side巻き込まれ薬師【35】
さて、馬車の旅1日目。
旅程がスタートして早々に、悲しい事実が発覚しました。
どうやら!私は!戦いは!向いてない!
薬師がチートだったから他のスキルにも期待してたんだけど、そううまくはいかなかったようです……。
昨日まではずっと魔道具開発が最優先で、その次が調薬の授業だった。
調薬がなくなったらヴォルフィに剣や魔法を教えてもらうつもりだったけど、連日クタクタな私を見て今は無理だと判断され教えてもらえなかった。
集中力が欠けてる状態では危ないって言われたら反論できないし。
旅が始まると私は馬車に乗ってるだけなので、ようやく休憩時間にちょっとずつやっていこうってことになったのです。
最初は「剣術」のスキルのために短剣を使って素振りとか型の練習からなんだけど、もうそこで躓いた。
剣、重い。
筋力、足りない。
スキルの恩恵なのか、剣を振ろうとすると「どうすればいいか」はなんとなくわかる。調薬と同じで体が知っているという感じで、その感覚に従ってやると自然と正しい型になるようだ。
だけど、私は圧倒的に筋力が足りなくて「正しい型」をしようとしてもそれがすぐ維持できなくなっちゃうの!
体が動こうとするように動けない違和感というかチグハグする気持ち悪さ!
結局、まずは筋トレを毎日やりましょう、素振りも型もその後です、ってことになった。
弓はやってみようという話にさえならなかった。
というのが朝食のために休憩した際の出来事。
でも私には魔法がある!って思うじゃないですか。
近接は諦めても強力な魔法が使えたらいいかって思いましたよ、もちろん。
だから昼食の休憩の時に早速教えてもらいましたよ。
魔法もスキルのおかげで、水の玉を出すとか火の玉を出すとか、教わったことはすぐできましたよ。
しかーし!それを数回繰り返しただけで、私は魔力切れを起こして倒れたのです……。
水の玉をコップに出した瞬間、1度だけ経験したことのある気持ち悪さが襲ってきて立ってられなくなったの。
「サツキと初めて会った時も魔力切れを起こしていたが、あれはどれだけ魔法を使ったあとだったんだ?」
マナポーションを飲ませてもらったりと介抱され、ようやく気持ち悪さがおさまった私は記憶をたぐった。
そんなに前のことじゃないんだけどその後が怒涛の日々だし、ヴォルフィを初めて見た時の印象が強すぎて直前の出来事はすっかり飛び去ってたのよ。
「……風魔法を1回」
「1回!?あのズタズタになってたホーンラビットか?」
「うん、風で刃を作ったの。適当に使った魔法だから強さはよくわかんないけど……」
ヴォルフィがものすごく困ってる。メアリも困ってる。側で護衛してくれてるライデンさんも、微妙に困った顔をしてる。
それを見ていると、ヴォルフィがなにを言い淀んでるのかわかってしまった。
「……私って魔力少ないの?」
「…………………………そうだと思う」
なんということでしょう!まさかの落とし穴!
あの時は魔法の使い方もわからないままに夢中で使ったから、身の丈に合わない強力な魔法を使っちゃったんだと思ってた。
単純に、乏しい魔力を使い切っただけなのね……。
「スキルって魔力の量には関係ないの?」
「個人差も大きいからなんとも言えないが、サツキの場合は魔力操作に寄ってるんだと思う」
そうかー。
がっくりきて全身の力が抜け、支えてくれてるヴォルフィにべしゃっと寄りかかる。
「魔力って使ってたら増えたりしないの?」
「それは確かにあるが、そんなにすぐ増えるわけじゃないし、魔力切れを繰り返すのは体によくない。限界まで使うのはダメだ」
「うー」
あやすように背中を撫でられてるのが余計に落ち込む。
ラノベでは限界まで魔法を使うのを繰り返すってのが魔力を増やす定番だったけど、違うみたい。
それにあれは転生モノで、子どもの頃にやってるから効果があるのかもしれない。大人になってからの転移だと、その際にチートな魔力もらってなかったらもうどうしようもないのかも。
サーラ神に魔力もお願いしたらよかったなぁ。
「そういえばポーション作るのに魔力込めるけど、あれは大丈夫なのかな。結構たくさん作ったのに元気だったよ」
「調薬は俺にはわからないが、魔力の残りに気をつけながらやるしかないんじゃないか?」
「そうだね……」
なんとなくの感覚だけど、調薬で魔力使うのはあまり負担じゃない気がする。使ってる量が少ないのかな?まだ魔力そのものを感じるのも慣れないから断定はできないけど。
ってことは、自分で戦うのは諦めて、後方支援に徹するべきなのかな。ヴォルフィはきっと先陣切って戦うだろうから、隣に並ぶまではいかなくても近くにいたかったのになぁ。
すっかり起き上がる元気がなくなってしまい、ヴォルフィに寄りかかったまま灰色の雲が重く垂れ込めている空を眺める。
私の気持ちを代弁するかのようだなぁ。
と逃避していたら、ツヴァイさんとマルクスさんが焦った様子で近づいてくるのが見えた。
「ヴォルフガング様、先ほど近くを通った狩人に聞きましたが、嵐がくるようです。ツヴァイを次の街に先行させて宿を確保させますので、急ぎ馬車にお戻りください」
「わかった」
ヴォルフィが返事をすると同時に、一礼したツヴァイさんは繋いであった馬に乗って全速力で駆けて行った。
「俺たちも急ごう」
そういうと問答無用で私を抱え上げ、馬車に乗り込んだ。
「さっきまでよりスピードを出しますので、揺れに気をつけてください」
馬車の扉を閉めながらライデンさんにそう声をかけられ、ヴォルフィは私を膝の上に乗せてぎゅっと抱え込んだ。
向かいの席にメアリがいるから恥ずかしいんだけど!
「まだ万全じゃないからこうしておくほうがいい」
私の「おろして」という視線に気づいて、そしてあっさり却下された。




