side巻き込まれ薬師【182】
2025.11.18追記
いつもお読みいただきありがとうございます。
多忙と体調不良のため、申し訳ありませんが11/20の更新をお休みいたします。
よろしくお願いいたします。
「其方たちもじきに呼ばれるであろうから、あまり時間はない。我が掴んでいることを伝えておく。まず、聖女は既に召喚され、この城の中にいる」
「……そう、なんですね」
今日対面するかもしれないという覚悟はしていたつもりだけど、それが確実だと言われてしまうと……緊張しすぎて吐きそう。
「数日前に、突然城内に現れたそうだ。出現場所は掴めていないが、国王がどこからともなく奇妙な身なりの女性を連れて現れ、聖女だと断言したそうだ」
「どこからともなく……」
「うむ。おそらく、城のどこかに召喚を行う祭壇なり神殿があるのであろう。この城は人間の支配する部分は隠密を入れ放題なのだが、そういった神域の類になってくると神の加護が強固なためか探れぬのだ」
「……やっぱり会わないとダメなんですよね」
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
覚悟してたつもりだったけど、でもやっぱり怖い。不安。怖い。
国王や侯爵家の人たちの前で、私はなんて言われるんだろう……。
責められて罵られて、みんなに「お前が悪い」って言われて、それで……。
「サツキ! しっかりしろ!」
「あ……」
今まで黙って私と公爵のやり取りを聞いていたヴォルフィが、強い口調で私を呼びながら体を揺さぶってくる。
「あ、ごめん。私……」
「会いたくないなら会わなくていい。俺がひとりで行って話をつけてくる。ここに居させて貰えば、強硬手段を取られることもない。そうだろ?」
「……うん」
「行かなきゃ悪いって思ってるんなら、それで決め切れないなら、俺が代わりに決めてやろうか?」
「あ、いや、それは……」
「我は話し相手は歓迎するぞ。どうせ招かれざる客である我は、呼ばれることはないゆえな」
ヴォルフィだけでなく、公爵も私を気遣ってくれている。
それなのに私は……。
どうしてなのか甘えるのが苦手すぎる性格が急に活性化してきて、全てを断りたい衝動に駆られてしまう。
ダメだよ私。それは妹のことを思い出して、かつての自分が甦ってきてるだけ。
今の私の大事なものは? 手放したくないものは?
これまでに何度繰り返したかわからない自分への問いを再び繰り返し、そして言い聞かせる。全然前に進めない自分が嫌でたまらなくなるけど、そういう自己嫌悪もあとでやればいい。
「ヴォルフィ、ありがとう。私も行くし、ちゃんと自分の言葉で話す。公爵様も、ありがとうございます」
「よい」
「本当に、無理するなよ?」
「うん、ありがとう」
少し乱れた髪やメイクを公爵の使用人に直してもらっていると、すぐに来いと呼び出しがかかった。
公爵にお礼を言って、急いで謁見の間に続く扉の前まで行く。
すぐと言われても本当にすぐ入るのではなく、国王が「呼べ」と言ったらすぐに入れるように待機しておくのだ。
「……ちゃんとエスコートできるのか不安だ。俺がサツキに恥をかかせるかもしれない」
「いやいや、運動能力で言ったら私の方がダメダメだし。ハイヒールで裾踏んで転ぶかも」
「そうならないようにするのもエスコートの役割だろ。やっぱり俺のせいだ」
「ええっ、そうはならないと思うけど……」
私たちが起こってもいない転倒の責任を自分に被せようという謎の議論をしていると、扉を開けるから静かにするよう注意された。
ああ、いよいよなんだ。
「サツキ、何回も言ってるけど心配するな。サツキは自分のやりたいようにやればいい」
「そだね、ありがとう」
目の前の扉が重々しく開かれ、私たちはゆっくりと進んでいく。
今日の私は、私の定番となってしまっている銀色のドレスに緑色のアクセサリーを身につけている。
そしてヴォルフィは真っ黒。黒だけって言っても、部分的に光沢のある生地とか質感の違う生地を使ってあるので、単なる黒ずくめではない。ちゃんとおしゃれだ。
義父上と義兄上と、それから勇者がいるところまで来て私たちは礼をとる。
ここまで転ばず無事に辿り着き、そしてカーテシーも間違わずにできたことで私の心にほんの少し余裕ができた。
「サツキ・ゴトウ=アイゼルバウアー、王命により参上いたしました」
「……面を上げよ」
わざと少しだけ家名を強調したのは、国王に通じただろうか?
私はアイゼルバウアー侯爵家の人間で、ヴォルフィの妻で、義父上の義娘で、義兄上の義妹で……。
要するに、もう「聖女の姉」じゃないんです。
意に沿わないお姉ちゃん業は廃業したんです。
私は、それだけの思いを乗せて名乗った。
国王の許しを得て、私たちは顔を上げる。
初めて見る国王は金髪碧眼で、どこかのラノベで見たんじゃないかと見紛うような整った顔をしている。
眉間に皺を寄せて気難しそうな雰囲気なのも、そういう感じが好みなのって人がいそうだ。
もう少し年齢を重ねる方が渋くなっていいかもしれない。
服装は華美ではなく、王城や王都の雰囲気を体現しているかのようだ。
そして、その隣に……。
妹がいた。




