side勇者【7】
俺が玄関に着くと、若い男が旅装を解いていた。
周りから漏れ聞こえる話によると、侯爵領の中で、1番馬を操るのが得意な騎士らしい。
すぐに話を聞くのかと思ったら、俺は呼ばれるまで待っててほしいと応接間に案内された。よくわからないが、先に子爵だけが会うみたいだ。まだるっこしい。
お茶を飲みつつイライラしていたら、ようやく呼ばれて執務室へ入る。
そこには子爵と騎士だけでなく、サツキさんとヴォルフガングがいた。
なんで俺より先に呼ばれてるんだ?
ますますイライラしてくる。
俺は不機嫌さをあまり隠さず、子爵に示されたソファに座った。
「ヤマモト殿、父である侯爵から指示が来た。我々は準備が出来次第、王都に向かって出発する。私とヴォルフとサツキ殿が同行する。
父も急ぎ王都に向けて発つそうだ。王家にはすでに父から使者は立ててあるから、父と合流したらすぐに謁見ということになると思う。
ここから王都までは一週間ほどかかってしまうから、到着したばかりのヤマモト殿には負担が大きいと思うが、よろしく頼みたい」
「わかりました。俺の荷物はこの服ぐらいなので、いつでも行けますよ」
そんな内容なら俺を除け者にする必要ないだろう?という不満を押し殺し、俺はそっけなく了承した。
「ありがたい。すでに準備に取り掛かっているから、明朝に出発の予定だ。それまでは英気を養っておいてほしい。もちろん道中のことは全てこちらで手配するから、ヤマモト殿はゆるりと過ごしてもらいたい」
「ありがとうございます」
それだけ聞かされて、俺は執務室を追い出された。まだ4人で話し合いがあるみたいだ。
俺に関することのはずなのに、全く話の中に入れてもらえない疎外感がますます苛立ちを募らせる。てか、服も着替える必要あったか?
今日の朝まで子爵にはいい印象を持っていたが、綺麗さっぱりなくなってしまい、今はこの侯爵家にモヤモヤしかない。どうせ侯爵も同じような感じなんだろう。とっとと王様に会っておさらばしたいし、なんなら勇者の扱いが悪かったって王様に進言してもいい。
そうだ、そうしよう。あの侯爵家は忠誠心に疑いがありますって進言しよう。
そう決めてスッキリした俺は、なんとなく体を動かしたくなったので、庭をぐるぐる歩き回ったり、簡単な筋トレやストレッチをして過ごした。
翌朝、メイドさんに起こされて、用意されていた服に着替える。なんていうか、冒険者の格好から鎧を取ったみたいな、動きやすいズボンとチュニックだ。靴はブーツが用意されていた。
朝食を食べ、日本の服を袋に詰めたら俺の準備は終了だ。
出発時間になり外へ出ると、黒塗りの高級感あふれる馬車が停まっていた。描かれているのは侯爵家の家紋で、これは侯爵本人やその家族しか使えない馬車なんだそうだ。
そこには俺と子爵が乗り、それとは別に荷物を満載した荷馬車もついてくるそうだ。
馬車の前後左右は馬に乗った騎士が護衛するし、サツキさんとヴォルフガングも護衛に加わるらしい。ヴォルフガングはともかく、サツキさんって護衛が務まるほどの腕なんだろうか?
