表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/202

side巻き込まれ薬師【47】

 私の髪の毛はいわゆる猫毛ってやつで、細くて柔らかい。すぐにペタンとして量が少なく見えるのが困りもの。

 ヴォルフィの髪の毛は私のより太くてコシがあるから、触り心地が新鮮だわ。


 そういえばこれまでに付き合った人たちの頭を撫でてあげることなんてなかったなぁ。

 家族以外の前では「お姉ちゃん(ぎょう)」から離れたくて、しっかり者に見えないように頑張ってたからね……。


 そんなことを思いながら撫で続ける。

 ヴォルフィも撫でられることに慣れてないみたいで、落ち着かなそうではあるけど黙って受け入れている。

 空気も解れたし、ちゃんと聞くこと聞いておこうかな。


「ヴォルフィは、イザベラ様のことをまだ警戒してるの?」


 最初は仕方ないと思うの。私と違って刀というものを初めて見たわけだし、一貫斎さんのメモを見たわけでもないから、怪しい空間にいるエルフから私を庇おうとするのは当然の判断だと思う。

 だけど、また戻ってくればいいって言ったイザベラさんに対しての反応は、ちょっと過剰なんじゃないかなって思う。

 それに、あんな風に私の意思を確かめることなく決められちゃうのが続くと、私の不満も溜まっていってしまいそう。

 その辺をちょっと確かめておきたい。


「……まあ、な」

「刀を鑑定しても呪いとかはなかったのに?」

「サツキの鑑定がどこまで詳しく見れているのか、俺にはわからないからな。鑑定できてない項目がある可能性は排除できない。それに、あのエルフの使う魔法は異常過ぎる。鑑定で見える内容を改竄するぐらい、簡単にできそうだ」


 言われてみれば、それは確かにそうだ。

 鑑定は最初から使えたし、見える内容で今のところ事足りてたから、見れてない内容があるかもしれないってことはすっぽり頭から抜けていた。

 ヴォルフィの言うように、私の鑑定技術が足りなくて見えないこともあるかもしれないし、悪意を持って内容を書き換えられてる可能性も否定できない。

 ない、ということを証明するのはとても難しい。


「それはそうだね。なんとなく使い始めて頼り切ってたのは危なかったかも。うん、気をつける」

「ああ、そうしてくれ」

「イザベラ様の魔法ってやっぱり高度なんだね。異空間作るとか、できる人は少ないの?」

「少ないどころか人間にはいないんじゃないか?少なくとも俺は聞いたことがない。それに、外部の魔力を取り込むっていうあれも聞いたことがないし、正直、それがサツキの体に変な影響をするんじゃないかってところも心配している。だから俺はあの剣を使うことにあまり賛成できない」


 そうかぁ。それもほんと、言われてみると確かにそう。

 私にはまだまだ、目の前で起こったことを判断するためのこの世界での経験が欠けている。

 イザベラさんが言っていたことも「へー、そうか」ぐらいのノリで聞いてたけど、この世界の人間の常識に照らし合わせたら警戒したくなるレベルで非常識なんだね。

 周囲のマナの話も、エルフにとっては無害でも、人間である私には副作用的なのがあるってこともあり得る。


 ヴォルフィのこういう考えを頭が固いと一蹴することは私にはできない。

 現代日本で平和ボケして暮らしていた私と、死と隣り合わせで冒険者をやっていた彼の価値観は違って当然だ。

 それに、私を思ってのことであるのも確かだし。


「ヴォルフィの言ってることはもっともだと思う。だけど、刀を使うってことをすぐには諦めたくないから、使うことを目標にして安全性を確かめるとか、そういうところからスタートするのではダメ?」

「……サツキがそうしたいのなら」


 その表情はまだもやもやが残っている雰囲気だ。


「他にもあるなら教えて。私の意見も聞いてほしいけど、ヴォルフィの嫌がることを押し付けたくもない」

「…………………………」


 ものすごく躊躇っているのがひしひしと感じられる。そんなに言いにくいことなのかな?

 頭を撫でていた手を止め、体の横に投げ出されているヴォルフィの手を握った。


「……サツキは元の世界が恋しいのか?」

「うん?」

「元の世界が恋しいから、せめて元の世界の剣を使いたいって思ってるのか?」


 それが気になるところ?


