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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【32】

 翌日からは本当に忙しかった。



 調薬を教えてくれる薬師さんが決まり、顔合わせもそこそこに早速授業が始まった。


 教えてくれるのはメイヤさんという領都在住のおばあちゃん薬師さんだった。

 少し前にお店を息子さんに譲ったそうで、時間を持て余していたところにこの話が来たから喜んで受けたらしい。メイヤさんのお店の薬は質がいいと評判で、騎士団へポーションの納品も行っていたそうだ。


 魔道具の話し合いもあって薬草の採取には行く時間がないので、購入した素材から薬を作る工程だけを教わることになった。



 結果だけ言うと、私の調薬のスキルはチートと言えるものだった。


 やはりリディア司祭が言っていたように、既に職業になっているということが大きいのだろう。

 教わった薬は1回で完璧に作れるようになり、それはどんなに分量を増やしても変わらなかった。

 薬草を刻んだりすり潰したりするのは料理と近いからできるとして、ポーションを作るために魔力を込めるといったやったことのない工程でも、なんというか久しぶりに自転車に乗った時のように、感覚を取り戻すだけでできるという感じなのだ。


 まあそれでも最初に作った傷薬が合格をもらった時は飛び上がって喜んだし、得意げにヴォルフィに進呈したけどね。


 メイヤさんも侯爵家と魔法契約を結んでいるため、私が異世界から来ていることも、神様にスキルをもらったことも知っている。なので遠慮なくスキルを使えたのだ。

 結局、わずか10日ほどでメイヤさんの知っているレシピを全て習得することができた。

 メイヤさんが息子さんに教えていたときは2〜3年かかったそうなので、スキルの恩恵押して知るべし。

 あんまりにも早く終わりすぎたので、メイヤさんはしばらくこのまま侯爵邸に滞在して、各種の薬を作ることになったそうだ。『災厄』に備えて少しずつ備蓄を増やす一環なのだろう。


 ちなみにこの授業料も材料費も侯爵家持ちなので、私が授業の中で作った薬は侯爵領で消費される約束だ。ただ、化粧水や保湿クリームなんかはいくつか買い取らせてもらった。これは材料を自分で揃えて切らさないようにしたいところだわ。


 この世界では、作った薬を販売するためには許可がいるけど、自家消費するのは自由なんだそう。もちろん自作の薬を使って何かあっても自己責任だけども。


「これでサツキ様は()()()()売っているような薬は一通り習得されましたので、いつでもお店を開けますよ」


 表の、というところがものすごく引っかかるけど太鼓判を押してもらって、調薬の授業は終わった。

 表ってことは裏があって、それってやっぱり毒とか毒とか毒なんだろうな……。

 そんなのもいずれ習得することになるんだろうか……。


 最後にはレシピをまとめたノートと、この辺りには生えていない薬草の名前と効能が書かれた一覧をもらった。

 授業中のメモやノートはとりあえず日本語で書いていたので、こちらの言葉で書かれたレシピは文字の勉強にもなって助かる。

 植物一覧の方は、メイヤさんのレシピが基本的にこの近辺で手に入る素材から作っているものだから、植生が違う地域に行った時の参考になるようにってことだそうだ。こちらもありがたい。

 一からレシピを作るっていうのも、どれぐらいスキルがチートしてくれるのか早く確かめてみたいところだわ。



 その10日間は午前が調薬の授業、午後は魔道具の話し合いで本当に毎日クタクタだった。


 魔道具はそんなに毎日話し合うことなんてないって思ってたのに、私がいない時間にヤルトさんとフリッツさんが猛烈な勢いで試作するから、毎日それを見て意見を言いに通う必要があったのです……。

 研究棟に行くと、フリッツさんと話してる間にヤルトさんが改良し、それをヤルトさんと話してる間にフリッツさんが改良するってのを無限に繰り返すから、夕食だと呼びに来られるまで毎日喋りっぱなしで喉がカラカラだった。

 授業で作った薬の中で喉に効く薬も買い取って使ってたけど、それがなかったら絶対に喉を痛めてたと思う。


 ちなみに研究棟はただの倉庫だった建物なのに、フリッツさんが自分で防犯の魔道具を作りまくり、ヤルトさんが鍵と扉と窓をものすごく頑丈なのに作り替えてガチガチに守られている。すごいね、職人技。

 もちろん、警備の騎士も配置されている。


 顔合わせの日はガラーンとしていた室内は、既にぐっちゃぐちゃで混沌としている。

 それでもふたりはなにがどこにあるか把握しているらしいし、私も片付けなんかしてる余裕がないので放置だ。

 飲食物は屋敷の方からメイドさんが運んで食器は持って帰ってるから、虫とかネズミが沸くこともないだろう。たぶん。

 いつの間にか増設する形でヤルトさんの鍛冶場もできていて本当にびっくりした。誰がいつ作ったんだろう……。



 結局冷蔵庫の本体はモンテス子爵領の一部に生えてる木から取れる樹脂で作られることになり、その木がある一帯は立入禁止区域になって厳重に管理されるそうだ。その管理というのも、継続的に樹脂が取れるように植林なんかも含む大規模なものだそう。

 冷蔵庫は魔石への付与は難しくなかったので、本体ができるのを待って取り付け、温度調節のために少し魔法陣をいじる程度だった。


 ペンの方は逆で、ヤルトさんがイメージしてた素材がベルンハルトさんが手配した中にあったそうで、本体が先にできた。

 インクを一定に流すという、やったことのない付与を極小の魔石にするフリッツさんが大変そうだった。厳密には、「インクを一定に流す」という付与は難しくないけど、それを極小の魔石に刻むために極限まで簡略化するというチャレンジをしていたそう。


 冷蔵庫の形は、私は日本で使ってたように縦長の箱の前面に扉があるイメージだったけど、なんで上に蓋がある形ではダメなのかって言われると返答に困り、厨房の料理人さんに食材を棚から出すのと箱から出すのではどう違うかってのを聞きに行ったり……。


 それはハンスさん経由でベルンハルトさんに確認したら、「見せびらかす時に中身が見えるように」ってことで前面に扉がある形になった。

 でも上に蓋がある形も後発の商人の輸送向けタイプにはよさそうだから、装飾なしで作っていくことになった。


 装飾も、私が思い描く高級感は漆塗りみたいな艶やかな黒に金色とか銀色で模様を描くような雰囲気だけど、ヤルトさんのイメージはアンティーク家具みたいな彫刻をした木材を樹脂の本体に貼り付ける感じだった。

 まあ見た目はこの世界の貴族の流行りに合わせてくれればいいし、ベルンハルトさんの婚約者さんの領分になるから、案だけ出して丸投げしておいた。


 顔合わせの日からそんな感じで1ヶ月が経ち、ようやく試作品第一号が完成した。


 完成の報告を入れるとすぐにベルンハルトさんが実物を確認しに来ることになったので、試作品のペンは机の上に並べて、冷蔵庫は机の横に置き、それぞれ布を被せてある。

 私もフリッツさんもヤルトさんも緊張が隠しきれない。


 ヴォルフィは調薬の授業の時は騎士団の訓練に混ざりに行ってたけど、私が研究棟に来るときは報告書の代筆のためにいつもついてきてくれている。

 なので、今も挙動がおかしい私たち3人に代わって、机周りに積み上がっているものをせっせとどけている。ありがとう。


 どうにか披露する体裁が整った頃に、ベルンハルトさんがハンスさんを伴ってやってきた。

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