side巻き込まれ薬師【26】
翌日からはめちゃくちゃ忙しくて怒涛の日々になった。
日本にいたときより働いてたんじゃなかろうか……。
でもそれもこれもヴォルフィとふたりで旅に出るためと思ってがんばった!
(もちろん旅はふたりきりじゃない。護衛に騎士はつくし、メイドさんもひとり同行する)
まず、ヴォルフィはすぐに領都の冒険者ギルドに行って侯爵からの指名依頼を受注してきた。内容は客人(つまり私)の護衛。
これでヴォルフィが他の依頼に拘束されることは無くなった。
ちなみに、今回みたいに身内に指名依頼を出すのってどうなんだろうと思っていたけど、別に問題ないらしい。依頼の正式な手順を踏んでるし、ギルドには仲介料も入るし、依頼内容も違法なものじゃないからね。それに、公式には身内って発表してないから突っ込む正当性もギルド側にはないってことになるそうだ。
ギルドに一緒に行かないか誘われてめちゃくちゃ心惹かれたけど、神官さんの鑑定や魔道具の職人さんとの顔合わせも控えてるから泣く泣く断った。
神官さんは午前中のかなり早いうちにやって来た。
ヴォルフィはまだ戻って来ていなくて、ベルンハルトさんも職人さんが来てて手が離せないそうで、アルブレヒトさんが立ち会ってくれるそうだ。
アルブレヒトさんとはほとんど話したことがないので、それはそれで緊張するなぁ……。
見た目はヴォルフィを茶色にした感じで生真面目な雰囲気も似てるけど、そこに侯爵と同じような威厳というか威圧感があって落ち着かないの。
神官さんは亜麻色の髪に焦げ茶の瞳をした、中年ぐらいの穏やかそうな女性だった。
髪は緩い三つ編みにしてあり、白いローブを着て胸元には銀色の飾りを下げていた(後で知ったが知識神の聖印だそう)。
「初めまして。知識神レーヌ様にお仕えしております、司祭のリディアと申します。本日は鑑定のご依頼と伺っておりますが」
「リディア司祭、わざわざご足労いただいて申し訳ない。鑑定してもらいたいのはこちらの女性なのだが、鑑定結果はもちろんこれから話すことも他言無用としてもらいたい」
挨拶もそこそこに、アルブレヒトさんはそう切り出した。ちなみに私はアルブレヒトさんの隣にやや小さくなって座っている。
「もちろんでございます。それがレーヌ神様と、お仕えするわたくし達の間の契約でございます。鑑定に際して見聞きしたあらゆることは胸の内に秘め、決して口にすることはございません。その契約を破れば神罰が下ります。その制約と引き換えにわたくしたちは鑑定を行う能力を授かっているのでございますから」
「……スキルで鑑定するわけじゃないんですか?」
思わず口を挟んでしまった。
「一般的なスキルでの鑑定は鑑定者が『知っていること』しか知覚することはできません。わたくし達はレーヌ神様のお力により、わたくし達も知らない内容でも鑑定することができるのでございます。便宜的にわたくしたちが賜った力も『スキル』と呼んでおりますが、別物と考えていただいてよろしいかと」
えっ、そうなの!?
鑑定をそこまで活用しているわけではなかったけど、私は知らない物でもなんでも鑑定できていた。サーラ神にもらった短剣然り、旅の途中で摘んで食べた薬草然り。
あれは普通じゃなかったのか……。
「こちらの女性はゴトウ・サツキ殿と言って、異界からの客人だ」
「まあ、さようでございますか」
「こちらの世界に流されてくるときに、神託の神より加護とスキルを授かったと言っている。本人はスキルを把握しているが、それが本当かどうかを確かめるためにリディア司祭に鑑定をお願いしたい」
「それはそれは、承知いたしました。ではゴトウ・サツキ様、お手を拝借いたします」
リディア司祭は私の右手を両手で包むようにすると、目を閉じて集中し始めた。
「なるほど……。ありがとうございました」
1分もたたないうちに鑑定は終わったようで、リディア司祭は私の手を離した。そして紙に何かを書きつけていく。
「わたくしが鑑定いたしましたスキルはこちらになります」
渡された紙には調薬、鑑定、収納、剣術、弓術、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、回復魔法、剛力と書かれていた。
「ふむ、サツキ殿の主張と一致しているようだな」
紙を見たアルブレヒトさんは納得してくれたようだったが、私には腑に落ちない点があった。
「あの、私がサーラ神様にいただいたスキルは『薬師』だったはずなのですが、リディア司祭様には『調薬』と見えたのでしょうか?」
「そうでございます。わたくしがこれまでに鑑定した中で、『薬師』というスキルを見たことはございません。これはわたくしの個人的な考えでございますが、スキルとは技能の名前でであるのに対して、今おっしゃった『薬師』は職業名かと存じます。ゴトウ・サツキ様は既に職業に昇華されたスキルを賜ったのではないでしょうか」
言われてみればステータスを見た時も「職業:薬師」となってた気がする。後でステータスを確かめてみよう。
「職業になっていると何が違うんでしょうか?」
「おそらくですが、既に伸びているスキルに実技を追いつかせるだけ……例えるなら知っていることを思い出すようなものなのではないでしょうか」
「……なるほど」
わかったようなわからないような感じだけど、たぶん身につくのが早いってことなんだと思う。
「ゴトウ・サツキ様のスキルはサーラ神から賜られたスキルですので、大多数の方のスキルと違ってわたくし達のスキルに近いと感じました。それは一般的なスキルよりも強力であることを意味します」
「具体的にはどれぐらい違うんでしょうか?」
「そうですね。例えば鑑定ですと、先ほど申し上げたように自身が知らないことでも鑑定できます。わたくし達の神殿ですと、他に『記憶』のスキルを賜る者もおりますが、1度読んだ書物の内容や1度聞いた話の内容を全て記憶しております。ゴトウ・サツキ様にはお心当たりはございませんか?」
「確かに鑑定は知らないものでも鑑定できましたね……。あとのスキルはあまり使っていないのでよくわかりませんが」
「他のスキルもおそらく同じだと思いますので、一通り試されることをお勧めいたします」
ヴォルフィが特訓に付き合ってくれることになってるけど、まずは全スキルを試してみることからお願いしよう。
「よくわかりました。これからもしもサツキ殿がスキルで困ることがあれば、また相談に乗ってもらえるだろうか?」
「もちろんでございます。わたくし達は知識神様の忠実な僕。知識を求める方への協力は惜しみません」
「それは心強い。今日は有意義な時間となったことを感謝する。また神殿の方に寄付もさせていただこう」
リディア司祭が退出し、私も部屋から出ようとしたらアルブレヒトさんに呼び止められた。
「サツキ殿、少し時間をもらえないか?ヴォルフのことで話がしたい」