「うーん、戻りたいって意味の恋しさはないかな。もし戻れるようになっても、私は戻らないよ。ヴォルフィと一緒にいたいもの」

「……そうか。じゃああの剣にこだわるのはなんでだ?」


「そうだねえ。元の世界でも刀に憧れはあって、ほしいって気持ちもちょっとあったんだよね。武器を持って戦う世界じゃなかったから、美術品としてほしいって意味になるんだけど。元の世界でも叶うかどうかわからなかったことが、目の前に転がってきたから掴みたいって感じかなぁ」

「……もともとほしい物だったからってだけなのか?」

「うん、そう」


 びっくりするぐらいヴォルフィが真剣なんだけど、なにが気になってるのか全くわからなくて居心地が悪い。

 今は、並んで寝転がってそれぞれ天井を見ながら話している。なんとなく、顔を見たら本音を言ってくれなくなりそうな気がして、そうしてる。


「…………俺は、その剣にも、その剣を作った男にもサツキを奪われそうで不安だ」

「うん?」


 言ってる意味がよくわからない。

 剣は最終的にはモノだし、一貫斎さんはもう亡くなっているうえに、おそらくイザベラさんの恋人だ。

 なぜに私が奪われる?


「その剣を使ってたらサツキはずっと元の世界を思い出すだろ。そうしたら、ある日元の世界に帰れるってなった時に俺を置いていくかもしれないと思った」

「ええっ!?」

「それに、その剣を作った男はサツキの元の世界を知ってるんだろう。俺はそれが……妬ましくて仕方がない」

「………………」


 嫉妬ってこと!?

 何度も言うけど、剣は最終的にはモノだし、一貫斎さんはもう亡くなっているんだよ。


「サツキがその剣にも、剣を作った男にも心惹かれているのが嫌だ」

「………………」

「あのエルフも、そんなつもりはないんだろうがサツキに元の世界を思い出させるから腹立たしい」


 ヴォルフィが刀とイザベラさんを嫌う理由が予想外過ぎてうまく反応できなかった。


 まあでも、自分に置き換えてみたらわからないこともない気がする。

 ヴォルフィが他の女の人に心惹かれたらもちろん嫉妬するし、厚かましくベタベタしてくる女がいたら当然イラつく。

 それだけじゃなく、例えばヴォルフィが愛剣の手入ればっかりして私に全然構ってくれなくなったら、うん、剣に嫉妬するわ。捨ててやりたくなるかも。


 そこまで誰かに真剣に好かれたことがなくてピンとこなかったけど、自分に置き換えたらヴォルフィの言ってることはよくわかると思った。


「さっきも言ったけど、私にとって1番大事なのはヴォルフィと一緒にいることだから、置いて帰ったりしないよ。それは絶対」

「……ああ」


 軽く握っていた手をぎゅっと握られた。


「一貫斎さんは亡くなってる人だし、たぶんイザベラ様の恋人だし、そういう恋愛感情で特別な気持ちってことはないよ。顔も知らないしね。ただ、同じ世界から来た人だからちょっとだけ特別な、親近感はあるかな。それも嫌なの?」

「……嫌だけど、それは仕方がないとも思う」


 悪いけどそこはヴォルフィの中で折り合いをつけてほしい。

 誘拐されて外国に捨てられて、運よく親切な現地の人に出会って婚約したとしても、日本人に出会ったらきっと安心するし親近感湧くよね。そういう感じなので見逃してほしい。


「一貫斎さんは、はっきりわかんないけど私よりだいぶ昔の人だから、同じ国から来たって言っても考え方とか価値観が全然違うと思うの。だから、もし生きてるうちに会ってたとしても話が合わなかったかもね」


 私の中のイメージは職人気質な頑固親父だから、なんなら刀も使わせてもらえなかったかもしれない。


「……そうか」

「ねえ、ヴォルフィは自分が置いていかれることばっかり言ってるけど、私だってヴォルフィが心変わりしたり私を捨てたりしたらもう生きていけないよ?」


 だから私をひとりにしないでね、って言いかけたところで、体ごとこっちに向けたヴォルフィに抱きしめられた。


「そんなこと絶対にしない。愛してるのはサツキだけだ」

「うん、ずっと一緒にいてね」


 返事の代わりに激しいキスをされた。

 それに夢中で応えていて、ヴォルフィの手が私の服にかかったところで、図ったかのように扉がノックされた。


「失礼いたします。宴の用意が整いましたので、お越しください」


 ヴォルフィは唇を離して、ため息をついてから「すぐに行くから少し待ってくれ」と返事をした。

 私の体を起こして髪の乱れを直してくれてるヴォルフィは一瞬で切り替えたように見えるけど、私は火がつきかけたのがなかなか消えなくて戸惑っていた。


「サツキ、できたぞ」

「あ、うん。ありがと」

「どうした? 具合が悪いなら欠席するか?」

「あ、そうじゃないけど、そのう……」


 どう言っていいかわからなくて顔を赤くしながらもじもじしていると、察したらしいヴォルフィは余裕たっぷりの笑顔になった。


「あとでな」


 そう言って額にキスしてくるから、余計に気持ちの整理がつかないじゃないですか!

 しかも、手加減してもらえないフラグを自分で立てた気がする……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