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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【42】

 影月に鑑定を使ってみると、ちゃんと情報を見ることができた。


脇差

銘 べら

号 影月

状態:最高

属性:闇

備考:エルフの付与魔法により闇の属性が与えられている。闇魔法が使用可能。


 銘がイザベラさんだけになってることがちょっと気になるけど、それよりも属性だ。イザベラさんの付与魔法により、闇魔法が使えるようになってるらしい。

 闇魔法はサーラ神のスキル一覧にもあったけど、なんとなく忌避される魔法っぽくて選ばなかったものだ。それに治癒が属する?回復は回復魔法じゃないのか?

 鑑定してわかったこともあるけど、謎が謎を呼んでしまっている。


「ヴォルフィ、鑑定したけど呪いとかはないよ。イザベラ様の付与魔法で闇魔法が使えるようになってるみたい」


 ヴォルフィの袖をくいくい引きながら鑑定結果を伝えると、彼は渋い顔をした。


「サツキはあれが使いたいのか?」

「うん、使いたい。単純に刀が好きだってのもあるけど、同じ世界から来た人が遺したものだから使いたいの。その、烏滸がましいけど想いを継ぎたいって思ったの」


 刀が好きといっても本物を触ったこともなく、刀剣展を見つけては足を運んでうっとりと眺めていた程度だけど。でも、自分の武器として刀が選べるなら刀がいい。


 それに何より、同じ世界から来た人が作ったというのが私の心をざわめかせる。帰りたいとは思わなくても、郷愁は沸き起こるものらしい。

 なんとなくだけど、一貫斎さんは私のように巻き込まれて転移したか、本当に何かのはずみで転移してしまったかのどっちかな気がする。王家に召喚されたのなら、作った刀も王家が所有してそうなものだし。


 一貫斎さんは、見知らぬ世界にいきなりやって来てどう思ったんだろう。そしてそこから、刀を打つところまでどうやって辿り着いたんだろう。

 できるならその辺りの知っていることもイザベラ様に聞いてみたい。

 私は居合いや剣道をやってたわけじゃないから剣士の心はわからないけど、それでもこの刀を使うことでなにか感じられるものがあるような気がする。


 ということを切々とヴォルフィに訴えた。


「はあ、わかった。だけどもしサツキになにかあったら、エルフの長い寿命を俺が終わらせてやるから覚悟しておけよ」


 なんか物騒なことも言ってるけど、ようやくヴォルフィが納得してくれた。


「なんとも頭の固い番犬よのう。銀色、そんなことばかり言っておるとサツキに愛想を尽かされるぞえ?」

「くっ!」


 イザベラさんの反撃にヴォルフィが地味にダメージを受けている。そしてヴォルフィの呼び方が完全に「銀色」で定着してしまっている。


「ではサツキ。まずは影月を使うてそやつの傷を癒してやるがよい」


 差し出された影月を受け取ると、ずっしりと重かった。それは金属の重みというより、これを作った一貫斎さんとイザベラさんの思い、そしてそこから積み重ねられてきた年月の重みのようだと感じられた。

 柄に巻かれている布はなにでできているのか、手に吸い付くように馴染む。

 そして、影月を握った瞬間、なにかが繋がった気がした。なんというか、私と影月の間のパスのようななにかが。


「ほれ、はよう」


 イザベラさんがやたらと急かしてくる。私も早くヴォルフィの怪我を治してあげたいところではあるけど、でも。


「イザベラ様、さっきから影月で傷を癒せと言われてますが、その、私にはイザベラ様の仰る意味が全くわからなくて……」


 だからもっと詳しく説明してくださいと続けようとした私は、イザベラさんが虚をつかれたような表情をしているのに気づいた。


「あの、イザベラ様?」

「サツキ、お主は妾の言っていることがわからぬのか……?」

「え、はい。申し訳ないんですけど、魔法にまだあまり詳しくないので……」


 機嫌を損ねたかもしれないと思って慌てて弁解したが、予想に反してイザベラさんは激しく笑い出した。


「ふふっ、あははっ。そうか、わからぬか。これは愉快じゃ。カンと同じ世界から来たものが、妾の言葉をわからぬと。あはははっ、こんな愉快なことがあろうか」


 笑いが止まらないイザベラさんに対して、私とヴォルフィは激しく引いている。

 とりあえず怒ってるわけではなさそうだけど、笑ってる理由も分からなくてただただ不気味だ。


「ああ、すまぬ。あまりにも愉快であったのでつい、な。してサツキ、妾は気が変わった。そなたの命ある限り影月と櫻月を使うがよい。そしてそなたがカタナを使いこなせるように妾が力を貸してやろう」

