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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【11】

 すぐに打ち合わせをすると思っていたのに、なぜか庭の方に連れて行かれ、昨日と同じベンチに座るよう促された。


「サツキさん、なにか気になっていることがあるんじゃないですか?広場にいた時からずっと様子がおかしい気がして……」


 単刀直入に聞かれて私は困ってしまった。

 言ったところでどうしようもないし、自分でもよくわからない漠然としたことだから、適当に誤魔化したい。

 でも、まっすぐ私を見つめる瞳に嘘をつくことはできないし、したくない。

 私は諦めて本心を伝えた。


「昨日の夕方と同じようなことですが、私はこれからどうなるんだろうって急に不安になったんです。私は結局この世界の中では異質な存在です。もしも処刑や幽閉になったらと思うと……」


 それを聞いたヴォルフィさんはものすごく真剣な顔になって、私の手を両手で包みこんだ。無意識に固く握っていた手を解かれると、こわばっていた心がほんの少し緩んだ。


「そんなことは俺が絶対にさせません。父上もそんな扱いをするはずがありません。それでも、もしも誰かがサツキさんを不遇の立場に追い込もうとするなら、俺と一緒に国を出ましょう。冒険者も薬師も他国でもできます。だから安心してください」


 どうしてこんなに親切にしてくれるんですか。って聞こうと思ったのに、言葉の代わりに涙が溢れた。ヤバいと思ったけど、一度溢れ始めると止まらなかった。


「こ、怖いです。見た目もみんな私と違うし、街も生活も何もかも違うし不安です!自分がどうなるのかもわからないし、ちゃんと生きていけるのかもわからないし、何もわからなくて怖くて不安でしょうがないです!私、まだ死にたくない……!」


 そこまで一気に言ったところで、急に抱き寄せられた。一瞬驚いたけど、背中をさすりながら何回も「大丈夫です」って言われて、私は気が済むまで号泣した。最後の方はしゃくりあげすぎて息苦しかったし、泣きすぎて頭痛もしていた。


 私の涙がようやく止まって落ち着いてきたのを見計らって、

「不安になるのは当然です。なんでも思ったことは言ってください。会ったばかりの俺のことなんて信用できないと思いますが、でも俺はサツキさんの力になりたいと思っています」

と、耳元で囁かれた。


 その言葉に私が頷くと、「では戻りましょうか」と言って私をひょいっと抱き上げた。


「顔を上げたくないでしょう。足元が危ないので、ちょっとだけ我慢してください」


 またびっくりしたけど、そう言われたら反論のしようもなくて、私は顔を隠したまま大人しくお姫様抱っこされた。


 周りを見ないようにしていたのでよくわからなかったが、気がつくと私が泊まっている部屋の前に来ていた。

 いつの間にか控えていたクララさんが扉を開けてくれる。


「女性の部屋に入るのはよくないですが……」


と言いつつ、ヴォルフィさんは私をそっとソファにおろすと、顔を見ないようにしながら「後のことは気にしないでゆっくりしてください」と言って部屋から出て行った。

 代官と打ち合わせするのだろう。


 泣き疲れた私は、ソファにゴロンと横になった。

 ノックの音がして、クララさんが入ってきた。

 私のだらしない姿にギョッとしたようだけど、それには触れずに冷たい水の用意をしてくれた。起き上がって顔を洗う。それだけじゃなく、冷たい水につけて硬く絞ったタオルも渡してくれる。


「ありがとう。後は自分でするから、しばらく一人にしてもらえますか?」


 クララさんは躊躇いつつも「わかりました」と言って出て行った。

 私は再びソファに寝転がると、よく冷えたタオルを目に載せた。相当ひどい顔になってるだろうと思う。

 漠然とした不安はヴォルフィさんに吐き出したおかげで、すっきりとしていた。

 でも、また違う悩みが頭をもたげる。


 他でもない、その恩人のことだ。



 私には若干の男性不信があり、さらに男を見る目に自信がない。

 理由は、単に元の世界で過去に付き合った人がなかなかに身勝手でつらかったというだけのこと。でもそれが2連続だったから、なんかもう男なんていらねーって気持ちが半分、私って本当に見る目ないなって自己嫌悪が半分という状態なのだ。

 おまけに、もともと自分に自信もない。


 それで何が言いたいかって、要するにヴォルフィさんを信じ切るのが怖いのだ。

 ただでさえ惹かれつつあるのに、これ以上深入りしてしまってその後で手を離されたら立ち上がれなくなってしまう。


 だったらできるだけ早く一人で生きていくべきなのだが、でもまず私の身の振り方は自分で決められない、結局ヴォルフィさんに頼ることになりそう、でもそれでは見捨てられた時にどうしよう……と、思考が出口のないスパイラルに陥る。


 ヴォルフィさんは見た目も男前な上に、殺されかけてたところを助けてくれたから頼りになるって気持ちもあるし、なのに簡単な料理さえもできないという弱点もギャップ萌えだ。さっきのように優しくもされたら、ころっといってしまってもおかしくないだろう。


 だけども、なんで私なんかに?って思ってしまうのだ。

 私はヴォルフィさんにそこまでしてもらえるような人間じゃない、好意を持たれてるなんて勘違いだ。だから、だから、好きになってはいけない……。

 


 タオルを何回も冷やしながらずーっとぐるぐる考えているうちに、少しずつ落ち着いてきた。

 今ここで考えてもどうしようもないということを、やっと頭と心が受け入れ始めたというべきか。


 私はこの世界で薬師兼冒険者として生きていく、ヴォルフィさんはそれを手助けしてくれると言ったし他に頼る人はいない、そしてすべては侯爵の判断次第。以上。今はっきりしてるのはそれだけ。


 ようやく思考の渦から抜け出した私は、鏡を見て顔がマシになっているのを確認すると部屋から出た。すかさずクララさんが駆け寄ってきて、「執務室へご案内します」と先導してくれた。


「さっきは心配してくれたのにごめんなさい。もう大丈夫だから」

「いえ、落ち着かれたようでよかったです。こちらが執務室です」


 クララさんがノックをして「サツキ様をお連れしました」と声をかけると、すぐに扉が開いてヴォルフィさんが顔を出した。


「サツキさん、もう大丈夫ですか?無理しなくていいんですよ」

「ご心配おかけしました。もう大丈夫ですので、明日の話を私も聞きたいです」

「わかりました、どうぞ」


 執務室は装飾の類はほぼなく、実用性を追求したような部屋だった。どっしりとした執務机が正面にあり、壁際はずらっと本棚になっていて本がびっしりと収められている。一応ソファーセットも置いてあるが、応接室にあるような華やかなものではなかった。


 ソファに案内されて、隣にヴォルフィさんが、向かいにリヒャルトさんが座った。テーブルの上には書類が大量に広げられている。


 そういえば会話は問題なくできてるけど文字の読み書きはどうなんだろうと思いながら書類を見ると、アルファベットみたいな文字と日本語が二重写しで見えた。これもサーラ神のくれた翻訳機能が働いているようだ。とはいえ、読むのはこれで読めても書くのは無理な気がするし、言葉の勉強はいずれしたほうがよさそうだ。この翻訳機能が封じられでもしたら、読み書きも会話も一切できなくなってしまう。

「二人」と「ふたり」なんかの細かな表記は、折を見て統一していきたいと思っています……。

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