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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【58】

「……ヴォルフィ」

「俺が悪い。全部俺が悪い。だからサツキはやりたいようにやればいい」

「いやいや……」


 そっぽを向いて拳を握りしめたまま言われてもねぇ……。


「これがもし逆で、ヴォルフィが女性の冒険者と組んで依頼を受けろって言われてたら私だって嫌だから、私がヒースさんって人と組まされるのを嫌がるのはおかしくないと思うよ」

「……だけど、伯爵はそうしろって言った」


「その伯爵の予言だって、私はよく知らないから守らなくてもいいんじゃないって思うけど違うの? 予言とか占いは不幸や不運を回避するためのものであって、それを守ることがイコール不幸なら守らなくてもいいと思うんだけど」

「いや、俺もヒースも他にも何人もの冒険者や騎士がそれで命を救われてる。だから言われた通りにした方がいい。本当かどうか分からないが、伯爵の勘はこの地の守護神の祝福だと言われている」


 私が漠然と予想してた以上に、伯爵の勘はすごいもののようだった。

 伯爵を鑑定したらわかるかも……。でも人を鑑定するのは個人情報を丸裸にするようなイメージで、現代日本から来た私にはものすごく抵抗がある。もちろん勝手にはやらないけど、本人に見ていいって言われてもね……。


「まあ伯爵の勘のすごさはどっちでもよくて、ヴォルフィが嫌がることをやるかどうかが私には問題なんだよね」

「……だけど伯爵は俺の意見じゃなくてサツキの意見を聞けって言ってた。俺が嫌かどうかなんて関係ないってことだろ」


 うーん、困ったなぁ。完全に拗ねた子どもみたいになってる。


「前にも言ったけど、私にもこうしたいしたくないって気持ちはあるから、それは尊重してほしいとは思う。でもCランク冒険者になるっていうのは私の希望じゃないから、正直どっちでもいいの。影月と櫻月の話の時とは同じじゃないよ」


 影月と櫻月は使いたいっていう明確な願望が私にあって、なのに勝手に遠ざけようとされたから拒否反応を示した。

 冒険者はラノベのイメージで漠然とした憧れがあっただけだから、そこまで固執してるわけじゃない。ヴォルフィと生きていけるなら他の職業でも別にいい。


「それに、ここには私の知らないヴォルフィがたくさんいて不安だから離れたくないかな……。伯爵もフリーデグントさんもヒースさんも、他の冒険者もみんな昔のヴォルフィを知ってて、でも私だけはそれを知らないから。それが不安だし……嫉妬しちゃう」


 ここに来てからたびたび私を苛む胸の痛み。それが嫉妬であることはわかっていたけど、同時にどうしようもないものであることもわかっていた。

 日本にいた時の私をヴォルフィが知らないように、私も出会う前のヴォルフィを知らない。それは当たり前のことなはずなのに、ここで私だけが知らないんだと思うと際限なく嫉妬と不安が湧き上がってきそうになる。


「……。サツキが嫌なら滞在中は誰とも会わないようにするし、明日にでもここを発ってもいい」


 どことなく嬉しそうな表情で、私の顔を覗き込みながらそんなことを言ってくる。

 嫉妬を感じている私の女心は昏い喜びに満たされていくけど、でもそれでこの不安がなくなるわけではないことも冷静な部分で理解している。


「そうしてほしい気持ちもあるけど、でもせっかく懐かしい場所に来たんだから昔馴染みがいるなら会った方がいいよ。まあでも、女の人にはあんまり会わないでほしいのが本音だけど……」


 最後の方は口の中でゴニョゴニョする感じになった。

 こんな重い女みたいなこと言いたくないけど、でもフリーデグントさんにさえ嫉妬を感じてしまう今の私が我慢できる気がしない。


 フリーデグントさんがヴォルフィを見る目は弟や息子を見るような感じで、「元気でいてよかった」という以上のものはなかった。それでも胸が痛むんだから、もっとあからさまに好意を見せてくる女が出てきたら冷静でいられる自信がない。そんな人が私の知らない過去の話をし出してふたりで盛り上がり出したら……やばい、考えるだけで泣きそう。


「ああ、そうする。女には会わないし、サツキに寂しい思いもさせない。昔行ってた場所に一緒に行こう。それでいいか?」


 ものすごく嬉しそうに私を抱き寄せ、キスしながら言われた。

 ヴォルフィの喜ぶツボにそこはかとなく危ないものを感じつつ、だけどそれ以上に重い女と思われなかったことにホッとした。


「うん、昔のヴォルフィのことも知りたい」

「ああ、いくらでも」


 しばらく無言で抱き合ってたけど、ヴォルフィが諦めたようなため息をついた。


「やっぱりヒースには会わせたくないけど会うべきだな……。あいつはハーフエルフだから、その剣のこととかあのエルフのことを話すには最適だとは思ってたんだ。女好きなのも本当だから気は進まないが、でもサツキはその剣が使いたいんだもんな」


 アウルヴァングルさんのところで言っていた「知り合いのハーフエルフ」というのはヒースさんのことだったみたい。

 ものすごく嫌そうな気配がビリビリと伝わってくるけど……。


「昔のヴォルフィのことをよく知ってる人なら昔話は聞いてみたいけど、イザベラさんのことまで聞く必要あるかな? イザベラさんにもらったメモをちゃんと読んで、また本人にも会いに行ったらいいんじゃないの?」

「いや、マナを体内に取り込むとかその辺の話は知ってるかどうか聞いておきたい。あいつならそれが人間にとって有害かどうかも知ってるかもしれないし」


 ああ、そうだった。本当に次々といろんなことが起こりすぎて、消化できていないことが山積みになってきている。そのことを考えると余計にストレスになるから考えないようにしてるけど、どこかで山積みをなんとかしないと私の心の方にくるかもしれない……。

 という漠然としたモヤモヤを心の中に押し込み、私はわざと明るくヴォルフィに笑いかけた。


「じゃあヒースさんに会って、その話はしよう。その時の話の内容とか私のヒースさんの印象も踏まえて、伯爵の勘に従うか決めよう」

「そうだな……。そうしよう」


 ため息混じりではあったものの、ヴォルフィも了承してくれた。

 とりあえず方針が決まったので、私たちはヒースさんを探しに行くことにした。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 申し訳ありませんが、都合により11月13日(水)の更新はお休みいたします。次は15日(金)になりますので、よろしくお願いします。

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