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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【50】

 意識がふっと浮上し、重たい瞼を無理矢理開くと目の前にヴォルフィの寝顔があった。


 そういえば、寝顔って初めて見る気がするなぁ。

 いつも私より先に目を覚ましてるから、なんか新鮮だわ。


 起きてる時はもっと大人びて見えるけど寝顔は少年っぽくて、日本だったら大学生ぐらいの歳なんだということを改めて思い出した。

 頭を撫でたい衝動に駆られつつ、だけどちょっとでも動いたら起きちゃうという確信があったので、息を潜めるように寝顔を眺めていた。

 洞窟の中に作られたこの部屋には窓がなく、もう朝なのかまだ夜なのかがはっきりわからない。体感ではもう早朝な気はするけど。


 どれぐらい経っただろう。さすがにこわばった体を動かそうかと思った時に、ヴォルフィの瞼がゆっくり開いた。


「おはよう、ヴォルフィ」

「……おはよう」


 寝ぼけてぼんやりした顔もとても新鮮だ。思わずふにゃふにゃ笑いながら見つめてしまう。


「……どうした?」

「ヴォルフィの寝顔も寝ぼけてるのも初めて見たから新鮮だなって思って」

「うん、そうか……」


 ダメだこりゃ。でもさすがにここまでいつもと違うと心配になってきちゃうな。


「大丈夫?調子悪いの?」

「あー、いや、そんなことはない」

「そう?ならいいけど、回復魔法もあるからね」

「……なんていうか、気が抜けた。嫉妬しまくってるのも不安に思ってるのもサツキには知られたくなくて、でもバレて、それでもサツキは気にしないんだって思ったら安心した。夜も、何回も俺のこと大好きとか愛してるって言ってて安心した」


 そう言うヴォルフィの瞼は半分閉じかけたままで、寝ぼけながら口走った本音なんだろうなぁと思う。

 安心できたならいいことだけど、その、抱かれて夢中になってた時のことを冷静な時に聞くと恥ずかしくて困るよね!


 ヴォルフィは私を抱き込むと、これまた珍しく二度寝の態勢に入った。


 私がいつか日本に帰るかもしれないって、ずっと不安だったんだろうなぁ。

 でも、聞きたくても聞けないから、ひとりで抱えてたんだろうなぁ。

 もし聞いて、私が「帰りたい」って言ったらより一層ショックだもんね。

 その不安が解消したなら本当によかった。


 でも私は早く影月で自分を回復したいです。身体中がギシギシで辛いです。

 そう思いながら私も体を擦り寄せて二度寝を堪能したのでした。



 朝食は気を使われてたのか部屋に運ばれてきて、通常運転に戻ったヴォルフィがテキパキ対応してくれた。

 影月で自分の回復をすることにヴォルフィは微妙な顔をしていたけど、回復しないとまともに動けないし、ポーションをこんなことに使うものじゃないって説得した。

 というわけで影月にお願いしてサクッと回復してから朝食をとり、身支度を整えたらもう出発の時間だ。


 アウルヴァングルさん、フリッグさん、ラーズスヴァリさんが里の出入り口の扉まで見送りに来てくれた。


「お世話になり、ありがとうございました」

「サツキ殿、ヴォルフガング殿、そなたらが長く健勝であることを願っておる。いつでも参られよ」

「ありがとうございます」


 それから侯爵への親書を渡され、食べ物もたくさん持たせてくれた。


「ヴォルフガング殿のカバンはマジックバッグと見受けたのでな。入らねば置いていってくれ」

「全て入りますので、ありがたくいただきます。父への手紙もお預かりします」

「うむ、よろしく頼む」


 私の収納スキルのことは言っていないので、素知らぬ顔でヴォルフィのカバンに荷物を収めた。


 イザベラさんは草原の異空間まで一緒に来てくれるので3人で通路を進み、石の壁に不自然に嵌め込まれた粗末な引き戸を潜るとあの小屋だった。


「サツキ、これは妾がわかる範囲で影月と櫻月について書いたものじゃ。人間の言葉で書いたゆえ読めるであろう。本来であれば直接に教えてやりたいところじゃがいたしかたない」

「ありがとうございます。できるだけ自分で取り組んでみますが、また助言を求めに来るかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「もちろんじゃ。……人の子の時間は短いのじゃから、妾の都合など気にせず来るがよい。用がなくても構わぬ」


 きっと刀ともお別れしたいだろうと思って、収納から影月と櫻月を取り出して台の上に置いた。

 イザベラさんは二振りとも鞘から抜いて、愛おしむように刀身を撫でている。


「……おそらく俺の父とここの里長の間で交易がはじまるだろう。あんたもその使者に混じって来ればいい。サツキも喜ぶし、俺も……まあ、歓迎する」


 最後だけめちゃくちゃ小さい声で言っていたけど、イザベラさんにはしっかり聞こえていたようだ。蕾が綻ぶような笑顔を見せてくれた。


「のう、サツキ。お主はニギリメシというものを知っておるか?」

「はい。私はおにぎりと呼びますが、知っています」

「そうか。……カンがな、妾がカンと同じところへ行った時に食わせくれるそうじゃ。まあ、そんな日はいつになるかわからんがな。じゃからサツキが代わりに作ってくれんか?」


 おにぎり自体は簡単に作れるけど、まず米がこの世界にあるだろうか? 私もそろそろお米が恋しくなってきたから、見つけたいところではあるけど。

 それに、一貫斎さんとのそんな大切な約束を私が横取りしてしまうのも気が引ける。


「材料になる穀物があればできるので、あるかどうか探してみます。でも、もし見つけられてもおにぎり……握り飯は一貫斎さんに任せますね。私は握り飯になる前の状態をイザベラ様にご馳走します」

「それはオマンマというものかえ? オマンマを握ったものがニギリメシというそうじゃな」

「そうです。いろんな呼び方がありますが、おまんまとも呼びます」

「……そうか、それは楽しみなことじゃ。よろしく頼むぞ。さて、そろそろお主らの供の者達のところへゆかねばなるまい」

「はい。次は私のいた世界のお話もしますね」


 結局昨夜はあまり日本の話をできなかったし、イザベラさんの話も聞けなかった。

 なんとなく別れ難いけど、私たちは日程がカツカツの旅の途中だから今は先に進まないといけない。


 私が影月と櫻月を収納にしまうのを見届けると、イザベラさんは草原に繋がる方の引き戸を開けた。

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