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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side勇者【8】

 翌日、さっさと朝食を済ませた俺は用意された服とカツラをいそいそと身につけた。

 服はゴワゴワした生地で着心地が悪いんだけど、今日の俺は「中の上ぐらいの商人の息子」っていう設定だそうで、そのぐらいのレベルの服だと言われたら諦めるしかない。


 カツラは本物の人毛を使っているらしく、かなり精巧にできている。一瞬「死体の髪か!?」と焦ったけど、貧しい人たちが自分の髪を売るんだそうだ。それもなんともいえないけど、今日はカツラが必須だから深く考えないことにした。

 カツラはメイドさんの手を借りて、外れないようにしっかり装着してもらった。


 今日の護衛兼案内役は、抜け目のなさそうな鋭い目つきをした中年の小男だった。騎士じゃなかったから手抜きなのかと思ったが、彼は見かけによらず手練れらしいし、「商人の息子のお目付役」に見えるから適任なんだそうだ。本当かどうかわからないが、まあ、見えないところに騎士も配置されるらしいから大丈夫だろう。

 こんな貧相なおっさんと2人で街歩きというのは全然嬉しくないけど。


 カモフラージュのために一旦馬車で出て、事情を知ってるお店に入ったふりをしてから徒歩で街に出るそうだ。

 いかにも「お忍び」という手順を聞いて、俺のテンションは上がってきた。だって俺が重要人物だから警戒するってことだろ。国を救う勇者様なんだからそうでなくちゃ。


 王都へ来た時よりは質素で家紋のない馬車に案内役のおっさんと乗り込み、高級そうな服屋の前で降ろされた。

 この店は侯爵家の御用達だそうで、今日はカモフラージュに手を貸してくれるんだそうだ。

 と言っても、俺の採寸をするっていう目的もあったそうで、着いたら身体中のサイズを測られた。測ったのは店長だという美男子で、細身で背が高く、中性的な美貌に洗練されたファッションを纏っている。なんとなく気後れしそうになり、俺はほとんど喋らずに採寸を終えた。侯爵家が俺の服を何着か用意してくれるんだそうだ。

 そのあとは徒歩で街へ出て、帰るときにこの店へ戻ってきたら馬車が迎えにくるっていう手筈だそうだ。


 俺とおっさんは店を出て歩き始めた。

 今日の目的は、第一に街の雰囲気を見て楽しむこと。次に、おいしいものを食べて買い物をすることだ。俺自身はこの国の通貨を持っていないけど、おっさんが今日のためのお金をもらってるそうなので、欲しいものがあれば買える。ラノベによくある屋台での買い食いなんかをぜひしたい。

 ってなわけで意気揚々と店から出たんだけど……。


 寂れてる……。


 寂れてるとしか言いようがない街の雰囲気。嘘だろ!?

 建物が石造だから街は全体的に灰色でどんよりしてる。今日は天気も曇りで、分厚い雲に覆われているからより一層街が暗く沈んで見える。

 王都のはずなのに出歩いている人が少なく、閑散としている。

 そのせいか、お店はあるようだが活気が全くない。

 どういうことだよ!?


「……この辺っていつもこんな感じなんですか?」


 俺がおっさんに尋ねると、おっさんは怪訝そうな表情をしている。


「こんな感じ、とはどの点がでしょうか?」

「どの点って……全体的にですよ。人もいないし、寂れてるし」

「ああ、それでしたらこれが通常です」


 なんだって!?

 こともなげに言われて、俺は愕然とした。

 ここは王都だろ。要するに首都だろ。それは1番大きくて賑わってる街だろ。

 これが通常なら、子爵領の方がまだマシなぐらいだ。


「……どういうことですか?ここは王都ですよね。なんでこんなに寂れてるんですか?賑わってる場所もありますよね?」

「なんで、とは難しいですな。王都は昔からこうですよ。賑わいを求めるならジェンティセラム公爵のところになるでしょうね。王国南方の大穀倉地帯で、港町もありますからそれはそれは活気があります」


 意味がわからん。

 俺が聞きたいのは王都の中で賑わってる場所なんだけど。

 いや、王都以外の場所で農業や貿易をするのはわかる。わかるんだけど、それって王都で流通するものじゃないのか?

 俺が疑問をそのまま口にしたら、おっさんは困った顔をして首を振った。


「帰ったらサツキ様に説明をお願いしておきます。ヤマモト様のいらした世界はずいぶん様子が違うようですので」


 まただ。また、勇者のはずの俺が蔑ろにされて、一般人のはずのサツキさんばっかり大事にされてる。なんなんだよ!なんでそんな物分かりの悪い子を見るような顔してるんだよ!


