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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【49】

「イザベラが槌を振るうことは二度とないじゃろう。ワシらは事情をわかっておるからそれで構わんし、かつてイザベラが行った仕事に敬意を持っておる。だが、世代が変わっていくとそうもいかんじゃろう。若いモンの中にはエルフが里にいることを面白くないと思っておる者もいる。今はワシの、里長の友人ということで黙らせておるがな」


 アウルヴァングルさんはちびちびとお酒を口に運びながら、語り続ける。その目は私たちではなく遠い昔を見つめていた。


「イザベラが望む望まないに関わらず、ここに今までのように居れぬようになる日が来る。カン殿の墓もイザベラの住処も洞窟の外にあるゆえ、そこを結界なり空間魔法なりで閉ざしてしまえば里の者に煩わされることなく過ごすことはできる。じゃが、それはよくない。孤独は、誰であっても蝕むだろう」


 はるか昔に死んでしまった恋人のことだけを考えて、たったひとりで永遠に生きる。

 それは考えただけでゾッとするし、もし自分がそうなったとしたらまともな精神状態でいられる自信はない。

 アウルヴァングルさんが何を危惧しているのかはっきりわかった。


「サツキ殿に頼みたいのは、イザベラと友人でいてやってほしいというそれだけだ。ワシがおるうちは責任を持ってイザベラを庇護しよう。だが、もしイザベラがどこかに行こうと思った時に訪ねて行ける場所を作っておいてやりたいのだ」


 それは断る理由もない。

 出会ってから間もないけど、冷たそうに見えて面倒見がよく、だけど自分はずっと迷子のようになっているイザベラさんに私は好感を持っている。

 それに、私はまだこの世界に親しい同性がいないから友人になれるなら嬉しい。

 だけど、ひとつ重大な問題もある。


「私もイザベラ様と友人でありたいと思ってますので、お力になりたいと思います。ですが、私たちの寿命はとても短いので、アウルヴァングル様より先に尽きるかもしれません。そうなったら余計にイザベラ様を悲しませてしまうんじゃないでしょうか」


 それがなにより気がかりだ。せっかく新しい交友関係を広げようと思った矢先に相手が死んだら、より一層うちに閉じこもってしまうんじゃないかと思う。


「それも承知しておる。それゆえにヴォルフガング殿の父君との交易を持ちかけたのだ。定期的な行き来が生まれ、その使者にイザベラを加えれば人間の時間感覚で交流できるだろう。まあもちろん、新たな販路を開拓したいという里長としての考えもあるがな」


 やはり交易の話はイザベラさんのことを考えたものだった。


「それが叶うかは父の判断になりますが、俺も力添えはしたいと思います」


 予想外に前向きなヴォルフィの言葉にビックリして、あんぐりと口を開けて見つめてしまった。私の表情に気づいたヴォルフィがバツが悪そうに頭を掻く。


「知り合いのハーフエルフが言っていたんだが、エルフは変化を嫌うそうだ。嫌うというか苦手としているって言ってたかな。だからあの人もほっといたらずっとあのままなんだろ。それに、ドワーフの里と交易できるのは悪い話じゃないし、そのついでにあの人が来て、それでサツキが喜ぶならまあいいんじゃないのか」


 照れたように言い訳感満載なのがすごくかわいい。そしてうれしい。ついさっきまで嫉妬を撒き散らしていた人と同一人物とは思えない。

 アウルヴァングルさんも微笑ましいものを見るような顔をしている。

 それに気づいたヴォルフィがますます居心地悪そうにに顔を赤くしている。


「そなたらも互いによい出逢いであったようで、よきことだ。イザベラのこともよろしく頼む」

「はい、もちろんです」


 ヴォルフィも頷いている。

 アウルヴァングルさんが私とヴォルフィの仲を褒めるのはわざとやってると思うの。そうするとヴォルフィの機嫌が格段によくなって扱いやすくなるから。

 老齢なドワーフからしたら私たちなんて幼子みたいなものだろうしね。ま、今回は手の上で転がされても悪い話じゃないからいいんだけど。



 そこでお開きになって、泊まる部屋に戻った。

 イザベラさんのことをぼんやり考えていた私は、扉が閉まるなりヴォルフィに後ろから抱きしめられてビックリした。


「なあ、俺ちゃんとサツキの望みを聞いたからご褒美もらってもいいだろ?」


 耳元で囁くように言われてゾクゾクしてしまう。

 望みってなんだっけ? ご褒美って? ああダメだ、考えがまとまらない。


「あとでって約束してたもんな」


 はっ、そういえば夕食に行く時にそんなこと言ってたわ!

 その後の情報がまた盛り沢山ですっかり忘れてた……。


 無理矢理振り返ってヴォルフィの顔を見ると、緑の瞳に炎が燃え上がっていた。

 その瞳、ダメなんです。弱いんです。

 一瞬で捕らわれてしまった私は、自分で立てたフラグを夜中までかかって回収する羽目になったのでした。

 いつもお読みいただきありがとうございます!

 区切りの関係で短めになってます。

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