side巻き込まれ薬師【39】
戦闘シーンのため流血表現があります。ご注意ください。
また、話の区切りの関係で短くなっております。ご了承ください。
ヴォルフィとツヴァイさんが前に出ると同時に、ヴォルフィの放つ風の刃が一体の首を刎ね飛ばし、二体目の喉を切り裂いた。
「くそっ!」
本来は2頭とも首を落とすつもりだったのに威力が足りなかったようで、ヴォルフィが悪態をつく。
血飛沫を撒き散らしながら倒れる仲間の死体を乗り越えて、次々と近づいてくる後続とふたりが切り結ぶ。
ライデンさんは私を庇いながら馬車に向かうチャンスを窺ってるけど、ウルフの数が多くて難しそうだ。
私が馬車に戻ってしまえば、たぶんマルクスさんかライデンさんが御者をして馬車を出してしまうだろう。戦っている3人を残して……。
本当はその方がいいのかもしれない。守りながら戦うのは難しいって何かで読んだ気がするし、実際に目の当たりにするとその通りだと思う。
それに、既に分断されてしまっているこの状態はよくないってのは私にもわかる。
馬車には魔獣除けの魔道具が設置してあるから今のところ無事だけど、その魔道具は忌避剤みたいなもので実際に魔獣を攻撃するようなものじゃない。無視しても平気だと魔獣が気付いてしまったら終わりだ。
だけど、もしも私が離れた後にヴォルフィになにかあったら……。
私だけ生きていても無意味だと思ってしまう。だったらここに、同じ場所にいたい。
きっとこんなこと考えているなんて知られてはいけない。でも馬車には戻りたくない。
「こいつら普通のウルフじゃないぞ!魔法が効きにくいし頑丈だ!」
ヴォルフィがさらに一体を切り捨てながら叫んだ。ツヴァイさんも一体仕留めている。
ツヴァイさんが得意なのは火魔法だからここでは使えないので、剣だけで戦っている。普段のおちゃらけた雰囲気は微塵もなく、無表情に無慈悲に剣を振るっている姿を見ると、彼の本質はこっちなんだろうなと思う。
奮闘するふたりを掻い潜り、私の方に一体向かってきたのをライデンさんが「ふんっ!」という気合とともに切り捨てた。
森の奥から次々とウルフが湧いてくる。
「サツキ様!ここで迎え撃ちます!私のそばを離れないでください!」
「わかりました!」
私は収納しようとしていた倒木を背にして、背後を一応警戒しつつ目の前に立つライデンさんの様子を見守る。
どこかから遠吠えが聞こえた。さらに仲間を呼んでいるのかもしれないと思い至ってゾッとする。
同時に、さっきはなんて罪深いことを考えてしまったんだろうと、後悔に苛まれた。
これまで生きていて感じたことのない、むせかえるような獣の臭いと血の臭いがあたりに満ちている。
剣で何かを断ち切る音と衝撃が絶えず響く。
怒鳴り声に、なにかがぶつかる音に、獣の唸り声に……。
私を庇うライデンさんの体の向こうで起こっている戦いの気配が、生々しくここまで流れ込んでくるのにどこか実感が湧かない。
手足が冷え切ってきて、感覚がなくなっていく。
これ以上、足手まといになってはいけない。会いたい。離れたくない。無事でいて。私は役立たずだ。一緒に来なければよかった。怖い。帰りたい。どうしてこんな目に。
「あいつがボスだ!あれをやる!」
極度の緊張と興奮で頭がぐるぐるし混乱しそうになっていたところに、ヴォルフィの怒鳴り声が響いて意識が引き戻された。
どうか無事に倒して……。
そう願いながら無意識に止めていた息を吐いた時、真横から気配を感じた気がした。
ふと横を向くと、目の前にチロチロと舌を出した大蛇の顔があった。私の頭と変わらないぐらいの大きさの蛇の顔が、わずか数センチのところにある。
「きゃーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
真っ白になった頭で誰のものかわからない絶叫を聞きながら、私は闇雲に逃げようとして倒木の反対側に転がり落ちた。
起きあがろうと伸ばした手がなにかを掴むと同時に強烈な浮遊感に襲われ、私の意識はそこで途切れた。




