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side勇者【4】

 しばらく進んだところに広場のようになっているところがあった。領都までの道は一応整備されていて、所々にこういう休憩場所が作ってあるそうだ。ぐるっと柵で囲われた中に水場とトイレっぽい小屋があるだけだが、ここで野営していいらしい。柵には魔獣除けの効果があるから、その辺で寝るよりはかなり安全なんだってさ。

 これは道じゃなくて森だろうって思う……。道中がこんなんだと領都って言ってもどの程度のものなのか、あんまり期待できない。早く国王に会いに王都に行きたいものだ。


 ヴォルフガングが馬に水を飲ませ、サツキさんがお茶を用意して俺たちも休憩する。他に休憩している人はいないので、俺たちの貸切状態だ。


「コーヒーってないんですかね」


 昨日よりは飲みやすい味のお茶を飲みながら、思わずつぶやく。


「聞いたことないので、この辺りにはないと思います。もっと遠方の、違う大陸まで行けばあるかもしれませんが……」


 日本にいたときにはなんとなくで飲んでたコーヒーだけど、ないとなると無性に飲みたくなる。


「ビールもないんですか?てか、日本食みたいなのは全然ないんですか?」

「エールはありますけど、味も違いますし冷やして飲むわけじゃないので別物ですね。ワインはあります。日本食は、まずお米がこの辺りにはないので難しいんじゃないでしょうか」


 なんでサツキさんはこんなに他人事みたいに話すんだろう。日本の食べ物が恋しくないのか?異世界モノあるあるの食生活とか内政チートをなんでこの人はしてないんだ?3年もいてるならなんかできただろう。あんな山奥でひっそり薬作りながら暮らして、それでなんで満足してるんだ?


「山本さんは勇者なら遠方に行くこともあるでしょうし、見つかるといいですね。私は特に現状に不満はありませんので」


 考えていることが顔に出てしまっていたらしく、突き放すように言われてしまった。

 勇者なのになんか扱いが悪いよなぁ。普通の転移者だから嫉妬してるのかな?でも俺はいずれ重要人物になるんだから取り入っておいた方がいいのになぁ。

 まあいいや、なんたら子爵のところに着くまでの辛抱だ。


「そろそろ行くぞ」


 ヴォルフガングに言われて、サツキさんがカップなんかをさっとマジックバッグに片付ける。

 サツキさんも御者席に行ってしまったので、荷台は俺一人だ。クッションを枕にごろりと寝転ぶ。寝心地はもちろん最悪だ。硬いし、振動はひどいし、ガタガタうるさいし。でもさっきまでの気づまりな空気よりマシだ。

 サツキさんとヴォルフガングはずっとなにか喋ってるようだ。俺に聞かせたくないのか、かなり距離が近い。そんなに心配しなくても馬車がうるさくて何も聞こえないし、興味もありませんよ。

 幌のせいで寝転がっても空は見えない。俺は仕方なく道沿いの鬱蒼とした森を眺めていた。



 それからかなり走り続けて、ようやく森を抜けた。俺は寝転ぶのも辛くなって、座ってぼーっとしていたんだけど、いきなり開けたところに出てびっくりした。

 前を見ると城壁が見える。高さは3mぐらいで、石造の頑丈そうな壁だ。多分この中が領都なんだろう。やっと着いた!


 城壁には門があって、開いているが衛兵が立っている。ヴォルフガングは門の手前で馬車を止めると、サツキさんと一緒に衛兵のところへ歩いて行った。二人とも身分証のようなものを見せて、衛兵になにか説明してる。時々こっちを見たり指し示しているから、俺のことを話しているのだろう。

 話が終わったらしく二人が戻ってきた。


「このまま領主館へ向かいますので、乗っていてください」


 そう言って、サツキさんも荷台に乗ってきた。

 馬車が門を抜けると、そこは絵に描いたようなファンタジーの街並みだった。

 うっわー!これぞ異世界!こうでなくっちゃ!

 行き交う人々はみんなヨーロッパ風の顔立ちで、全体的に背も高い。髪の毛はいろんな濃さの茶色が多いようで、ピンクとか緑みたいな色は見当たらない。冒険者っぽい風貌の人と、一般人らしい人が入り混じっている。

 門を入ったところから大通りが続いていて、石畳になってる。

 通りの両側には、街中らしく2階建てぐらいの建物がひしめくように建っている。レンガ造りが主流みたいで、全体的に赤茶色の街並みだ。看板が吊り下がってる建物が多いから、この辺はほとんどお店のようだ。ただ、日本みたいにガラス張りのショーウインドウじゃないから、店の中の様子は全然わからない。


「この辺りは冒険者向けのお店が多いです。あそこが冒険者ギルドで、あのへんは武器屋や道具屋ですね」


 俺が目をキラキラさせながらキョロキョロしているので、サツキさんが解説し始めた。


「あっちに通りを何本か行くと、宿屋や食堂が集まったエリアです。道のこっち側に進むと、商業ギルドがあって商店街になってます。このまま大通りを進んでいくと領主館や行政の施設があります」


 冒険者ギルドと商業ギルドなんて異世界の鉄板だよな!だいたい主人公はどっちかに所属してなんかしてるし。


「こっちの通りを城壁まで行くと西門があって、そこが1番ダンジョンに近いです。なので、西門あたりにも冒険者向けのお店がたくさんありますね。正門のあたりは森へ行く冒険者向けのお店ですね」

 ダンジョンかぁ!戦えるようになったら絶対行きたいところだ!

