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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【31】

 メイドさんが用意してくれたのは、ミントみたいな感じの爽やかなハーブティーだった。それとなぜかお酒も置いていかれた。

 瓶を見ると度数が結構高くて甘そうなお酒だ。

 お酒なんか飲んだら一瞬で寝てしまうので、ハーブティーをちょびちょび飲みつつ、なんとなくストレッチとかしつつ眠気と戦っていると、控えめに扉がノックされた。


「サツキ、俺だけど」


 待っていた声が聞こえたので、すぐに扉を開ける。その表情は穏やかだったので、私はホッとした。

 ヴォルフィはするりと部屋に入ってくると扉を閉め、おもむろに私を抱きしめた。


「サツキ、ありがとう」


 その一言にいろんな思いが乗っているのが感じられて、私も胸いっぱいになった。


「私は思ったことを好き勝手に言っただけだよ。わだかまりはなくなった?」

「完全になくなったわけじゃないけど、俺のことを嫌ってたわけじゃないってはっきり聞けたから、たぶんもう大丈夫だと思う」

「そっか。ほんとによかったね」


 続きは落ち着いて話そうと、ソファに移動して並んで座る。


「スッキリする感じのお茶しかないけど、他の飲み物もらう?あ、なんか甘そうなお酒もあるよ」

「その酒は……いや、なんでもない。お茶をもらおう」

「ん?」


 歯切れの悪い言い方が気になったけど、私は現在進行形で眠気と戦っているので、負ける前にさっきまでのことを聞いておきたい。


「どんな感じだったの?もちろん、言いたくないことは言わなくていいけど」

「……父上も兄上たちも、俺をいらないと思ったことはないって。ずっと中途半端な状態になってたことも悪いと思ってたって。今ようやくそれを変えられるタイミングが来たから、これからは『家族』としてやっていきたいって」

「うん、よかったね」

「サツキがそのきっかけを作ってくれたことにも感謝してるって言ってたよ」

「それはよかった」


 まだ完全に信用されてるとは思ってないけど、その状態でも評価できるところはきちんと評価してくれるのは素直に嬉しい。


「……あとは、姉上のところに俺が戻ったって情報が伝わったら、いずれ来るだろうって。昔みたいに俺だけを離すやり方はしないって言ってたけど、そしたらサツキにも嫌な思いをさせるかもしれない。でも、俺がなんとかするから……」


 ここまで嬉しそうに話が進んでいたのに、お姉さんの話になった途端、辛そうな表情になってしまった。

 相当なトラウマなんだと思うから会わずにいれたらいいんだけど、ずっとは無理だもんね。お兄さんの結婚の時とか、顔を合わせるのを避けられないイベントがあるわけだし。


「んー、まあそれは私も戦力になれるよ、きっと。剣を持って戦うのはまだできないけど、女同士の戦いはまた別物だし?」


 回避できないなら、できるだけヴォルフィが傷つかないように私も加勢するだけだよね。

 侯爵やお兄さんたちはどっちの味方ってわけでもないだろうから、やりすぎないように加減は必要だけど。

 だけどヴォルフィは躊躇うような表情をしている。


「いい?お姉さんがどう出てきても、私は、絶対に、100%、ヴォルフィの味方。侯爵様とお兄さんたちがどんな対応を取るかわからないけど、何がどうなっても私はあなたの側にいます。魔獣なんかと戦うのには役に立たないから守ってもらわないといけないけど、普通の人間の女性相手なら元の世界でも戦ってたからね。だから安心して私に背中を任せるといいよ」


 昔と今、何が1番違うって私がいるかいないかだよ。

 絶対的に味方になれる存在がいるかいないかだよ。

 それをわかってほしくて、私はヴォルフィの手を取って言葉を重ねた。


「……そうか、そうだな。うん、背中を預けるから一緒に戦ってくれ」

「もちろん。私もさ、もし聖女(いもうと)と会わなきゃいけなくなっちゃったら平静でいられる自信がないから、その時はよろしくね」

「ああ、任せろ」


 ようやく張り詰めていたものがほどけたようで、ふっと笑みを浮かべてくれた。

 日本にいた時には見たこともなかった緑色の瞳だけど、ここしばらくで私にとって1番馴染み深い色になった。


「アルブレヒト様への嫉妬も解決した?」

「……ああ。その、変なこと言って悪かった」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているのがとてもかわいい。


