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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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27/202

side巻き込まれ薬師【17】

なろうさんの投稿システムをよくわからないまま手探りでやってきたので、アクセスしてくださった数が見れることを先日初めて知りました(遅い)。

ほぼ無言で投稿しかしていない拙作を見にきてくださっている方がいらっしゃることを実感して、感無量です。

とにかく完結まで書き切れるようにがんばろうと改めて思いました。

いつも本当にありがとうございます。

「魔道具の前に確認しておきたいのだが、いつ『災厄』が起こり、いつ『聖女』と『勇者』が召喚されるかまでは女神に聞かされていないのだったな?」

「はい。私の転移はイレギュラーですから、ふたりの召喚とは時間か場所に誤差が出ると言われましたが、具体的なところまではわかりません。場所はオーレンシア王国内だったので、時間の方に誤差が出ていると思いますが……」


 私の返答を聞いて、侯爵は考え込んでいる。

 どれぐらいの期間で魔道具を開発しないといけないかということだけでなく、「災厄」に対して領主として備えをしないといけないのだ。


「その、何か災害の前兆みたいなものはないのでしょうか?」

「そうだな……。魔獣が増えているのは確かに気になっていた。今のところ農作物の出来は変わっていないから、魔獣の大発生が可能性が高いか……」


 魔獣……。

 なんとなく地震や洪水なんかの自然災害とか疫病よりは対処しやすいような気がしてしまうのは、私が魔獣についてよく知らないからだろうか。


 私が考え込んでいる間に侯爵の中では結論が出たようだ。

 姿勢を正して息子たちに向き合う。


「アルブレヒト、モンテス子爵領の災害の備えについてはお前に一任する。魔獣が増えた場合、あちらへの影響は甚大となるだろう。魔獣への対策に重点を置きつつ、他の災害にも備えるように。領の経営そのものもできるだけ早くお前に引き継ぐことにする」

「はい、父上」

「ベルンハルト、お前には魔道具の開発と普及の事業を任せる。我らの領地を富ませてみせよ」

「わかりました、父上」


 それから侯爵は、これまで黙ったままのヴォルフィさんに向き直った。


「ヴォルフガング、お前の立場については今まで明確にしてこなかった。冒険者をさせながらも籍を抜かせなかったのは、私が妻と娘を監督しきれず、お前がそうせざるを得ない状態になってしまったからだ。状況が変わって、そしてお前が望むなら戻ってこれるようにしておきたかった」

「はい、父上」

「まあ本来であれば戻ってきたとしてもどこかへ婿に出すのが一般的だが、今は状況が特殊だ。『災厄』への対処に新事業、信頼できる人手がほしい。だが、お前が冒険者としてランクを上げ活躍していることを軽視しするわけではない。完全に冒険者として、平民として生きたいと言うのなら認める。長年曖昧にしてきたことをいきなり決断せよというのも酷ではあろうが、そろそろどちらにするかをはっきりさせたいと思う」

「…………はい」


 神妙な面持ちで侯爵の言葉を聞いていたヴォルフィさんが、掠れた声で返事をした。


「今ここで決めなくてもいい。しばらく己の気持ちを見つめてみなさい」

「……はい」


 曖昧な立場に追い込んだのは侯爵自身だろうに……と思わんでもないが、当主が己の非を認めて選択肢を与えるっていうのは、この世界ではかなり譲歩されてるんだろうなってことはわかる。


 ヴォルフィさんがおうちに戻るって決めたら冒険者じゃなくなって、そしたら私が冒険者になれたとしても一緒に活動できるわけじゃなくなるんだ……。

 そう思うと、鮮やかに描いたはずの未来予想図が急激に色褪せて見えた。

 いやいや、そもそも一緒に活動する約束なんてしてないし、それにランクが違いすぎてパーティだって組めないしどのみち無理で……。


「サツキ殿」

「は、はい」


 場違いな物思いに耽りかけたらいきなり侯爵に名前を呼ばれ、現実に引き戻された。


「聞いての通り、そなたの世界の魔道具を製作することとした。形になるまではこの屋敷に滞在し、ベルンハルトに協力してもらいたい。もちろん対価は支払おう。よいかな?」


 一応疑問形で聞かれてはいるが、侯爵が魔道具を作ると決めたのならその庇護下にある私は協力する以外ないだろう。


「もちろんです。ただ、ひとつだけお願いがありまして……。スキルを使えるようになるためにどなたかに教えを請いたいので、先生をご紹介いただけませんか?もちろんその方への講師料は私への賃金から引いていただいたら結構ですので、調薬と剣と弓と魔法を教わりたいです」


 このままではスキルが宝の持ち腐れになってしまう。私の家電の知識なんて大したことはないから、アイディアを一通り提供したら魔道具製作はお役御免になるだろう。その時までにある程度は使えるようになっておきたい。

