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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【68】

 自分のことに必死過ぎて、メアリやマルクスさんたちのことをすっかり忘れてた……。申し訳ない。


「お前らがややこしそうな感じであいつら困ってたからよ、俺がちゃんとやっとくから気にすんなって言っといたぞ。侍女は持ってきた荷物の整理するっつうから場所貸して、騎士どもは稽古つけてくれって言うからよ、100年早ぇってうちの騎士団に放り込んだ」


 メアリだけ真面目に仕事をしている!! 後でちゃんと労っておかないと。

 そして騎士3人は憧れの伯爵本人にはお相手してもらえず残念がっているのが目に浮かぶ。


 その後も話し合いを続けて、今後の流れが決まった。

 まず、伯爵から侯爵家の(ほぼ)身内である私に植物の調査とポーションの試作の依頼をする。これは契約書を作って契約魔法を用いて行う。

 侯爵の了承が必要なんじゃないのかって思ったけど、旅の間はよほど重大な事項以外は子息であるヴォルフィが決定権を持ってるからいいらしい。


 そして領主である伯爵から冒険者ギルドへ、ヒースさんに対しての指名依頼を出す。内容は私の案内役兼護衛。

 ヒースさんになったのは、ひとりで依頼が遂行できる実力者であることと、侯爵子息の信頼を得ているからという理由にしておくということになった(侯爵子息=ヴォルフィは全くヒースさんを信頼してなかったけどね……)。


 また、私とヴォルフィだけで調査させないのは、侯爵家がこそこそ調べ回っているというあらぬ疑いを持たれないためでもあると言われて納得した。

 私が調査をしている間、元冒険者である侯爵子息は領内での討伐に協力する。

 ということにするそうだ。


「銀狼はぼんやりしてたら嫁さんを追っかけて行きそうだから仕事さすだけだしよ、夜にはちゃんと帰らせるから心配すんな。あと、冒険者の中から銀狼と組みてぇっていう謎の指名依頼が来てるけどよ、あいつはもう冒険者じゃねぇって蹴っといたからな」


 あの女か。ギルド長にお願いしておくって不思議なことを言ってたのはこういうことか。

 私がムッとしてるのにヴォルフィが気づいて困っている。


「伯爵、俺が入る討伐隊は騎士じゃなくて冒険者の方か? メンバーは?」

「銀狼の戦い方は完全に冒険者寄りだから騎士団の方には入れられねぇな。一応あいつとは別にしてあるけどよ、まあ後はお前がしっかりしとけって話だなぁ」


 あの女とは別部隊にしてくれてはいるようだけど、個人的に誰かと交代して紛れ込むぐらいはしそうだ。一緒になると思っておいた方がいい。

 ヴォルフィがなにか言ってほしそうに、チラチラとこっちを見てくる。


「たぶんあの人はどうにかして同じ隊に入ってくるだろうから、それはもう諦めておく。だから絶対に変な噂になるようなことしないで。向こうから迫ってくるのをはっきり拒絶して。ヴォルフィの気持ちは信用してるけど、それを誰が見てもわかるようにして。もちろん他の女の人に対しても。私もヒースクリフさんとの仲を疑われるような行動は絶対しないって約束するから」

「わかった、サツキが嫌がることは絶対にしない」


 心が狭いって思われそうだけど、これを飲み込んでまた情緒不安定になるぐらいなら言ったほうがマシだと思ってはっきり言った。

 ヴォルフィは私の予想に反して嬉しそうな顔で了承してくれた。


 その後、見た目は騎士な文官さんが契約書をまとめてくれたので手続きして、なぜか冒険者登録もして、ヒースさんがギルドで依頼を受注して体裁は整った。

 実際に森に出る前に、私がイザベラさんにもらった資料の見ていい部分は見せてほしいとヒースさんにお願いされたので、今日はここで解散して私は資料を読むことになった。


 伯爵邸と行政館はまあまあ距離があるので、馬を貸してもらって毎日行き来することになった。馬通勤……。

 もちろん私ひとりでは乗れないのでふたりで一頭を借りて、乗せてもらっている。


 行政館に着いてフリーデグントさんに挨拶して、真面目に仕事をしていたメアリを労って、滞在する部屋に落ち着いた。


「なあ、サツキ」

「うん?」


 早速イザベラさんにもらった資料を出して読もうとしていたら、なかなかに真剣な顔で呼びかけられた。


「最初に伯爵と会ったときに、疫病の話で怯えてただろ。あとで聞いてくれって言ってた話は、今聞いちゃダメか? ずっと気になってた」

「あ、そうだったね。じゃあ聞いて」


 あの女が現れたりしてずっと話しそびれていた。少し時間を置いたので、今なら割と落ち着いて話せそうな気がする。


「私はいけないことをしてるんじゃないかって思って、急に怖くなったの」

「いけないこと? なにかしたのか?」


 顔を見ていたら続きが言えなくて、寄り掛かるようにしながら話す。


「私、妹に会いたくないから聖女と関わらないって言ったけど、そのせいで助からない人がいたらどうしようって思ったの。それなら、私が我慢して聖女を手伝って、少しでも多くの人が助かるようにするべきなんじゃないかって思ったの」


 話すのと連動するように涙が出そうになるけど、それはどうにかこらえる。


「魔獣が大発生するってどんなことなのかピンときてなくて、でもペストみたいな規模で被害が出るようなことが起こるなら、わがまま言ってる場合じゃないかもって思ったの。でもやっぱりどうしても嫌で、どうしたらいいのかわからなくなってきちゃったの」


 こらえきれなかった涙が一筋流れ落ち、ヴォルフィの手にこぼれた。それに気づいて頭を撫でてくれる。


「サツキはサツキのしたいようにすればいい。聖女に会いたくないなら会わなければいいし、会わなくても『災厄』に対抗するためにできることはたくさんあるから、それをやればいい。むしろ聖女のそばにいたってやることないだろ? その方が犠牲が増えると思うけどな」

「……うん」


「サツキがポーションを山のように作って収納すれば、俺とサツキだけで配って回れる。ポーション以外の物資も持っていける。それだけでかなりの人員削減になるから、余った騎士を討伐に回せる。あの剣でも治癒できるし、これから新しいポーションも作るんだろ」

「……うん」


 ヴォルフィの言っていることはとても正しい。私も頭ではそうだってわかっている。

 その理屈が届かない心の闇の底に蠢く感情は、自分でもまだ正体がわからないのでそのまま蓋をすることにした。


「そうだね、ありがとう。……親にね、いつも『妹を助けろ』って言われ続けて刷り込まれたのがなかなか抜けなくて。心配かけてごめんね」

「そんなの気にしなくていい。もしどうしてもサツキが聖女に会わなきゃいけなくなったとしても、ひとりでは絶対に行かせないから心配するな」

「ありがと」


 あいつには会いたくない。今の幸せな環境に水を差されたくない。

 あいつは姉のものをほしがるタイプではないからヴォルフィを奪ろうとはしないだろう。権力に任せて私をヴォルフィから引き離して自分の近くに置いて、聖女として大切にされる自分を見せつけて悦に入る、みたいなタイプだ。

 想像するだけでまた気が滅入ってきた。


 この世界に来た時はなんの迷いもなく生きていけるような気持ちでいたけど、ここのところずっとぐらぐらしている。

 そんな自分がすごく嫌で、私はヴォルフィに気づかれないようにひっそりとため息をついた。

 お読みいただきありがとうございます。

 所用が重なってしまって、12月5日と7日の更新はお休みさせていただきます。次回は12月9日の予定です。

 ここのところ更新が安定せず申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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