side巻き込まれ薬師【46】
やっぱりドワーフだ!だけどどうして!?
イザベラさんが間違えてドワーフの里にやってきてしまったのか?
いやいや、めちゃくちゃ慣れた感じで扉を開けてたから間違いじゃないと思う。
でもなんでドワーフ!?
エルフとドワーフは仲が悪いのでは!?
混乱して思わずヴォルフィの手を強く握ると、宥めるように握り返された。
落ち着こう、落ち着こう。
私たちを迎えてくれたドワーフは5人。
みんな髭を長く伸ばしていて、私には顔の見分けがつかない。
真ん中に立っているドワーフが口を開いた。
「歓迎しよう、イザベラの友人達よ。ワシはこの里の長、アウルヴァングルである」
よく見ると長と名乗ったドワーフ以外は武装しているので、護衛のようだった。
「カンと同じ世界から来ておるサツキと、その恋人の銀色……ではないの。銀色、お前の名はなんじゃったかの?」
「……ヴォルフガングです。父が人間の世界で侯爵位を拝命しています」
なんとも言えない表情でアウルヴァングルさんに向かって名乗るヴォルフィ。
そういえばイザベラさんは最初からヴォルフィのことを銀色って呼んでて、名前を聞くこともなかったですね……。
めちゃくちゃ今更だけど、ヴォルフィのイザベラさんに対する態度はかなり失礼なんじゃないだろうか。かく言う私もお姫様に対する態度ではない気がするし……。
でも向こうも気にしてないみたいだし、今更だし、いいかな??
歓迎の宴を開いてくれるそうなので、アウルヴァングルさんとはそこで改めてお話しすることになった。
イザベラさんと護衛のドワーフに客室まで案内されたけど、この里は完全に洞窟の中に作られていた。部屋になっている部分は岩壁に扉が嵌め込まれている。
「イザベラ様もここに住んでるんですか?」
私のイメージだとエルフは森の中で自然に寄り添って暮らしている種族だ。ここみたいな石ばかりで日の光が当たらない場所は苦手なんじゃないだろうか。
「普段はこの洞窟の外におる。やはり地下は苦手での。じゃが、この里の客人としてアウルの世話になっておる」
「外ですか……?」
まさかの野宿なの??
「洞窟のすぐ側にな、妾が逗留するための部屋を建ててあるのじゃよ」
違った!当たり前か。
「さっきの小屋とは別にですか?」
「別じゃな。あの小屋はカタナを置くために妾が異空間に作ったものじゃ。普段暮らしておるのはここと同じ空間じゃよ」
「……どうしてイザベラ様はドワーフの里にいらっしゃるのですか?エルフとドワーフは習慣もなにもかも違う種族だと思うんですが」
思い切って聞いてみると、イザベラさんは立ち止まって振り返った。
「カンと刀を打つ時にの、この里に助けを求めたのじゃ。鍛冶場や道具が必要であったからの。それから妾はずっとここにおる。……すぐ側に、カンの墓があるのじゃよ」
それだけ言うと、イザベラさんはまた歩き出し、程なくしてひとつの扉の前で立ち止まった。
「ここを使うとよい。サツキの仲間も連れてきてやれたらよかったのじゃが、妾もここでは客人じゃ。アウルがお主らだけと申せば従うほかはないでの。この里は人間と交易はしておるが、立ち入りは本来認めておらぬのじゃ。許せよ」
「お気になさらないでください。イザベラ様の優しさに感謝しています」
野営をさせている4人に悪いと思う気持ちはあるけど、イザベラさんに無理を言うつもりもない。
「夕餉の支度が整ったら使いの者が来るでの。それまでゆるりと休むがよい」
イザベラさんが護衛のドワーフを連れて去って行ったので、あてがわれた客室の扉を開ける。
中も当然のごとく岩壁で、ベッドなんかの家具が置いてあるようだけど薄暗くてはっきり見えない。
「ヴォルフィ、明かりを……」
貸してと言いかけた時に、繋いでいた手を思い切り引かれ、痛いぐらいの力で抱きしめられた。そのままの勢いでベッドに倒れ込む。
「えっ!?ちょ、ちょっと!!」
いつになく強引なヴォルフィに私はあわあわするばかり。
「ま、待って!!」
「サツキ、無事でよかった」
焦ってヴォルフィを押しのけようとしていたけど、泣きそうな声でそう言われて急速に冷静になった。
私の肩口に押し付けられている彼の後頭部が、微かに震えている。
あ、泣いてる。
それに気づいた瞬間、私の目からも涙が溢れてきた。
「心配かけて本当にごめんね。私も、もう二度と会えなかったらどうしようかと思った。ヴォルフィも無事で本当に本当によかった……!」
ヴォルフィの頭を抱きしめて、泣きながら思いを伝えた。
いろんなことが一気に起こりすぎて麻痺してた気持ちが押し寄せてきて、私たちは泣きながら抱き合っていた。
しばらくたって私の涙も止まった頃、ヴォルフィが私の上からどいて隣に寝転がった。ものすごく気まずそうな表情をしている。
「どうしたの?」
「…………俺、めちゃくちゃかっこ悪い」
「ふへっ!?」
予想外の答えに思わず変な声が出てしまった。
かっこいいとか、気にするんだ……。
自分の見た目が嫌いそうだったから、かっこいいかどうかなんて興味ないのかと思ってたよ。
「かっこ悪いなんて思わないよ。ヴォルフィはいつだってかっこいいし、それにかっこつけてクールな振りするより、私のこと心配だって態度に出してくれる方が嬉しいよ」
「……そうか」
「うん。ヴォルフィが泣いても怒っても嫌いになんてならないから、我慢しなくていいよ。泣くの我慢すると体によくないらしいよ」
「そうか」
「うん」
それからヴォルフィは何も言わず、いつになく脱力した様子で天井をぼんやり見ていた。
この旅が始まってから、いや、もしかしたら私と出会ってからずっと気を張ってたんだろうなと思う。
守ろうとしてくれるのは嬉しいけど、もっと信頼されるようにもなりたい。ヴォルフィだけに負担をかけるような関係のままではいたくない。
そう言っても「気にするな」としか言われないだろうから、これは私だけの決意。
そんなことを思いながらヴォルフィの頭を撫でてあげる。
私の方が年上なんだから、たまにはお姉さんぶらないとね。




