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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【10】

「そろそろ戻りましょう」とヴォルフィさんに促され、真っ暗になる前に館に戻った。

 元の世界に比べるとこの世界の夜はとてもとても暗く、私は全然慣れない。なのに、ついうっかり元の世界の感覚で日暮れに鈍感になりがちなので、ヴォルフィさんはいつも気を配ってくれている。

 そのおかげで、今日もギリギリ足元が見えるうちに館に滑り込めた。


 夕食はリヒャルトさんも一緒なのかと思っていたら、代官は使用人扱いになるそうでヴォルフィさんと二人だった。

 サラダにスープに豚っぽい肉のステーキに、デザートまで堪能した。パンもふわふわだった。

 部屋に戻って寝巻きに着替えさせてもらうと、寝心地のいいベッドで私は一気に眠りに落ちた。



 翌朝、目が覚めるともう明るくなっていた。時計というものはないのか、時間がよくわからない。ぐっすり眠ったおかげで疲れは取れて頭もスッキリしてる。

 どうしていいかわからず部屋から顔を出したら、気づいたメイドさんが洗面器と着替えを持ってきてくれたので、顔を洗って着替える。今日は白地のシンプルなワンピースだった。

 メイドさんに聞くと、そろそろ起こそうかと思っていたぐらいの時間らしく、ちょうどいい時間に目が覚めたようだ。


 食堂に行くとヴォルフィさんはもう来ていて、一緒に朝食を食べる。パンとオムレツとベーコンとサラダだ。やはり食生活も西洋風のようだ。

 これが続くとなると、異世界モノあるあるだけど、和食が恋しくなりそうだ。


「サツキさん、この後は領都のお店を回ってサツキさんに必要なものを買います。とりあえずは服や日用品、移動中に着ておく装備が中心ですかね。調薬道具はここで買うより侯爵領で買う方が品揃えがいいと思いますが、どうしますか?」

「それでいいです。今手に入れても使い方もわからないですし、荷物は少ない方がいいと思うので」

「わかりました。朝食の後、用意ができたら出発しましょう」

「えーと、二人で行きますか?できれば誰か、女性も一緒に来てほしいんですけど……。その、下着のお店とか……」

「あっ、そうですね!お願いしておきます。気が回らなくてすみません!」


 そう言うヴォルフィさんの顔が赤い。モテそうなのに女性の免疫が少なそう。やっぱりお母さんとお姉さんの悪影響で女性が苦手なのかも……。



 私とヴォルフィさん、そして昨日からお世話してくれているクララさんという若いメイドが同行してくれることになったので、3人で馬車に乗る。

 そんな距離でもなさそうだし、街の空気を肌で感じたいのもあって徒歩を希望したけど、最初に行く高級店の界隈は馬車で行かないと世間体がよろしくないようで、馬車にしてくれとお願いされた。

 そんなくだらないことで領主の悪評を立てる気はないし、その後の日用品の買い物は徒歩で回れることになったから私は了承した。


 まずは高級住宅街にある洋品店でドレスを買った。もっと大きな街の洋品店だとオーダーメイドが中心になるけど、モンテス子爵領ぐらいの規模だと既製品が主だそうだ。

 侯爵と最初に会うときには日本の服を着て「異界」の雰囲気を出すべきらしいし、侯爵領に移動したらオーダーメイドするつもりらしいけど、それでも手元に1着もないと急に必要になった時に困るから最低限だけ買うそうだ。


 最低限と聞けば私の感覚では1着なんだけど、最終的に3着買った。

 私の希望はほぼ聞かれず、ヴォルフィさんとクララさんが店員さんと相談して選び、私に試着させて決めたのだ。

 買った3着は銀色、緑色、銀色の雰囲気が違うドレスだった。

 明らかにヴォルフィさんの色であることにやんわりと突っ込んでみたが、「ご本人様が了承されてますので」とクララさんに言われて終わった。


 私の希望は……??

 暖色の方が好きなのですが……。

 いえ、買っていただく身なので何も言いませんが……。


 この世界の人はそんなに奇抜な色の髪や瞳ではないので「互いの色を纏う」って習慣はないのかと思ったけど、ちゃんとあるらしい。

 夫婦や恋人で、髪や瞳の色が違っている場合は互いの色を、似ている場合は揃いの装飾品を身につけることが多いそうだ。


 ヴォルフィさんは何を考えて自分の色を選んだのか……。

 聞きたいけど、聞きたくない。深い意味はないってわかってるけど、それをはっきりとは聞きたくない。

 揺れ動く心から私は目を背けた。



 ドレスはサイズ調整をして、今日中に領主館に届けてくれるらしい。靴も合わせて買った。

 その近くの宝飾店でドレスに合うアクセサリーもお買い上げ(全部緑色……)。

 その後は徒歩の許しが出て、庶民向けの商店街へ。

 今着てるワンピースみたいな普段着や寝巻きをあれこれ買い、クララさんに付き添ってもらって下着も買った。雑貨店でもとりあえず必要そうなものをあれこれ買った。


 化粧水が売ってたからスキンケア事情をクララさんに聞いてみたら、街によって手に入りやすさがバラバラなんだって。

 スキンケア用品も薬師の範疇になるけど、優先順位は低いから薬師全員が作ってるわけではないそうだ(特に男性薬師は作らないらしい)。だから、作ってる薬師がいる街だと手に入りやすいけど、いない街だったらほぼ出回らないらしい。