「そのダンジョンはあんまり大きくないんでしたっけ?」

「そうですね。10階層までで、ボスも中堅冒険者なら問題なく倒せるレベルです。冒険者のランクアップで、Cランクに上がる時の試験の一環でそこを踏破するということもあります」

「へー」

「だいたいの冒険者がダンジョン踏破を目標に滞在しているので、あんまり高ランクの冒険者はいないですね。踏破したら、より難易度の高いダンジョンを目指して離れていく人がほとんどです」


 まあ冒険者なんて流れ者ってイメージだし、そんなもんだろう。


「そういえばヴォルフガングさんはどれぐらいのレベルなんですか?」

「Aランクだ」


 御者席のヴォルフガングが振り返りもせずに答える。石畳を走ってても割とうるさいのに、しっかり聞こえていたようだ。

 てか、Aランク!?


「え、それってかなりすごいんじゃないんですか!?」

「すごいですよ。オーレンシア王国全体で、Aランク冒険者は3パーティとヴォルフィだけなので」


 マジかー。確かに強そうだとは思ってたけど、まさかのAランク。しかもソロでって。

 あの見た目でAランクだったらめちゃくちゃモテそう。いいなー。


「ヴォルフィ以外は王都近辺を拠点にしているので、この辺りではAランクはヴォルフィだけです。Bランクの冒険者は侯爵領を拠点にしている人が何人かいるらしいです」

「ちなみに冒険者レベルってどういう感じなんですか?最初は何ランクからです?」

「Gランクからのスタートですね。Dランクが多分1番人数が多くて、向いてない人はなかなかCランクに上がれないので、そこで諦める人も多いです。Cランクになると、怪我でもしない限りは冒険者として安定してくると思います。Bランクになると指名依頼が入るようになるので、ランクアップの条件も厳しくなってきます」


 なるほどなるほど。その辺はよくあるラノベとだいたい同じような感じだな。まあ俺が冒険者をやることはないだろうけど、魔獣討伐ってことになったら関わることはありそうだ。

 でもさっき、この辺には難易度の高いダンジョンはないって言ってたけど、ヴォルフガングはなにやってるんだろう?ダンジョンはなくても高ランク向けの依頼はあるのか?


「もう着くぞ」


 それを聞こうとしたら、領主館に着いたようだ。冒険者の話で盛り上がって、途中から街並みを全然見れてない。失敗した。

 領主館の敷地の入り口にも門があり衛兵が立っていたが、ヴォルフガングの姿を見ると敬礼した。ヴォルフガングは片手を上げると、馬車を止めた。


「ヴォルフガング様、お待ちしておりました。馬車はこちらでお預かりします」

「ああ、頼む」


 すげえな、Aランク冒険者。顔パスかよ。

 俺とサツキさんは馬車から降りて、3人で門を通る。

 領主館は他の建物よりは装飾もされていてそれなりに大きく立派ではあるが、基本は同じような煉瓦造りだった。子爵って貴族の中では下の方だったはずだし、そんなもんか。

 館の扉の前には、いかにも執事といった雰囲気の男性が立っていた。具体的にいうと、シルバーヘアを綺麗に撫で付け、執事服を着た初老の男性だ。


「ヴォルフガング様、サツキ様、異世界のお方、お待ちしておりました。私はモンテス子爵領主館の執事、フランツと申します。お疲れでしょう。まずは昼食をお召し上がりいただくよう、主より申しつかっております。さあどうぞ」


 フランツさんに続いて館の中に入る。中は上品に装飾が施され、絵画や壺なんかも飾ってある。もっと質素かと思っていたら、意外に高級感がある内装だった。


 すぐに食堂に行くのかと思ったら、入り口近くの小部屋に案内された。サツキさんだけ別だ。

 部屋に入るとメイドさんがお湯とタオルを運んできてくれた。おおっ、本物のメイドさんだよ!!仕事中だからか無表情だけど、なかなかの美人で眼福だ!異世界バンザイ!


 食事の前に身綺麗にしろってことらしい。俺が顔を拭いていると、ヴォルフガングも剣や鎧を外している。あれっ、武器って家の中に持ち込んでいいものだっけ?よくわからん。まあいいや。


 小部屋から食堂に案内され、いかにも貴族の家って感じの長いテーブルに着く。運ばれてきたのはサラダにスープ、カリカリのベーコンにオムレツにパンといった、スタンダードな洋食だった。普通においしい。パンはふわっとしてて日本で食べてたのに近いし、スープの具材も変な癖のない野菜だ。よかった、サツキさんが食べてるようなのしかないんだったら生きていける気がしないし。

 サツキさんとヴォルフガングもパクパクと食べている。会話は特にない。


 食後のお茶を飲み終わる頃に、フランツさんがやってきた。いよいよ、子爵との面会だ。

明日と明後日は都合によりアップできないと思います。

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