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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【53】

 伯爵邸に向かって、領地を貫くように走るメインストリートを馬車で走る。

 領内に入る関所を抜けてすぐ、ツヴァイさんが先触れとして伯爵邸に向かったので、私たちはのんびりと進んでいる。


 関所を抜けたあたりのエリアは、簡素な露天や屋台が多く立ち並ぶ市場のようになっていた。

 ここは領外からやってきた商人たちが入れ替わり立ち替わり店を出し、仕入れもしてまた次の場所へ行くのだそう。だから簡素な露天でも珍しいものや意外と高級品も売っていてバカにならず、商人ギルドの警備員と騎士たちがかなり厳しく警備をしているそうだ。

 この辺りはもともと市場のための場所ではなかったけど、魔獣を恐れて領地の奥へ行きたがらない行商人たちが自然発生的に店を構え始めたので、ある時点で市場エリアにしてきっちり管理し出したんだそう。

 ちなみに、関所に配属される騎士にはこのエリアの警備人員も含まれてるんだそう。


 そのエリアを抜けると、畑が広がりその間に民家が点在している。民家も石造の強固そうな家がほとんどだ。


 畑エリアを通り過ぎると、建物が密集している地帯に入る。建物はだいたい商店だそう。畑エリアに近い方には食料品や生活用品を扱う店が多く、伯爵邸に近い方には冒険者向けの食堂や酒場、武器・防具・アイテムなんかを扱う店が多いらしい。

 このエリアは裏通りに入ると娼館や、いわゆる連れ込み宿なんかもあるらしい。活気はあるけど、夜はちょっと治安が悪くなる地域。と言っても、畑を耕して暮らしている領民は暗くなると早々に寝て早朝から働くので、夜にこの辺をウロウロするのは冒険者か露天を出してる行商人がほとんどだそう。


 商店エリアを抜けると道を横切るように川があり、橋がかかっていた。

 これはもともとある川で、天然の堀として生かしているそうだ。気づかなかったけど畑エリアまで水路が何本か引かれていて、農業用水にも使っているそう。


「川に魔獣は出ないの?」

「出るぞ。だから水棲の魔獣を狩りたい冒険者は川沿いにいるか、川を遡って大森林の境目あたりをよく狙ってるな。大森林との境目は効率はいいが陸の魔獣も出るから難易度は上がる」

「川の魔獣ってやっぱり魚みたいな感じ?」

「そうだな。あとはエビみたいなのとか貝みたいなのもいるな。俺はあんまり川の方には行ってないから、名前はよく知らないが」

「ふーん。それ食べれるの?」


 こっちの世界に来てからあんまり魚介類を食べていないので、恋しくなってきている。それに、イザベラさんとの会話でおにぎりを思い出しちゃったから、和食全般が恋しい。刺身は諦めてるけど焼き魚なら可能性はあると思うんだけど。


「だいたいは食べれるが、この辺りではどちらかというとゲテモノ扱いだぞ……」

「あ、そうなの?元の世界では魚介類もよく食べてたから食べたいなーって。別に魔獣じゃなくて普通の魚とか貝でいいんだけど」


 冷蔵や冷凍技術がないから、地域地域で食べるものが大きく変わるみたいだね。海沿いの地域に行けば海産物が食べられるのかな。


「普通の魚は水路の方で釣ってる奴を見たことはあるな。だがあれは近くの畑の農民だったから、自分たちで食べるんだろうな。魔獣の方なら売ってる店があると思う。後で伯爵にもお願いしてみよう」

「うん、お願い」


 釣ってる人から買い取ればいいのかもしれないけど、それを勝手にやっていいのかもよくわからないからまずは伯爵に相談だね。

 あぁ、シーフードパスタとか食べたいなぁ。そういえば麺類ってあったっけ?


 それを聞こうとしたところで、伯爵邸についたと声をかけられた。


 領地側もちゃんと城壁になっているけど、それは魔獣がここを越えて領地に侵入するのを防ぐためのもので、領地側から伯爵邸への侵入を警戒して築いたものではないそうだ。

 ここまで徹底されていると清々しく感じる。

 価値のある財産や証書の類は行政館に置いてあるそうで、あっちには対人戦闘の訓練を受けた騎士たちが配置されて守っているらしい。


 私たちがやって来た門は伯爵の関係者や来客が通るための門で、騎士が門番をしていて空いていた。

 離れたところにある別の門が冒険者用の門で、そちらは遠目に見ても人がたくさんいるのが見えた。冒険者も伯爵邸に住んでいるというのが不思議に感じる(正確には敷地内にある宿泊施設だけど)。


「冒険者に紛れて密偵とか暗殺者が入ってこないの?」

「そりゃ、いるだろ」


 当たり前のように言われたけど、そういうもの?


「どこの領主も大なり小なり密偵は抱えてるもんだろ。それで出し抜かれたら相手の方が上手だったってことだ」

「まあそうか。じゃあ侯爵家(うち)にもいるんだよね、そういう人」

「……まあ、そうだな」


 メアリもいるしこれ以上深掘りするべきじゃないと思ったので、そこで聞くのはやめておいた。知る必要が出てきたら誰かが教えてくれるでしょう。まあでも、なんとなく想像はついてるんだけどね。


 ついでに言うと、この旅のメンバーの中ではツヴァイさんはそっちの人だと思う。騎士として活動してるのがどこまでのカモフラージュかわかんないけど、マルクスさんやライデンさんとはちょっと違う立ち位置にいると思う。そしてたぶん、本人にあまり隠す気もないんだと思う。それがどうしてなのかはわかんないけど。


 要塞の前に到着したので、ヴォルフィの手を借りて馬車から降りる。


 扉の前に、ツヴァイさんを従えた大男が立っていた。

 髭を生やし、左頬に大きな傷跡が走る厳しい顔つき。手入れはされつつもいかにも使い込まれた防具を身に付け、背中には私の身長ぐらいの大きな剣を背負っている。

 圧倒的な強者のオーラを纏った壮年の男性。あれがシュナイツァー伯爵のようだ。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 今日から隔日奇数日更新に戻りますので、よろしくお願いします。

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