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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【70】

「ではサツキ、改めテよろしく頼ム」

「こちらこそよろしくお願いします」


 私の体力があるうちに外に出た方がいいということで、午前中に採取をして午後から訓練ということになった。素材が集まってきたらそこに調薬の時間が入ってくる。

 先にヒースさんが冒険者ギルドで魔獣の出没情報を聞いてくれていて、比較的安全そうな場所を考えてくれている。


「採取しタ素材は全てスキルで収納するんだナ? 刃物ハ採取に必要なものだけヲ身に付けて、あとは身軽デいてくれ。あと、無闇に触れルつもりはないが、どうしても抱えたリする必要がある時ハ仕方ないと思ってほしイ」

「わかりました」


 採取の間は私は護衛される身。影月と櫻月も収納の中で大人しくしておいてもらう。


「大森林近辺でハ採取の依頼はなく、必要がないかラどこにどの植物ガあるかという情報モほぼない。だからまずは場所ヲ変えながら植生を見ていくトいうことでいいカ?」

「はい、それでお願いします」


 ヒースさんに連れられて川沿いを少し歩き、森の入り口らへんで立ち止まる。


「今日ハこの辺りにしよウ。川にはあまリ近づかないでくレ」

「はい。私は鑑定に集中してしまって大丈夫ですか?」

「もちろんダ。そのためノ護衛だ」


 今日のヒースさんは剣も腰に差してるけど、手には大きな弓を持って矢筒を背負っている。魔獣に接近される前に仕留めるためだろう。

 細身のハーフエルフなヒースさんには、弓がよく似合う。

 と言うどうでもいいことを考えながら、私は早速しゃがみ込んで生えている草を次々に鑑定していった。



 少しずつ場所を移動しながら鑑定と採取を続けていく。

 鑑定すると「体力回復」という効果が見える草は何種類かあったけど、最も必要な「治癒」の効果がある草がまだ見つかっていない。

 途中でヒースさんが鳥型の魔獣を射落とした以外は、平和に進んでいる。


「うーん、この辺の草はあらかた見たので、森の木を見てもいいですか?」


 薬草とはいえ、草だけとは限らない。もしかしたら木の葉っぱに治癒効果があるものがあるかもしれない。


「あまり近づくのハ勧めない。葉っぱガ手に入ればいいのカ?」

「そうですね、とりあえず鑑定できれば」

「わかっタ」


 そういうとヒースさんは風魔法で次々と枝を切り落としていった。ちゃんと種類の違う木から切ってくれている。それを素早く回収して私の前に積み上げてくれた。

 それをひとつずつ鑑定していくと、ある葉っぱに「治癒」の効果が見えた。松とか杉の葉のように細長い形の葉だ。


「ヒースクリフさん、この葉っぱがたくさんほしいんですけど、どの木でしょう?」

「それハ……あれだナ」


 ヒースさんの指差した木はかなり細くて高さも低く、あまりたくさんは採取できなそうな木だった。


「あの木って、よく生えてる種類なんですかね?」


 私から見える範囲では、同じような細さの木が数本生えているだけだ。


「わからないナ。時間モちょうどいいかラ、戻ってギルド長ニ報告がてら聞いてみよウ」


 昼食は伯爵邸で用意してもらえることになっているので、そのまま伯爵のところへ向かう。ヒースさんの昼食も支給されるという依頼になっているので一緒だ。

 伯爵邸に着くと、すぐに伯爵の執務室に通された。


「なんだ、早速大発見でもあったか?」

「そんなすごいものではありませんが、『治癒』の効果がある植物を見つけました。木の葉っぱなんですけど、よく生えてる木ですか?」


 そう言って収納から枝ごと葉を取り出して見せる。


「あーこれはレイルの木だな。一応実が食えるからよ、昔は積極的に増やしてたらしいな。クソ不味いけどよ。これは森の浅いところで見つけたのか?」

「周縁部ダ」


「じゃあ細っこいのしか生えてねぇだろうなぁ。もうちょい森の中に入ればどこにでもおっきいやつが生えてて取り放題になるが、嫁さんが行くのか……」

「オレだけガ採取に行くのでハいけないカ?」


「こんなどこにでもある木で治癒できるんだったらよ、正直他の木や草の効果も嫁さんに見てほしいところなんだよなぁ。ポーションになんなくてもこれで薬も作れるんだろう?」

「やってみないとわかりませんが、傷薬とか湿布にもできるかもしれません」


「だガ、大森林の中デ護衛をするのはオレだけでは厳しいナ。ヴォルフを呼ぶカ?」

「いや、騎士をつけよう。精鋭を数人つける。銀狼は魔獣の調査を兼ねた討伐をさせてるからよ、ここにくる途中で会った強力だっつう魔獣と比較してほしいんだよ」


 強力な魔獣……。

 私のいないところでそんな危険な依頼を受けているということに心が冷える。それが冒険者の日常で、ヴォルフィはずっとそうやって生きてきたと分かっていても体が強張っていくのを止めることができない。


「そんな深いとこまでは行かせてねぇから、ちゃんと夜には嫁さんのところに戻ってくるはずだからよ」

「……はい」


「でハ、明日は朝かラ騎士を連れテ、その木のあるところニ行くということだナ。場所はどのあたりダ?」

「西の方から入ったところが群生してていいだろう。ちょうど討伐隊が出入りしてるからよ、魔獣も出にくいと思う」

「分かっタ。では頼んだゾ」


 ヒースさんが話をまとめてくれたので、部屋を出て昼食に向かった。別々に食べる理由もないので、向かい合って食べる。


「サツキは、なぜ剣を使いたイ? 今のようニ薬師として生きるだけデはダメなのか?」

「自分の身は自分で守りたいですし、イザベラ様と刀鍛冶さんの意志を継ぎたいと思ったからです」


「護身ハできるに越したことはないナ。だが、意志を継ぐというのハそんな消極的ナ目的のためでハ果たせないゾ」

「………………」


「意志を継ぐとハどうすることなのカ……それヲ決めなければいけない時ガ来るだろう。頭に入れテおいた方がいイ」

「………………」

「しばらく休憩ヲして、入り口のあたりニ集合しよう」


 ヒースさんはそう言うとさっさと行ってしまったけど、私は一言も発することができなかった。


 意志を継ぐとはどうすることなのか。


 食べかけの昼食を前にしたまま、その言葉が私の中をぐるぐると回り続けているのを感じていた。

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