 いいこと聞いた。薬師になったら絶対作ろう。


 ここでクララさんは先に領主館に戻って、この後はヴォルフィさんと二人で私の装備を購入した。


 防具店では靴から全身一式お買い上げ。

 私の好みも取り入れて、ブーツにパンツスタイルで、チュニックを着る。防具は革の胸当てと籠手だけを買った。ローブも買うか迷ったけど、私の戦闘スタイルが定まってからきっちり揃えたほうがいいってヴォルフィさんに言われて、今日は本当に最低限だけにすることになった。

 確かに、魔法中心で戦うのか近接戦闘をするのかでだいぶ変わるもんね。


 武器屋さんでは量産品の短剣をお買い上げ。杖を兼ねた短剣もあるらしいけど、属性に応じた魔石が嵌めてあるそうで、複数属性が使える私には合ってないってことでただの短剣になった。


 ちなみにサーラ神にもらった短剣はスキルの「収納」で仕舞い込んである。あれはお偉いさんに説明するときにしか出さないつもりだ。


 いろんな剣の中で短剣になったのは、どうせ今の私は戦えないのだから本当にどうしようもない時の護身用としての意味しかないからだ。長いとむしろ邪魔だということ。


 防具も武器も、顔が売れたAランク冒険者と一緒だから、素人丸出しの私でもなんの因縁もつけられずに快適に買い物できたよ、ありがたい。


 一通り買い物を終えると昼過ぎになっていたので、昼ごはんは食べて帰ることになった。希望を聞かれて憧れの「屋台で串焼き」をリクエストしたら、ちょっと驚きつつも嬉しそうにオススメの屋台に連れて行ってくれた。


 そこはいろんな屋台が集まっている広場だったので、私はベンチに座って場所取りしつつヴォルフィさんが串焼きやらあれこれ買ってくるのを待っていた。

 お昼時なのでなかなか混んでいる。


 ぼんやりしているとあちこちから「銀狼が女を連れてる」「あれは誰だ」って会話が聞こえて、チラチラ見られているのを感じた。

 銀狼ってのはヴォルフィさんの通り名のようだ。ピッタリだと思う。私も最初に見たときにウルフみたいだって思ったもの。


 っていうのはいいとして、ここに来たのは失敗だったかもしれない。

 私は正直、目立ちたくない。今後の身の振り方が決まっていない今の段階では特に。

 晴れて冒険者兼薬師として働けるようになったら、しれっとこの世界に紛れ込むのが理想なのだ。


 まあ、それができればなんだけどね……。

 急激に湧き上がった不安が私を飲み込もうとする。

 これだけたくさんの人がいる中で、私だけが異端者で、そして……。


「サツキさん、お待たせしました」


 はっと我に返ると、ヴォルフィさんが料理を山盛りにしたトレイを持って隣に座った。

 大きな肉が刺さった串焼きと、ピタパンのような薄い皮に具が挟まったものと、ジュースみたいな飲み物を買ってきてくれたようだ。


「この串焼きはボアっていう魔物の肉でオススメです。こっちのパンは『女子に人気だ』って串焼き屋の主人に勧められたお店ので、野菜のマリネが挟んであるそうです。それからこれは果実水です」


 と一気に説明したところで、私と周囲の雰囲気を見て察したようにため息をついた。


「すいません、俺のせいですね。どうしても高ランク冒険者ってだけで注目されてしまうので、嫌な気持ちにさせちゃいましたね……」


 そう言って、目に見えて落ち込んだ。あなたが注目されるのは高ランクってだけではないですがね!


「あ、いえ、私の存在は知られないほうが良かったんじゃないかなって心配になってて」

「まあ顔で素性がわかるわけじゃないですし、俺が領主館に誰かを連れてきてるってことはどうせすぐウワサになるので気にしなくていいですよ」


 確かに昨日も二人で街の中を歩いていたし、今更移動しても意味はないかもしれない。私は気を取り直して屋台料理を食べ始めた。


 ピタパンはさっぱりしたマリネがたっぷり挟まっていて、とてもヘルシーだ。

 串焼きはかぶりつきたかったのに白のワンピースなんて着ていたので、ヴォルフィさんが串から外してくれたのをピタパンに押し込んで食べた。ジューシーなお肉に甘辛いタレが絡んでいてめちゃくちゃ美味しい。マリネともよく合う。

 果実水は柑橘系の果物を絞ってあるようで、これまたさっぱりと美味しかった。


 食べながら談笑している姿もめちゃくちゃ見られていて、近寄ってこようという素振りを見せる人もいたがヴォルフィさんがそれとなく牽制していたため、邪魔されることなく食べ終えた。


「では領主館に戻りましょう。明日からのことについて代官とも打ち合わせをしないといけませんし」


 行きとは違う道を通ってくれたので、また違う街並みを眺めて領主館に戻った。

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