子爵が出発を命じ、いよいよ王都への旅が始まった。
さすが高級そうな馬車だけあって、来る時に乗った荷馬車とは乗り心地が大違いだ。ふかふかのクッションが最初から設置されているのもあり、振動がほとんどないし音も静かだ。
あとは道が舗装されればいいんだけどな。
馬車の窓を少しだけ開けて外を見ると、サツキさんが危なげなく馬に乗っているのが見えた。またモヤモヤしそうになったから、窓を閉めた。
この狭い空間に子爵と2人というのは息が詰まる。でも、誰が乗ってるかが外から見えるのはよくないらしく、あまり窓は開けないでほしいと言われてしまったから、換気のために細く細くしか開けられない。
王都に向かう道のりはさすがに整備されていて、毎日どこかの街で宿に泊まれたので野営をすることはなかった。
宿も、侯爵家だから最高級の宿の最高級の部屋にしか泊まっていない。おかげで風呂もベッドも快適だ。盗賊や魔獣なんかにも遭遇していないし。
とはいえ、どの街も宿から出られず、道中は馬車から出られずで、ストレスはだいぶ溜まっているけど。
子爵は仕事が終わらなかったようで、馬車の中で書類と格闘してる。いくら揺れが少ないとはいえ、よく酔わないなと感心してしまう。
そんな日々を一週間ほど過ごし、念願の王都に到着した!
だけど俺は相変わらず閉め切った馬車の中にいるから、王都に入る様子も中の景色も何も見れていないのが残念でならない。
まあこれからずっとここにいるんだろうし、いくらでも見て回る機会はあるだろう。
まっすぐ城に向かうのかと思ったら、侯爵家の王都別邸に連れて行かれた。そこで侯爵と合流してから、お城に到着の旨を伝えて謁見の許可を待つらしい。
ようやく馬車から降りて周りを見渡すことができた。
別邸があるのは同じような高位貴族の屋敷が集まっているエリアで、間違いなく王都で1番の高級住宅街になるそうだ。
だいたいどの屋敷もぐるっと柵で囲まれていて、頑丈な門扉がある。敷地の少し奥に屋敷が建っていて、庭はあまり広くなさそうだ。都市のど真ん中だもんな。
玄関の前に別邸の使用人達が勢揃いして俺たちを迎えてくれた。
ここにも執事がいて、それぞれの部屋に案内された。
侯爵はまだ到着していない。なんでも、途中で倒木に道を塞がれているところがあって、迂回したせいで時間がかかってるらしい。
子爵とヴォルフガングとサツキさんはすぐに執務室に篭って出てこない。
門の外には出ないように言われていたので、夕食まで庭を見ようと外に出たけど、狭くて一瞬で終わってしまった。
屋敷の裏手に狭いながらも騎士の鍛錬場があったので剣を振ってみたいとお願いしたけど、怪我をしたら一大事だからといって断られてしまった。ポーション飲めば治るんだからいいだろうって思うんだけど。
この世界には娯楽がなくて俺は常に暇だ。書庫ならあると言われたが、本なんて開いた瞬間に寝てしまう。
何気なくおやつをお願いしてみたら、クッキーとカップケーキみたいなのが運ばれてきた。なかなかおいしそうな見た目だが、食べるとなんていうか素朴というか味が薄いというか、あんまりおいしくなかった。王都でこれなのかよ!?
落胆した俺は、部屋に備え付けてあった紙に再現したい料理を書いていって時間を潰した。食べたい料理は次々出てくるのに、俺が作り方をはっきり知ってるのはフライドポテトぐらいだ。あ、切り方を変えればポテトチップスもできるのか。
サツキさんの料理の腕はよくわかってるから、これから出会う予定の聖女に期待するしかない。料理好きな子でありますように。
その日の夕食の席で、侯爵の到着は明後日になりそうだと言われた。かなり大回りに迂回しないといけないらしい。
そうなると俺は明日も暇を持て余さないといけないので、街を見たいとお願いしてみた。当然のように却下されたが、俺もいいかげんうんざりしているので、「なら勝手に城にいって王様に会ってくる」と言ったら渋々許可された。
護衛兼案内役を同行させ、周囲にも護衛を配置し、さらに俺はカツラをかぶって黒髪を隠さないといけないそうだ。めんどくさいのだが、それよりも暇が嫌なのでそこは妥協した。
いろいろ制限はあるものの、念願の王都が見られると思うとワクワクしてくるな!