「サツキ。シュナイツァー伯爵のところへ行く前に、離れに入ってみたいと思ってるんだ。一緒に来てくれるか?」

「もちろん!ヴォルフィが住んでたところ見てみたい」

「ありがとう」


 そう言って私をぎゅっと抱きしめたけど、それに浸るまもなくすぐに体を離された。


「ヴォルフィ?」

「そろそろ戻るよ。サツキも疲れてるだろうし、それにあんまり遅くまでいると誤解されるから」

「誤解?」


 首をかしげた後で、ヴォルフィがほんのり赤くなってるのを見てハッと気づいた。


 そ、そうか。

 夜に婚約者の部屋を訪ね、扉も閉め切って二人きり。しかも私はヴォルフィの訪れを待っていた。

 そうだよね!ただ喋るためだなんて誰も思わないよね!

 あのお酒も、これ飲んで雰囲気を盛り上げてくださいってことなのか!


 私が慌てているのを見て察したようで、宥めるように頭を撫でられた。

 ううう、私の方が年上なのに、なんでこんなウブなラノベヒロインみたいなことやっちゃってるんだろう……。自己嫌悪だよ。


「サツキが俺のことを心配して待っててくれたのはわかってるから」

「そうだけど、誤解を招くことしちゃってごめんなさい」


 これで私たちが関係を持ったと屋敷の人たちには認識されてしまうだろう。

 いつかはそうなるつもりだからいいっちゃいいけど、でもなんかモヤモヤする。


「あの酒は、初夜の時に飲む定番の酒なんだ。甘くて飲みやすいけど度数が強いから緊張をほぐすためっていうのと、確かあの酒には夫婦円満になる逸話があるんだ」

「ええっ!?」


 なんでそんなものが置いてあるの!?誰の差し金!?


「サツキはともかく、俺があの酒の意味を知らないはずはないから、飲まずに早めに戻ればたぶん誤解されずに済むと思う。それと……」


 おもむろに立ち上がると、お風呂場に続く扉を開けて中を覗き、なにかを確かめて戻ってくる。


「あっちに用意されてるものも使ってないし、ベッドに痕跡もなければ……」


 自分でそう言いながらどんどん顔が赤くなっていっている。つられて私の顔も赤くなってるのがわかる。

 さっきから「誤解」って言ってるけど、もう()()じゃなくてもいいんじゃない?


「……ねえ、前にも言ったけど、私、嫌じゃないよ?初めてじゃないから、怖いとかもないよ?」

「そんなこと言われたら我慢できなくなるだろ……」


 そう言って顔を覆ってしまったけど、だから我慢しなくていいって言ってるんだけど。


「俺だって今すぐサツキがほしいけど、でもなんていうか、最初はこんななし崩しじゃなくてもっとちゃんとしたいんだ。それに、今日はサツキ疲れてるし、明日も話し合いに行くだろ?そういうのも全部気遣ってやれなくなると思う……。ごめん」


 私が思ってた以上にヴォルフィは真面目に考えていてくれたようだった。

 それに、冷静に考えたらここは人がたくさんいるお屋敷の中だ。部屋の前を誰かが通って、声聞かれたりしたら恥ずかしいから嫌かも。


「ううん、そうだね。疲れてるのはほんとだし」

「うん。じゃあ、そろそろ戻るな」


 私の頭を優しく撫でて立ち上がるヴォルフィを、扉のところまで見送る。

 そのまま出ていくと思って油断してたら、すっと抱き寄せられてキスされていた。

 触れるだけのキスは、私がそれに気づくと同時に離れていった。


「おやすみ、サツキ」


 耳元でそう言われて、私が固まっている間にヴォルフィは扉から滑るように出ていった。


 あ、甘すぎやしませんか……。これ普通??


 しばらくしてから我に返って、そういえばお風呂に何があったんだろうと思って見に行った。

 そしたら男物の普通のバスローブと、スケスケとまではいかないけどかなり薄手の布で作られたワンピース型の夜着が置いてあった……。ひええええ。


 見なかったことにしてベッドに入ったものの、また私が枕を抱えてひとりでジタバタしたのは言うまでもない。

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