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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【29】

 ヴォルフィがやたら警戒するから私も木のトンネルの方を見つめていると、若いメイドさんが現れた。


 私たちの体勢(私がヴォルフィの膝の上に座って後ろから抱きしめられてる)を見て真っ赤になり、ビクビクしながら近づいてくる。

 こんな姿でごめんなさい。そりゃあいちゃついてるバカップルになんて、近寄りたくないよね……。


「どうした?」


 ヴォルフィがややきつめの口調で言うから、メイドさんが余計に怯えてるよ。本当にごめんなさい。好きでこんなところに来てるんじゃないだろうに。


「も、申し訳ありません。ベルンハルト様がおふたりを探しておられますので、屋敷の方にお戻りください。申し訳ありません!」


 そう言うと、メイドさんはほとんど走るようにして木のトンネルに消えていった。


「なんだったんだ?」

「いやいや、こんないちゃついてる人たちに話しかけるって拷問だよ?しかも『邪魔しやがって』って言わんばかりに威圧されたら、あんな若い子には恐怖だって」

「……そうか、気をつける。せっかくサツキといるのに邪魔されて、つい。それに、俺がここにいる時に来る人間にはいい思い出がないんだ」


 だからあんなに警戒してたのか。


「彼女は悪気があってやってるわけじゃないからさ。それより戻らないと。昨日の資料のことだよね」


 さっきのメイドさんに片付けをお願いできたらよかったのにと思いつつ荷物をまとめ、急いで戻る。近くにいた別のメイドさんに昼食の片付けと、ベルンハルトさんがどこにいるか教えてほしいと頼む。

 さっき来た若いメイドさんはあまり叱らないであげてほしいということも、お願いしておいた。どんな場面に出会っても動じないベテランメイドを目指して頑張ってほしい。


 ベルンハルトさんは執務室だったので、急いで向かう。

 執務机に座るベルンハルトさんはいつも以上に黒い笑みを浮かべていた。

 お、怒っていらっしゃる……?


「ああ、やっと来た?ふふふ、こんな面白いアイディアと『別件』なんて気になることを匂わせるだけ匂わせて、とっても()()()ランチタイムを過ごしていたらしいね?弟と婚約者が仲良しでなによりだよ。ああ、婚約おめでとうだったね。ふふふ」


 こ、怖い……。


「も、申し訳ありません。スキルの鑑定の後も所用があり、終わった時には昼食の時間を回ってしまっていたのでこの時間になってしまいました」

「兄上、俺がサツキに余計に時間を取らせてしまいました。お叱りは俺に」


 ふたりであわあわと謝罪と説明をする。

 さっきのヴォルフィの威圧なんて子ども騙しと思えるほど、どす黒いオーラが立ち昇っていて本当に怖い。


「ははっ、冗談だよ。ちょっとからかってみただけ。僕は婚約者とたまにしか会えないのにヴォルフたちはずっと一緒にいるから、ちょっと八つ当たりしてみただけだよ」


 まるでスイッチを切るように、どす黒いオーラは一瞬で消え去った。

 でもやっぱりまだ怒ってるような気はする……。


 ベルンハルトさんがソファに移ったので、私たちも向かい側に座った。


「さて、本題に入ろうか。付与術師と職人はひとりずつ選定して、もう契約済みだよ。もちろん魔法契約だからね。そのふたりに試作品を作らせて、うまくやれそうだったらそれぞれの責任者に据える予定だよ。もう研究棟に入っているから、後で引き合わせるね」

「わかりました」

「この魔道具候補たちの話の前に、別件とやらを聞こうかな」

「それは俺の方から」


 ヴォルフィがシュナイツァー伯爵から招かれたので、伯爵領を訪ねて冒険者資格を返す予定であること。その旅に私も同行すること。魔道具製作の区切りがついた段階で出発したいと思ってること。それらについて侯爵の了承は得ていることを話していった。


「父上が了承しているなら僕に反対はできないし、魔道具制作に支障さえなければ構わないよ。そうだね、どの段階まで進めてからにしようかな……。サツキ殿は魔道具のデザインや外観まで携わるつもりかな?」

「いえ。正直なところ私はそれらの魔道具、元の世界では家電と言いますが、それを作ったことはなく仕組みもわかっていません。私にわかるのは、その資料に記載した通り『こんな機能を持っていてこんな見た目の道具だ』ということだけです。ですので、それを技術者の方達にお伝えだけして、あとはこの世界の理論を使って作っていただくのがいいかと思っています。機能も、資料の通りでなくてもこの世界で必要とされるものにアレンジしていただければいいと思ってます」


「ふーん、そうか。じゃあ求める機能を備えた試作品を作るところまでは関わってもらおうかな。その後の、見た目とか販路なんかについては任せてもらうってことでいいかな?」

「それでお願いします」


「販売は商会に任せるつもりだからそっちは選定中。デザインはコンスタンツェに頼むつもりなんだ。住み分けとして、機能・構造の相談役がサツキ殿で、外観・デザインの相談役はコンスタンツェってことにしようかな。それでいい?」

「はい」


「相談されても困るって顔に書いてあるけど、サツキ殿に箔を付けないといけないから肩書きもいるんだよ。王家に召喚されたくないんでしょ?」

「……ご配慮ありがとうございます」

「うんうん、目的がどれなのかを見失わないのは大事なことだからね」


 よくできましたと言わんばかりに頷いている。


 思うに、ベルンハルトさんが侯爵家の男性4人の中で1番厳しいというか現実的というか、目的のために手段を選ばない人な気がする。

 侯爵とアルブレヒトさんも汚い手段をとれるだろうけど、それはなんていうか必要だからっていうのを()()()()()()やる感じ。ベルンハルトさんはそうじゃなくて、この人の本質の中に刻まれてる感じ。

 だから、残酷な手段(拷問なんか)を1番自然体でできるのはベルンハルトさんなんだと思う。


「この魔道具候補たちは写しを作って研究棟に届けてあるよ。もうふたりとも首を長くして待ってるだろうから行こうか」


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