 楽しみにしていた街歩きは期待外れでしかなかった。

 屋台で食べ歩き、と思っていたがイメージしていたような屋台街はなく、たまに見かける屋台も衛生面が心配だからと買ってもらえなかった。

 スイーツを売ってる店に連れていってもらったが、昨日食べたようなクッキーしか売っていなかった。そもそもお菓子屋じゃなくて、パン屋に少しだけクッキーが置いてあるという程度だ。


 昼飯は上流階級向けの店に連れて行かれたので、手の込んだ料理が出てきたのがまだ救いだ。

 買い物をしようにも、ぶらぶら歩いて見て回るようなお店はないと言われてしまった。

 じゃあ観光できるような場所はあるのかと聞くと、大神殿と王立図書館という最悪な選択肢しかなかったので、諦めて帰ることにした。

 おっさんは案内役と言いつつ、積極的に解説をしてくれるわけでもないから気づまりだったし。


 最初に入った洋服屋に戻り、馬車を呼んでもらった。

 待っている間に、既製品を俺サイズに手直ししたという服を数着渡された。俺の普段着用だそうだ。もう少し上等の服はオーダーメイドだから後日もらえるらしい。

 服を用意してくれるのはありがたいんだけど、なんで事前になにも説明されないのか……。



 別邸に戻ってしばらくすると、サツキさんとヴォルフガングが俺の部屋を訪ねてきた。

 おっさんに頼まれた説明をしに来たというので、リビングみたいな部屋に移動して聞くことにした。


「えーと、山本さんは歴史がお好きではないんですよね。『封建領主』という言葉に聞き覚えは……」

「ないです」

「わかりました。このオーレンシア王国では、国王が全面的に貴族を従えているわけではないんです。貴族……つまりそれぞれの領地の領主ですね。領主は自分の領地内では絶対的な権力を持ち、それに国王が手出しすることは基本的にできません。国王が支配しているのは自分の領地である直轄地だけです。

ではどうして『国王』でいられるのかというと、『災厄』に抗う力を神から与えられているからです。『災厄』を鎮めるために緩やかに連合しているのがこのオーレンシア王国という感じです」


 マジか!?マジかよ!?

 国王、全然大したことないのか!?


「なんか南の方にすごいとこがあるって言われたのは……」

「ああ、ジェンティセラム公爵領のことですね。領地の面積も広くて温暖な気候で大農業地帯ですし、海に面していて交易も盛んなので、もっとも栄えているといえます」

「そこが栄えてても、王都には関係ないと……」

「まあそうですね。そもそも王家の直轄地の大半は最高神の聖地とそれに関係する施設がある地域になるので、世俗の繁栄という雰囲気ではないですね。王都も、なんというか全体的に禁欲的な修道院みたいな空気ですよね」


 絶句。


「……ちなみに、ここの侯爵はどんな感じなんですか?」

「そうですね、アイゼルバウアー侯爵領も富裕な領地になります。元々は目立った産業はなかったんですが、最近は魔道具製作が盛んです」


 マジか……。じゃあこっちに取り入っとくほうがよかったってことかよ。ミスった。

 いや、どのみち勇者は国王のところに行かないといけないのか……。

 サツキさんは侯爵に取り入って、うまくやってるよなぁ。


「でも『災厄』に対抗するために国王に従うんですよね?」

「従うと言ってもどこまでのものかはケースバイケースじゃないですかね。魔獣の大発生でも自然災害でも、それぞれの領地でも対応しますよね。王国が一丸となって……というのは利害関係もあってなかなか起こらない気がします」


 そういうことか……。侯爵家の人たちが俺を適当に扱う理由がようやくわかった。

 どうでもいいんだ。俺のことなんて。勇者のことなんて。

 関係してるのは王家だけなんだから、とっとと送り届けてさようならってしたいんだ。

 くそっ!くそっ!!


「……サツキさんは、侯爵家にすごく大事にされてますよね。何をして取り入ったんですか?」


 昏い気持ちが高まって、思ったままを問いかけた。

 ヴォルフガングの方からぞわりと殺気が向けられたが、完全に投げやりになってる俺にはそれすらどうでもよかった。


「取り入ったつもりはないですが、日本の家電の知識を提供して魔道具開発には役立ててもらいました。それが有用だと判断されたのだと思います」


 そういえばさっき魔道具製作とか言ってたな。

 なんだよ、ちゃんと異世界チートしてるじゃないかよ。


「そういうのって、先に来たほうが得ですよね。なんかずるいな」


 そう言った瞬間、ヴォルフガングに胸ぐらを掴まれた。殴られる、と思って身構えるのとサツキさんがヴォルフガングの腕に縋り付いて止めるのが同時だった。


「ヴォルフィ、いいから!」


 その姿にさらに苛立ちが高まる。まだいい人ぶるのかよ。

 それを口にしようとした時、サツキさんがこっちを向いた。その瞳は絶対零度の冷たさで、俺は硬直してしまった。


「あなたも私も、望んでこの世界に来たわけじゃない。その上、私はこの世界に望まれたわけでもない。それでも、私は生きて行かないといけなかったから持ってる知識を使った。それだけです。

……あなたにとっては私の生死などどうでもいいことなのでしょう。私が何もせず野垂れ死んでいて、あなたが日本の知識を最初に持ち込めればよかったと思っているのでしょう。

だけど、それは私にとっても同じこと。あなたの境遇なんてどうでもいい。あなたが死んでも……どうでもいい」

 

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