side巻き込まれ薬師【52】
魔剣として使うためには起動するための呪文を唱える必要があって、それまではただの剣としてしか使えないそうだ。
私が呪文を唱えずに影月の力を借りていたのは、おそらく影月の魔剣としての能力ではなく私の魔法を影月が補助していたのだろうと、イザベラさんは考察している。
その辺は正解がわかるものじゃないので置いておいて、重要なのは魔剣としての起動の呪文だ。
『それぞれの名を呼び、バットウと唱えること』
バットウ、つまり抜刀らしい。意味はわかるけど、なんか恥ずかしいなぁ。心の中で唱えるんじゃダメなのかな……。
「これはどういう意味なんだ?サツキの世界の言葉だろ」
「あー、それは刀を鞘から抜くって意味だね」
「……鞘から抜くときに唱えるとは決まってないのにか?」
「うーん、そこは単なるイメージじゃないかな」
剣としては鞘から抜く時が抜刀だけど、魔剣としては呪文を唱えた時が抜刀だよ、的な?
ここで1枚目は終わっている。読み疲れたし、まだまだ枚数はあるから今日はここまででいいや。
「ねえ、魔剣ってよくあるの?」
「……それはどこまで魔剣と呼ぶかによるな。例えば俺が今持ってる剣に付与をして属性を持たせたとして、それを魔剣と呼ぶかどうかは人によって分かれる。それを魔剣と認めない者にとっては、魔剣というのはダンジョンや遺跡から発見さるもので作れるものではないってことになる。確かに発見されたものの方が性能はいいらしい」
いるよね、そういう古いものをやたらと珍重する人。古いものの方が優れてる場合も多いから間違ってるとも言えないけど。
「ヴォルフィは見つけたことないの?」
「ある。あるけど、それは両手剣で俺の戦い方に合わないから売ったな」
ヴォルフィは片手で長剣を持って片手で魔法を使うイメージだから、両手が塞がるのはやりにくいんだろう。
「それってやっぱり宝箱に入ってたりするの?」
ダンジョンで宝箱ってファンタジーの定番だよね!
「いや、それはダンジョンの1番奥で岩に刺さってたのを抜いた」
「……………………」
なんかアーサー王がエクスカリバーを抜いたような話ですね。それは剣に選ばれた人だけが抜ける系のやつではないのかい?
「……それ普通に売れたの?」
「あー、なんかギルド長とかそこの領主も絡んできてややこしかったな。最終的に領主のものになって、なんかいろいろ報奨金とかもらった気がする」
「……………………」
絶対それは名のある剣だったと思うよ!
でもヴォルフィの表情は心底興味なさげで、彼にとっての冒険者は生きるための手段でしかなく、浪漫が介在する余地はないんだなってのを感じた。
そうだね、命懸けなんだからゲームみたいな気持ちでやっちゃダメだよね。まあでも、ちょっぴりの浪漫は大目に見てほしいところだけど。
「使いやすいサイズの魔剣だったらほしいと思う?」
「属性にもよるなぁ。風だったら俺の魔法とかぶるからいらない」
「そっかぁ」
ヴォルフィの返答はどこまでも現実的だった。
「ふわぁ」
翻訳機能を使って文章を読むと普通に日本語を読むだけより頭が疲れるので、急激に眠気が襲ってきてあくびが出た。
「眠いのか?」
「うん」
半分寝落ちしながら返事をすると急に視界が高くなった。抱き上げられたと気づくと同時に、安心して眠りに引き摺り込まれていった。
その直前、「はあ、今日は我慢するか。明日は読ませたらダメだな」という独り言が聞こえた気がした。
翌日からも旅は順調に進んでいった。
道も整備された街道に出たので倒木とか魔獣に悩まされることもなく、毎日街の高級宿で快適に過ごしながらの旅だった。
イザベラさんの手記を読んで寝落ちした翌日も翌々日も、続きを読もうとしたら問答無用で寝室に連れて行かれて読めず、朝になって怒ったら「昼間読んで」って言われた。
昼間っていっても馬車の中では酔うから無理だし、休憩で外に出た時もそんなに長い時間じゃないから落ち着いて読めないし、全く読み進まない。という問題は起こっているけども!
ちょっとイライラしてきたから当て付けをしてやろうかと画策していたら、明日にはシュナイツァー伯爵領に入ると言われた。
いよいよ到着か!それで気分が上がったのもあって、当て付けは保留!
シュナイツァー伯爵領もモンテス子爵領みたいに山ばっかりな地形をイメージしていたら、ちょっと違った。
開けた平地に畑と民家が点在している向こうに大森林があり、その森から峻険な山脈が聳え立っている。山脈の途中までは森が続いているようで緑色をしているけど、中腹から上は白っぽい色をしている。あの辺が森林限界ってやつなんだと思う。
山の頂は雲の中で、見ることができない。
神のおわす山、そんな言葉が浮かんだ。きっと元の世界にあったら聖地として恐れられたであろう、厳しくて神々しい光景だった。
伯爵邸を始めとする人間たちの営みはすべて平地の部分で行われているそうだ。
大森林に一歩入るとそこは魔境。強力な魔獣がゴロゴロと出るうえに方向感覚も狂いやすいという。方位磁針のような魔道具も作られたけど、それも森の中ではまともに機能しなかったらしい。
基本的に大森林から出てくる魔獣を倒しつつ、森の浅いところまでは入ることもあるそうだ。
森と平地を隔てるように堀と強固な城壁が続いており、そのすぐ近くに伯爵邸があった。それは邸でも城でもなく、要塞と呼ぶのがふさわしい。
城壁と同じように強固な石で築かれていて、規則的に並んでいる穴は窓というより狭間なんだろう。
どう見ても居住性が悪そうな要塞が伯爵邸であるという事実に、ここでは本当に戦いが日常なんだと実感した。
「伯爵自身があんな最前線に住んでるの?」
「まあここは特別だからな。あそこは冒険者ギルドと宿泊施設も兼ねてるし、騎士団の駐屯地でもある。城壁が破られたらこの領地は一瞬で壊滅するってことを代々の伯爵が理解してるし、伯爵自身も前線で戦える実力がないと認められない」
なるほど。だけどそれだと領主が討ち死にすることも多いんじゃないだろうか。内政の方は大丈夫なのか気になってしまう。
それをヴォルフィに聞くと、内政の中心は伯爵邸から平地を挟んだ位置、つまり大森林から見て領地の1番奥に当たる場所にある行政館になるそうだ。
その行政館だけ独立した状態で堀と城壁に囲まれていて、もしも街中に魔獣が侵入してしまった時の避難場所を兼ねているらしい。
そして内政を行うのは伯爵夫人だったり伯爵の兄弟姉妹だったりで、とにかく伯爵自身は最前線で戦うことを求められるのだそう。
そんな厳しい場所であることを聞いて、私は不安を抑えながらシュナイツァー伯爵領へと足を踏み入れたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
10月は「奇数日に隔日で更新」でやってきましたが、奇数日を優先することにしたので明日も更新いたします!
(なぜならその方が作者が覚えやすいからです……)
そこからはまた隔日に戻りますので、よろしくお願いします。