 収納とか鑑定は今でもちょっとは使えているから、とりあえずは自主練でいいだろう。剛力も後回しでいい。

 調薬と戦闘系は未知の世界だから教わって学びたいし、侯爵に口を効いてもらえるなら身元の確かな人に師事できるだろうし。


「ああ、それは構わん。費用もこちらでもつ。調薬はうちと契約している薬師に話をするとして、剣と弓と魔法はあれのところから女性騎士を呼び寄せるか……」


 あれっていうのはおそらく別邸で静養している侯爵夫人のことだろう。


「父上、調薬以外は俺が教えます」


 いきなりヴォルフィさんが口を挟んできた。


「お前では魔法はともかく、体格が違うのだから剣や弓は無理だろう」

「いえ、俺にやらせてください。サツキさんはこの世界にまだ慣れていないのに、さらに知らない人に囲まれて過ごすのはきっと負担です」


 それは確かにそうなので、ヴォルフィさんの気持ちはうれしい。うれしいけど……。


「ヴォルフ。それは冒険者としてやるのか?それとも侯爵家の一員としてやるのか?それが決まらないうちは許可は出せない」

「…………はい」


 そうなるよね……。

 落ち込むヴォルフィさんに、侯爵はふっと表情を緩め、私に一瞬だけ視線を向けてから優しげに声をかけた。


「サツキ殿とも話し合いなさい」

「……はい」

「サツキ殿、薬師の手配はしておく。ベルンハルトと相談して魔道具の方は進めてくれ」

「はい」

「アルブレヒトにはモンテス子爵領の引き継ぎを行うが、あとは下がっていい」


 そう言われて、ベルンハルトさんと私と考え込んでいるヴォルフィさんは退室した。

 しばらく歩いたところで、ベルンハルトさんがいきなり立ち止まった。


「サツキ殿、早速打ち合わせをしたいところだけど、そっちを先になんとかしてあげてくれる?父上の要望でもあるし」

「あ、はい」

「ねえヴォルフ。ほしいものを手に入れるためには覚悟を決めなきゃいけない時があって、なにかを選ぶってことはそれ以外を捨てるってことだよ。いきなり言われて戸惑ってるんだろうけど、でもさ、僕たちみたいな高位貴族に生まれたのに選ぶことができるって稀有なことだよ?」


 自分より少し背の高いヴォルフィさんの頭を撫でながら、ベルンハルトさんが優しく語りかける。

 ヴォルフィさんは泣くのを堪えているような表情をしていた。


「じゃあ僕は行くからね。それからサツキ殿。うちの父はあれで有能な身内にはなかなか甘いから」


 そう言って私にウインクすると、ヒラヒラ手を振りながらベルンハルトさんは立ち去っていった。


「……ヴォルフィさん、庭にいきましょうか」


 そう言って無言のままのヴォルフィさんの手を引き庭に連れ出す。案内してもらったときに、バラの生垣に囲まれて人目につきにくくなっている場所があったので、道を思い出しながらどうにかそこに辿り着いた。


「座りましょう」


 そう言ってもヴォルフィさんは突っ立ったまま動こうとしない。もちろん私の力ではどうにもできない。剛力のスキルを使えば対抗できるのかもしれないけど、今したいのはそういうことじゃない。

 なんとなく顔を見られたくないのかなと思ったので、ヴォルフィさんの後ろに回るとそっと手を握った。


「思ってること、なんでも言っていいですよ。私は貴族じゃないから当主に不満を持つことを咎めたりしませんし、聞いたことを誰にも言いませんから」

「サツキさん……」


 ヴォルフィさんがのろのろと椅子に座ったので、私はその前に立って頭を抱き寄せるようにして、撫でながら話しかけた。


「今まで自由に冒険者してても何も言われなかったのに、いきなりどっちか選べって言われてびっくりしましたよね。冒険者を選んでもいいって言われたら、自分はいなくてもいい人間なのかって思っちゃいますよね。それにおうちに戻ったからといって何をしたらいいのかもわからないし、貴族としての経験値も少ないから不安ですよね。でもずっと、お父さんとお兄さんのことが恋しかったんですよね」


 ヴォルフィさんの立ち居振る舞いには消し去れない上品さがある。それは子どもの頃の教育の賜物だろう。

 だけど、どうしても侯爵やお兄さんたちと比べると洗練されていないと感じてしまうし、さっきのように会話の裏が全く読めていない。それは高位貴族として生きていくなら由々しき問題だ。おそらく徹底的に再教育されると思うけど、棘と毒と裏を端々に滲ませる貴族の社交は根本的に向いてないと思う。

 それを少しずつ経験して学ぶはずの年代を冒険者として過ごしていたから尚更だろう。


「私はヴォルフィさんが教えてくれるって言ってくれて嬉しかったですよ。どうしても不安なのは確かだから、できたら一緒にいてほしいとは思ってました。でもまあそれは置いておいて、ヴォルフィさんが思ってることを聞かせてください。順番バラバラでもなんでもいいんで」


 そう言って黙って頭を撫で続けていると、ようやく体の強張りがとけて話し始めてくれた。

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