side巻き込まれ薬師【48】
迎えのドワーフに連れられ、広い食堂へやってきた。
ここも洞窟の中だから周りは岩なんだけど、天井から美しいシャンデリアが下がっていたり、精緻な彫刻が施された柱が建ててあったり、とにかくドワーフの技術の高さを感じさせる装飾が配置されていてとても豪華だ。
ただ、どうしても私の目には薄暗いから、できるなら近づいて見て回りたいところ。
宴と言いつつも大人数で騒ぐ感じではなく、私とヴォルフィにイザベラさん、アウルヴァングルさんと奥さんのフリッグさん、息子のラーズスヴァリさんの6人だった。
フリッグさんは髭もなく体型も女性だからわかるけど、アウルヴァングルさんとラーズスヴァリさんの親子はどっちがどっちかわからない。
周囲には護衛のような給仕のドワーフが数人配置されている。
「改めてイザベラの友人たちを歓迎しよう。人間の好みに合うかわからんが、楽しんでくれ」
「お招きいただきありがとうございます」
最初に注がれたなにかの蒸留酒は匂いを嗅いだだけでもめちゃくちゃキツくて、すぐにヴォルフィに取り上げられた。
給仕さんに目配せして果実水で薄めに薄めたお酒をもらってくれたので、それをちょびちょびと飲むことにする。
こっちの世界のお酒はやたらと強い気がする。元の世界ではワインなんて普通に何杯も飲んでたのに、こっちではすぐに酔っちゃったし。ワインなら同じだと思うのに。
そのせいで心配性のヴォルフィにほとんどお酒を飲ませてもらえなくてつまらない。
まあでも、今日は酔って失態を晒すわけにはいかないから大人しくしておくけど。
料理は、調理法は塩を振って焼いた!みたいなシンプルなものなのに、野菜も肉もカービングっていうんだっけ?これまた美しい彫刻のように装飾されていて食べるのがもったいない。
野菜や果物は日本でもみたことあるけど、肉にまで装飾できるのはさすがドワーフの技術力ってことなんだろう。
「して、サツキ殿。そなたはカン殿と同じ世界から迷い込んで来られたとか」
「はい、そうです」
私は差し支えない範囲でこれまでのことを説明した。
「それは難儀であったな。しかし、よき出会いもあったようでなによりだ」
そう言ってチラリとヴォルフィを見るアウルヴァングルさん。「よき出会い」と言われたヴォルフィは満更でもなさそうな表情をしているけど、内心かなりご機嫌だと思う。
「イザベラよ、カン殿のことはどこまで話しておる?」
「む、それほどのことは話しておらぬ。未だもって、妾はあやつのことを語れるほど理解しておるとは言えんでのう」
「……そうか。ならばワシからも多くは語らんが、これだけは言える。カン殿はよき鍛治師で、よき男であった。その最後の仕事をイザベラがそなたに託したそうだな」
「はい」
「できたものの使い方を職人が細かく詮索するものでもないが、同じく鍛治に携わる者として叶うなら敬意を持って扱ってやってほしいと願う」
「もちろんです」
一貫斎さんはこの里でとても愛されていたようだ。勝手に仲間意識を持っている私は、それを聞いてとても安心したのだった。
話をしていくうちに、この里はモンテス子爵領からそんなに離れていないことがわかった。というか、位置関係で言うと進行方向から若干来た方に戻ってしまっているみたいだ。
「ほう、ヴォルフガング殿の父君は西の方に領地をお持ちか。あのあたりには同族の大きな里はなかったはずだ。ドワーフとの交易はおありか?」
「いえ、ないはずです。領内にドワーフの職人はいますが」
「そうか。ならばワシの里と父君の間で交易を考えてもよいな。親書を用意するゆえ、お渡し願えるか」
「承りました」
魔道具の話はしてないけど、これからも開発や量産がどんどん進むはずだからドワーフとの繋がりは願ってもない話だろう。
だけど、アウルヴァングルさんが交易の話を持ち出したのは、なんとなく利益のためというよりもイザベラさんのためな気がした。
その後はフリッグさんとラーズスヴァリさんも話に入ってきて、この里の暮らしなんかの話を聞かせてもらった。
ここはドワーフの里としては中規模で、鍛治や細工を生業としているそう。信用のおける人間と交易して食料なんかを用立てているそうだ。
里の場所はもともと認識阻害をかけてわからなくしていたところに、さらにイザベラさんの魔法を重ねて完全なる隠れ里状態になっているんだとか。
「そなたたちはイザベラの友人として招いたが、この里のことは外で話してくれるなよ」
「もちろんです」
そうして宴はお開きになり、イザベラさんは外にあるという住処に帰っていった。
私とヴォルフィも部屋に戻ろうと食堂を出かけたところで、アウルヴァングルさんに呼び止められた。
「もう少しだけよいかな」
ヴォルフィを見ると頷いてくれたので了承の意を示した。
「すまぬな。場所を移そう」
そう言って案内されたのは、こじんまりした居間だった。
家具や壁には控えめながらも精緻な装飾が施されていて、重厚さと華やかさが絶妙なバランスを保った空間だった。
アウルヴァングルさんとヴォルフィはお酒を、私は果実水を用意してもらった。
「話したかったのはイザベラのことだ」
「はい」
まあそうだろうとは思っていた。
隣のヴォルフィはまだ思うところがあるのか、ピクリと反応していた。
「サツキ殿は、イザベラとカン殿のことをどう思っておるか?」
「そうですね、深い絆を感じます。少なくともイザベラ様は一貫斎さんのことを特別に思っておられますよね。一貫斎さんの気持ちがどうだったのかはわかりませんが、相槌をお願いしたということは信頼しておられたんだと思います。それが恋愛感情だったのかはわかりません。……という印象です」
「概ねその通りだ。ワシが気にしておるのはな、イザベラは自分の気持ちがなんであるのか自覚しておらんことだ。ワシからしたらあれは愛している以外の何物でもないように思えるが、本人はそれに気付いていないのか、気付かないふりをしているのか……」
それは私にもそう見えるけど、でも恋心ってのは一筋縄じゃ行かないから仕方がないじゃないかとも思う。
「カン殿が死んでから結構な年月が経っておる。もちろんエルフであるイザベラにとっては大した時間ではないだろう。だがな、ワシらドワーフの寿命はそこまでではないのだ。それは知っておるか?」
「150年から200年ぐらいだと聞いています」
ヴォルフィが代わりに答えてくれた。私のファンタジーの知識と変わらないようだ。
「そうだ。ワシをはじめ、カン殿のことを知っている仲間たちもそろそろ年老いてきて、先日ひとり神の炉へ招かれて行きおった」
アウルヴァングルさんはしんみりとした表情で、お酒を口に運んだ。
後で聞いたことだけど、鍛治を行うドワーフは死後に鍛治神の御許に招かれると信じられているそうだ。そしてそれを「神の炉へ招かれる」と表現するそうだ。
もちろん鍛治をしないドワーフもいるわけで、そちらは「安息の地」と呼ばれる楽園のようなところに行くらしい。鍛治師のドワーフは死後も働くのか……。
「ワシらが全員いなくなっても、イザベラは今と変わらぬ行き場のない気持ちを抱えておるのかと思うと、それがなかなか気にかかってな。お節介と言われるかもしれぬが」
そう言ったアウルヴァングルさんは昔を思い出すかのように遠い眼差しをしていた。