「あ、ありがとうございます……」


 ここは感激して喜ぶところなんだろうけど、わけがわからなすぎていまいちテンションが上がらない。


「えーと、その、どうして気が変わられたのですか?」

「お主が愉快なことを申すからじゃ」

「?????」


 うん、突っ込まないでおこう。

 同じ言葉を話していても、言葉が通じない時ってあるよね。


「じゃあ早速ですが、影月で治癒を行うというのは具体的にどうするのか教えてもらえますか?」

「よかろう。じゃがその前にの、お主たちはなぜ自身のマナしか使わぬのじゃ?これほど周囲にはマナが満ちているというのに、なぜ貧弱な自身のマナしか使わぬ?」

「周囲のマナ……?」

「そんな方法は聞いたことがない。エルフにしかできないんじゃないのか?」


 困惑する私に代わってヴォルフィが答えてくれたけど、彼もまたイザベラさんの言っていることはわかっていないようだ。


「そんなことはない。お主たち人間が方法を知らぬだけじゃろう。サツキ、影月とそなたが繋がっておるのはわかるか?」

「あ、はい。最初に触った時になにかが繋がった感覚がありました」

「それじゃ。それに集中してみよ。さすれば影月のマナを感じれよう」


 言われた通りに、握りしめた影月に意識を集中する。


 私はマナ……魔力のことなんだろうけど、それを感じるっていうのは正直よくわからない。

 だけど、なんとなく影月の中に自分とは違う()()()があるのがわかってきた。


 それは、風のない月夜の凪いだ湖面に映る月の影のような、静謐で幽玄の世界に入り込んだかのようだった。

 これが「闇」なのだとしたら、それは恐ろしいものではない。煩わしい人々の視線を全て遮り、深く私を包み込むような安心感。還る場所。

 湖面に映る月から視線を上げると、そこには玲瓏たる満月。

 月光がひときわ強まって私に降り注ぐ。すると、枯渇していた私のマナがみるみる満たされていくのが感じられた。


 目を開くと、すぐ近くに心配そうなヴォルフィの顔。

 私はそのまま手を伸ばして彼の頬に触れる。


「影月、力を貸して。あなたの癒しの力を私に使わせて」


 私の言葉に応えるかのように影月からマナが流れ込み、私の中で治癒魔法に変換されてヴォルフィに流れ込んでいく。

 治癒魔法を使うのも影月がサポートしてくれているから、マナが効率よく魔法に変換されている。私が今まで魔法を使っていた時は、全ての魔力をうまく魔法に変えられず、そのまま垂れ流して無駄にしていたのがよくわかった。ただでさえ少ない魔力を効率悪くしか使えなかったら、そりゃあ魔力切れにもなるだろう。


 大気中から取り込まれたマナが影月、私、ヴォルフィと巡ってまた大気中に還っていく、その循環の心地よさにうっとりしているうちに魔法が収束していった。

 お読みいただきありがとうございます。

 肩の痛みが悪化したらまたお休みするかもしれませんが、ひとまず通常通りの隔日更新に戻せそうです。


 サツキちゃんの話がひと段落したら、聖女かもう一人の巻き込まれた人の話に移る予定だったんですが、先に番外編としてイザベラと一貫斎の話を挟もうかと思います。

 イザベラ様が予定にない変なことを言って一人でウケてるから、このままだと奇行に走る変なエルフになってしまうではないですか……。

 また雰囲気の違う話になる予定ですが、そちらもお楽しみいただけるように頑張ります。

 しばらくはサツキちゃんのお話にお付き合いくださいませ。

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