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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【60】

 小さめの依頼書は雑多な内容で、水路掃除や収穫の手伝い、柵の補修などの日常的な依頼が多かった。たまに護衛依頼もある。


「他のは個人が出してる依頼で、住民の手伝いが多いかな。さっきいたみたいな駆け出しはこういうのを受けつつ、領の外に出て弱い魔獣と戦うところからだな。正直、ここは駆け出しにはやりにくい環境だから、近くの別の街に拠点を移す奴も多いなぁ」

「このへんの護衛の依頼は?」

「それは行商人が出してる依頼だけど、ここにいる冒険者はここから離れたがらない奴が多いから、大体は往復で契約した護衛を連れてるんだ。なにかトラブルでもあって帰りの護衛がいなくなったんだろうな」


 行商人といえば盗賊に襲われて護衛の冒険者が応戦したり、主人公たちが旅の途中で襲われてる商人を助けたりっていうのが私の中の典型的なイメージ。

 本で読んでる時は深く考えてなかったけど、現実に起こったら恐ろしいよね。命はあったとしても、全財産奪われるようなものだもんね……。

 護衛が見つかりますように。


「あれ、薬草採取ってないの? 定番のイメージなんだけど」


 これもラノベの定番のイメージ。

 駆け出し冒険者が受けられる依頼の中で1番冒険者っぽいのが薬草採取じゃない?

 あとは街中のお使いとかドブさらいなんかの肉体労働系でさ。


「この辺りはあんまり薬草は取れないらしい。魔獣の素材を領外に売って、それで薬草とかポーションとか買ってるって聞いたな」

「あんな大きな森があるのに?」

「うーん、大森林とは別というかなんというか。大森林に生えてるような木なら育つけど、あれは食べられるわけじゃないからなぁ」


 ヴォルフィはあんまりよくわかってないようだったけど、気候なんかの問題なのだろう。

 メジャーな薬草は育たなくても、森に生えてる植物に同様の効果があるものもありそうだけどなぁ。まあそのぐらいは誰でも思いつくだろうから既に調べてるんだろうけど。


 資料室みたいなのもあるらしいけど、それはギルドと騎士団の兼用だから別の建物にあるらしい。

 ラノベのギルドに定番の併設した酒場や売店もなかった。飲食や買い物は川の向こうの商店街でやってということらしい。

 もうギルドの建物で見たいものはないので、私たちは昼食がてら商店街の方へ向かうことにした。


 間近で見る川は5m程の幅があり、流れはそれほど急じゃないので泳いでいる魚が見えた。


「あれって普通の魚じゃないの?」

「あれは魚型の魔獣だ。まだ小さいから普通の魚とあまり変わらないが、1年もすればサツキの身長ぐらいになる」


 私の身長は155cm……。スケールが……。


「今のサイズなら食べられそう……」

「サツキは本当に魚が好きなんだな。食べられるような店あったかな……?」


 日本にいたときは魚が特別好きってわけじゃなかったけど、やっぱり食べられないってなると食べたくなるのが人情ですよね。


 川にかかっている橋は幅が広く頑丈な作りで、大人数が一気に渡っても耐えられるようになっているそうだ。

 跳ね橋になっていて、魔獣が伯爵邸を越えて侵入してきた時には跳ね上げて渡れなくするそうだ。


「侵入を防ぐためだけならもっと簡素な橋にして落としてしまうのがいいんだけど、普段から大勢の冒険者たちも通るし物資も運ぶからなぁ」

「馬車も通るんだったら頑丈じゃないと危ないもんね」


 そんな話をしながら橋を渡ると、道沿いにずらっと店が立ち並ぶ。

 お昼時だからかそれなりに人出があるけど、ほとんどが冒険者じゃなく一般人という雰囲気だった。


「もっと冒険者だらけかと思ったら、違うんだね」

「昼は依頼を受けて出払ってるからなぁ。夕方に帰ってきてから酒場に繰り出すのがほとんどだし、夜は冒険者だらけだな」

「あ、そっか」


 農業をしている領民たちは早朝から畑仕事をして、昼は屋台や食堂で買って済ませ、夜は家で過ごすというパターンが多いらしい。

 農業もなくてはならない産業だから、担い手がいなくならないように代々の伯爵が気を配っていて、それなりに余裕のある暮らしができるようになっているらしい。


「ヴォルフィの知ってるお店に連れて行ってよ」

「うーん、俺もほとんど夜にしか行ってなかったから昼はやってるかな……?」


 ヴォルフィが行っていたというお店を何軒か見て回ったけど、昼は営業してなかったり、していても夜とメニューが全然違ったりでピンとくるところはなかった。

 せっかくなので過去のヴォルフィが食べてたものを食べたかったけど、今日はお預けになってしまった。


 仕方ないのでその辺りにいた人に魚料理が食べられるお店を聞いて、そこにやってきた。

 メインストリートから1本入った細い路地に面している、こじんまりしたお店だった。

 魚の形の看板がぶら下がっているので、本当に魚料理推しのお店のようだった。


 扉を開けて中に入ると、にこやかなおばちゃんがカウンターの中に立っていた。お店はテーブル席が2つとカウンター席で、テーブルは両方とも家族連れが座り、カウンターは端の席に男性が一人座っていた。どちらも常連さんのような雰囲気だった。


「2人だが、いいか?」

「いらっしゃい、もちろんだよ。魚料理に興味を示してくれるのは嬉しいね」


 カウンターに並んで座る。


「今日の定食は揚げた白身魚にトマト煮をかけたやつだよ。それでいいかい?」

「ああ、それを2つ頼む」

「あいよ」


 しばらくして出てきた定食は、豪快に揚げた大振りの魚が2切れにトマトソースがたっぷりかかっていた。

 魚の種類もソースに入っている野菜やハーブの種類もよくわからないけど、カラッと揚がった魚にトマトソースの酸味がよく合ってとてもおいしかった。セットのパンでソースもきれいに食べ切った。


「おいしかったー!」

「ああ、そうだな。あれなら魚でも食えるな。まあさっきのは魚と呼んでたけど魔獣だけどな」

「やっぱりそうなんだ……。まあでもおいしいから魔獣でもなんでもいいや」


 お店のおばちゃんも「魚」って呼んでたし、魚だと思えばなんでも魚。

 ご機嫌でお店から出てメインストリートに戻る。


「もう少しこのへんを見てから戻るか?」

「うん、ヴォルフィの行ったことある場所に連れて行って」

「ああ」


 ヴォルフィに手を引かれて進み出した私の耳に、「ヴォルフ!」という華やいだ女性の声が入ってきて、ご機嫌だった気持ちが急速に冷えていくのを感じた。

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