side巻き込まれ薬師【63】
「なあ、俺が出張ると話が大きくなっちまうからあんまり手は出せねぇけど、なんかされたら言えよ。そこはギルド長としても領主としてもちゃんとするからよ。それに、なんもされてなくても銀狼には言ってやれよ」
「……はい」
伯爵の言っていることは本当にその通りなんだけど、どうしても今の私には従えそうもなかった。
「伯爵様、ヒースさんに会ってみたいです。ご紹介いただけますか?」
「そりゃあ構わねぇけどよ、銀狼に言ってねぇだろう? なにがあったのかは言いたくなさそうだから聞かねぇけど、あいつとはちゃんと話さねぇと余計こじれるぞ」
違うことで気を紛らわせたくてヒースさんに会う話を進めようとしたら、伯爵に嗜められた。
やっぱり言わないとダメか……。
「……そうですね。ヴォルフィはどこにいるかご存知ですか?」
「朝飯食ったあとフラッとどっか行っちまってたなぁ。銀狼と碧き風とまとめて呼んでやるから、お前さんは寝てろ」
「いえ、自分で探しに……」
「いいから寝てろ。ほんとにひでぇ顔してるぞ。ってこういうことを女に言うなってまたフリーデとユーディトにどやされるな……」
伯爵に手間をかけさせてはいけないと思ったけど、私は本当にひどい状態らしい。そんな顔であの女にでも会ったらなにを言われるかわからないので、大人しくお言葉に甘えることにした。
そして、私の呼び方が「嫁さん」から「お前さん」になっていることが、この先の関係を暗示しているかのようで私をより一層沈ませた。
ふたりを捕まえたら呼びにきてくれるそうなので、眠れる気はしないけど部屋に戻ることにした。
が、しかし。
道を覚えるのが得意ではない私は、どこから来たのかわからなくなってしまった。似たような薄暗い通路だし、行くときは少年に案内してもらっていたのであまり道順を意識していなかったのだ。
寝不足でふらふらの私は途中で立っていられなくなり、ものすごく小さな中庭のようなところの木の下にへたりこんでしまった。
少しだけ休もうと木に寄りかかったところで私の意識は途絶えた。
「お嬢サン、こんなところで寝ていてハいけませんヨ」
肩を揺すられて目を開ける。
あれ、私はなにをしてるんだっけ?
ぼんやりしたままの私の前には男の人が立っていた。
スラリとした長身で、肩につくほどの長さの緑がかった灰色の髪。垂れ目気味で、目元にある泣きぼくろがなんともいえない色気を醸し出している。
身に付けている防具は、なんの素材かわからないけど鮮やかな青緑色でとても目を惹く。腰には短めの剣を2本差していた。
息を呑むほどの中性的な美貌だった。
「お嬢サン、立てますカ?」
少し変わったアクセントなのが異国の雰囲気を彼に与え、より色気が増して見える。
「あ、はい」
差し出された手を借りて立ち上がると、体のあちこちが痛んだ。
「具合ガ悪いのですカ?」
「いえ、大丈夫です。道に迷ってしまって、少し休もうと思っただけで」
あんな場所とはいえ少しでも眠ったのがよかったのか、頭はさっきよりもスッキリしている。
「どこへ行くところですカ? オレはギルド長に呼ばれていますガ、あなたもですカ?」
ギルド長に呼ばれてるってことは、もしかしてこの人が……。
「おいヒース、てめぇなにしてやがる」
いつの間にかやってきたヴォルフィが、私と色気たっぷりの男性の間に割って入ってきた。
やっぱりこの色気垂れ流しさんがヒースさんなんだ……。
「なんダ、ヴォルフの連れか? 珍しいこともあるものダナ。その木の下ニ座り込んでいたカラ、具合が悪いのカと声をかけていただけダ」
「本当か? サツキ、なにもされてないか? どこかに連れ込まれそうになったり、無理に誘われたりしてないか?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「ヴォルフは相変わらずだナ。オレのことをなんだト思っているんダ?」
ヒースさんが呆れた表情をしている。
ヴォルフィの言ってることは過剰にも聞こえるけど、ヒースさんのダダ漏れている色気を見た今となっては納得できてしまう部分もある。
この色気が本気を出して口説こうとしたら相当な破壊力だよね、きっと……。
「サツキというのカ? オレはヒースクリフという。皆ヒースと呼ぶカラ、そう呼んでくレ」
「お前は馴れ馴れしくサツキの名前を呼ぶんじゃねぇ」
色気増し増しスマイルで自己紹介されたところで、ヴォルフィが私の前に立って視界を遮った。
不覚にも顔が赤くなりかけてたよ。危ない危ない。
「オレはギルド長ニ呼ばれているガ、ヴォルフもカ?」
「そうだ。サツキもか?」
「えーと、私が伯爵にお願いしたの。会ってみようって話になってたから……」
私が会いたいってお願いしたなんて殺気を撒き散らしてるヴォルフィに言いたくなかったけど、どうせすぐわかることだから正直に言った。
ヴォルフィはものすごく微妙な表情をしてため息をついてから、私の頬に手を伸ばしてきた。
「まだ具合悪いだろ。そんなに急がなくていいのに」
「ごめん。ヴォルフィが昔の仲間と再会を楽しんでるの邪魔したくなかったから、自分のことは自分でしようかと思って……」
「そんなの気にしなくていいから俺に言えよ。昨日もどうしていいかわかんなくて、嫌われたのかと思ってどうしようかと思った」
「ごめん。ほんとごめん。うまく言葉で説明できないんだけど、ヴォルフィのことを嫌いになったわけじゃないから。それは絶対違うから」
「よかった……」
私の心の中に渦巻くドロドロしたものは全く消えてないけど、それをヴォルフィにぶつけて傷つけるのは違うなって、ホッとしている彼の顔を見て思った。
これは私が自分でどうにかしないといけないものだけど、言えることは言って、頼れる部分は頼ろうと思った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
読んでる方も(たぶん)楽しくない、書いている方も楽しくないモヤモヤ嫉妬編はもうすぐ終わりますので、お付き合いいただければ幸いです。




