side巻き込まれ薬師【64】
「あのヴォルフがこうなるカ。変わる時ハ変わるものだナ」
「うるせぇ」
「オレが教えてやった魔法ハ役に立っているカ?」
「てめぇ死にてぇのか」
ヒースさんに教わった魔法?
からかうような口調のヒースさんにヴォルフィがやたら怒っている。
「ああ、その様子なら役ニ立っているようデ、なによりダ。使えるようになっておいテよかっただろウ?」
「ねえヴォルフィ、なんの魔法のこと?」
我慢できなくて私が口を挟むと、ヴォルフィは「うっ」っと詰まってしまった。その顔が赤い。
「ハハハ、防音魔法ト浄化魔法だヨ。これでいつでもどこでモ女の子と関係を持てるだろウ? 風魔法ト水魔法の応用だかラ、ヴォルフなら使えると思って教えたんだヨ。その時はいらないト言っていたがナ。礼は酒でいいゾ」
「………………」
ヒースさんがなかなかの問題発言をしている。本当に女好きだったんですね。
ヴォルフィが大袈裟に言ってるだけかと思ってたら、本当に女好きだったんですね。
見た目に色気があるだけってわけじゃなくて、本当に女好きだったんですね。
いつでもどこでもって……。
てか防音魔法と浄化魔法?
浄化魔法は使ってる瞬間は寝てしまっていて見てないけど、いつも使ってるって言ってた。
防音魔法も……?
防音魔法とやらがなんのために使われてるのかに気づいて、私の顔も赤くなった。
そ、そうですか。お気遣いありがとうございます……。
ヴォルフィもさらに顔が赤くなってて、そんな私たちを微笑ましそうにヒースさんが眺めている。
いやいや、誰のせいだと思ってるの。
というか、こんなどうでもいい話をしてる場合じゃない。
「伯爵をお待たせしちゃってるから早く行かないといけないんじゃ……」
「ああ、そうだな」
「別ニ急がなくていいと思うガ、行くカ」
ヒースさんのセリフに「いや、急げよ」と心の中でツッコミつつ、連れ立って伯爵のゴミ部屋へ向かった。
ヴォルフィがノックしてから、3人で部屋へ入る。
「なんでぇ、一緒に来たのかよ」
「ヒースがサツキに手を出そうとしていたのを見つけたので」
「具合ガ悪いか聞いていタだけなんだガな」
「ぶはっ、なんかおもしれぇことになってるな! 銀狼の嫁さんの取り合いか!」
「違います」
話が変な方向に進んでいったので、私が即座に否定した。
違う、取り合いじゃなくてヴォルフィがおかしなことを言っているだけ。
「そいで嫁さん、碧き風に会ってみてどうだ?」
「どうだと言われましても、冒険者としてのヒースクリフさんについてはまだ答えようがなく……」
「そいつ個人としては?」
「……同じタイプの人と仲良くしてくださいって感じです」
「ははははははははははっ!! 違いねぇ!!」
伯爵はツボに入ってしまったのか、涙を流しながら大爆笑している。
私は真面目に、いつでもどこでも浄化魔法や防音魔法が必要なことをしてくる人は嫌なんだけど。
「じゃあサツキはヒースと組まないってことでいいのか?」
ヴォルフィがどこかホッとしたように聞いてくるけど、それはまだ決めかねているところだ。
「うーん。あのさ、今ここで影月と櫻月出していい? 伯爵もいるところで見てもらう方がよくない?」
「……それもそうか。伯爵、俺たちがヒースに会おうとしてたのは伯爵の勘のためというよりも、ヒースに見せたいものがあるからです。今、伯爵も立会いのもとで見せてもいいですか?」
「俺は構わねぇが、モノはなんだ?」
「異世界の鍛治師が鍛えた剣に、エルフが付与したものです」
「見せろ! なんつーおもしれぇもん持ってんだよ!」
急にテンションの上がった伯爵が、私の説明に被せ気味にOKを出してきた。
「ヒースクリフさんも見てくださいますか?」
「構わないガ、ヒースと呼んでほしいナ」
「では出しますね」
ヒースさんの訴えはスルーして、収納から二振りの日本刀を取り出す。
ヴォルフィが伯爵に無断で書類の山をいくつかどけてスペースを作ってくれたので、鞘に収めたまま置く。
伯爵もヒースさんも真剣な面持ちで刀を見つめている。
「鞘から抜きます」
二振りとも抜き、改めて机の上に並べた。
「これはなんつーか、変わった剣だなぁ。その異世界の鍛治師ってのは嫁さんと故郷が同じやつなのか?」
「国は同じではありますが、時代はだいぶ違う人だと思います。私が生きていた頃より昔に使われていた剣ですし、そもそも私がいた時代は一般人が武器を持つことは禁じられていましたから」
「ほぉ。じゃあこの剣はその鍛治師が故郷から持ってきたもんか?」
「違います。こっちの世界に来てから作ったと、共同で作業をしたエルフの方から聞きました。その方が付与を施したそうです」
「なんだと!? エルフが剣を作っただと!?」
伯爵がまた興奮して、唾を飛ばす勢いで喚いている。
一方、ヒースさんは無言のまま刀を見つめていたが、ようやく口を開いた。
「……この付与ハ、見たことがアルものに似ていル。サツキはオレがハーフエルフであるコトは?」
「聞いています。すみません、個人的なことを勝手に」
「いヤ、特に隠しテいないから構わナい。そのエルフはどんな人カ聞いてモ?」
「はい。名前はイザベラ様で、東の里の族長の娘だとおっしゃっていました」
「なんだと!?!?」
なにかを言いかけたヒースさんを思いっきり遮りながら、伯爵はバーンと机を叩いて立ち上がった。その勢いで机の端に置いてあった書類の山が崩れ落ち、床のゴミに混ざっていった。
「そのエルフとはどこで会ったんだ!?」
「ここにくる途中ですけど、具体的な場所はちょっと……」
居場所まで話しちゃっていのかわからないし、地理のあまりわかっていない私には説明すること自体が難しい。
「東の里ってのはよ、この隣に広がる大森林のどっかにあるっていうエルフの集落だ。どっかにあるって先代に聞いてるだけで、ほんとにあるのかは誰も知らねぇ。お前らはそこに行ったのか?」
「会ったのは別の場所なので、その里に行ってはないです。なので、里の場所は知りません」
「そうか……」
伯爵の部屋の中のモノ達は、床に落ちたら全てゴミ。机の上だけが書類扱いしてもらえる聖域。




