるほど……」


 シュナイツァー伯爵領にいる冒険者が強いのは、強い冒険者が集まるからだけじゃなくて、ちゃんと先のことを考えた上で鍛えられるからなんだ。改めて伯爵の懐の深さを感じた。


「火魔法ハ事故が起こりやすく難しイ。先に闇の魔剣デ扱いに慣れてから、火の魔剣ヲ使う方がいいだろウ。サツキの最終的な戦い方モ、魔剣をどのように使うカで変わってくるかラ、魔剣で魔法ヲ使うことと、基礎的なトレーニングを優先すル。いいカ?」

「はい、それでお願いします」



 影月を収納から出し、鞘から抜く。まだ二刀を吊るせるベルトを手に入れてないので、鞘はまた収納に戻す。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、起動の言葉を初めて唱える。


「影月、抜刀」


 その瞬間、影月の刀身が闇よりも暗く染まった。全ての光を飲み込む深淵、その片鱗。

 それと同時に、体の中の魔力が循環し始めるのを感じた。影月から私の中に流れ込み、全身を巡ってまた影月に戻っていく。これは影月が取り込んだ大気中の魔力が循環しているのだ。

 それはとても心地よくて、いつまでもその流れを感じながら過ごしていられそうだった。


「サツキ、これヲ狙うんダ」


 そう言ってヒースさんが丸めた布の塊を風魔法で浮かせる。

 私はその布の塊と、その影をしっかりと見据えた。


「影縛り!」


 私が魔法の名前を口にすると同時に、漆黒の刀身から影が伸び、布の塊の()()絡みつく。

 そのまま影月を横に大きく振ると、布の塊の影が引っ張られ、そして布本体も引っ張られていった。


「できた!」


 すぐに集中が切れてしまい、伸びていた影は無くなった。


「影月、元に戻って」


 魔剣を解除する呪文は書かれていなかったので適当に呼びかけると、影月はちゃんと理解して刀身が銀色に戻った。


「サツキ。魔力ハ減っていないか? それに、気持ち悪いようナことはないカ?」

「なんともないです。むしろ快適です」


 なんかこうマッサージでリンパの流れがよくなるように、魔力の流れがよくなったような気がする。


「そうカ、ならいい。今日ハここまでにして、明日はもっと魔剣ヲ使おう」

「わかりました」



 こうして鍛錬1日目は終了した。

 夕方にはヴォルフィも無事に帰ってきてホッとしてたんだけど、私がヴォルフィのいないところで初めて魔剣を使ったって話したら嫉妬に(まみ)れた表情でベッドに引き摺り込まれた。

 そんなの、ヒースさんに教わるって決まったんだから仕方ないじゃないか!

 と思ったけど、やっぱりあの女が同じ討伐隊に入り込んでたって聞いたら私にも嫉妬の炎が燃え上がって、結局されるがままになってしまった。

 影月、抜刀。全身ギシギシな私を癒して!

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