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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side聖女【2】

 そして数日が経ち、聖女も自分の状況と求められる使命を理解した。

 国王は聖女が元の世界に帰りたがるかと危惧していたが、予想に反して淡々と状況を受け入れているようだった。

 聖女や勇者が()()()()()()()()()()()()()も伝わってはいるが、積極的に行いたいものではないため国王は安堵した。


 と同時に、勇者がいつまでも召喚されないことに焦りを募らせ始めたころ、国王の元に書簡が届いた。

 それは王国の西の方に領地を持つアイゼルバウアー侯爵からのもので、「勇者が領地内に現れたため保護している。王城にお連れする」という内容のものが一通。


 これは大いに国王を安堵させるものであったが、問題はもう一通の書簡であった。

 そこには「勇者殿を王城に引き渡したのち、アイゼルバウアー侯爵家は勇者と聖女に一切の関わりを持たない。災厄への対策は勇者と聖女に関わらない形でのみ行う」という内容が書かれていた。


 国王は人目がないのをいいことに、書簡を机に叩きつけた。


(侯爵め、どういうつもりだ!?)


 勇者と聖女しか「災厄」を鎮めることはできない。

 それが王国中に広く伝わる伝承であり、王家が「災厄」について()()()()広めている唯一の情報だ。

 そのために王家は王家足りえていると言っても過言ではない。「災厄」が起きた際に、王家の力を借りるために王国が存在していると言っても過言ではない。

 それなのに……。


 さらに困ったことに、同様の内容の書簡がオーディリッツ公爵やシュナイツァー伯爵からも届いたのだ。

 公爵の方は「災厄への対策は勇者と聖女に関わらない形でのみ行う。協力は惜しまない」という内容であり、伯爵の方は「うちは常に魔獣退治で手一杯だ。他領まで手は回らない。うちの領地から外には出さないようには食い止める」という内容だった。


 オーディリッツ公爵は王国内にふたつある公爵家の一方で、王国北方に位置する。気候が厳しい地域のため農業は盛んではないが、その代わりに手工業や芸術を積極的に引き立てて栄えている。

 また、食料が自給できないという弱点を逆手に取って、周辺の領主と強固な関係を築き一大勢力となっている。盟主たるオーディリッツ公爵が示した意向に、おそらくほとんどの領主が追随するだろう。


 シュナイツァー伯爵領は王国東方に位置し、常から魔獣が多く出る危険地帯だ。そのため腕の良い冒険者が集まる地域として有名ではあるが、王国内での重要度は低いと考えられていた。

 ただし、そこが潰れると周辺にも魔獣が溢れ出してしまうため、近隣の領主たちはなんらかの支援は行っているとは聞く。

 シュナイツァー伯爵からの書簡も、実質的には王家への協力を拒む内容と言ってよかった。


 タイミングが重なっていることからして、この3家の間に繋がりと何らかの了解が存在しているものと思われる。


(どういうことだ!?)


 国王は鋼のような自制心で書簡を破り捨てることだけは避けたが、荒れ狂う怒りを抑え切ることはできず机の上のペンとインク壺を壁に投げつける。

 壁に盛大なインクの染みができたその瞬間、見計ったように扉が開いてひとりの女性が姿を現した。


 腰まで豊かに波打つ褐色の髪。勝気な黒い瞳が目を引く華やかな顔立ち。豪奢な毛皮を纏っているのは、その下が南国の薄手の衣服だけだからだと国王は知っている。

 生まれながらに身につけた絶対的な自信と威厳と傲慢さ。

 どこか小馬鹿にするような笑みで壁の染みに目をやってから、女性は断ることもなく室内へ入ってきた。


 王妃エレオノーラ。

 王国南方に位置するもうひとつの公爵家、ジェンティセラム公爵の娘だ。娘はエレオノーラひとりであるため、公爵に溺愛されて育ったという話だ。


 ジェンティセラム公爵領は王国内で最も広く、そして温暖な気候であるため農業も盛んであり、さらに海にも面しているため交易も盛んだ。その豊かさは「王国の中の王国」と言われるほどである。

 それもそのはずで、公爵領は元々は別の国であり、公爵家はその国の王家であったのだ。何時ぞやかの「災厄」の際にオーレンシア王家に助けを求めることになり、その結果としてやむなくオーレンシア王国に組み入れられたのだ。

 よって、公爵家のプライドは非常に高く、今でも独立を狙っていると言われている。


 そのような家から王家に嫁いできたエレオノーラであるから、当然のように国王には従わない。ふたりの王子を産むという王妃の義務は果たしているから尚更だ。

 そもそもが、なぜ王妃などになっているのかが謎である。

 公爵家からの申し出により婚約となったため、当時から公爵家による王家の乗っ取り計画だという噂は絶えない。

 初めから夫婦仲は冷え切っており、義務すらも終えた今となっては顔を合わせることすら稀な間柄となっている。

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