side巻き込まれ薬師【181】
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私は今、王城へ向かう馬車の中にいる。
この馬車に乗っているのは、私とヴォルフィだけだ。
あの後、私だけは身支度をするよう命じられて、話し合いからは離れた。
そこからものすごい勢いで磨かれたり揉まれたり塗られたりして、ヘトヘトになった。
だけど、本来なら謁見に向けて何日もかけて肌や髪の手入れなんかをして用意すべきだったのはわかっているので、なにも言えませんでした……。
使用人たちはもちろん口には出さないけど、全身から「時間がない!!」という叫びを発しているのがはっきり感じられたのでね……。
私がそんな試練に耐えている間に書簡を携えた使者が王城へ赴き、そして予想通り「すぐに勇者を連れて登城せよ」という返事が届いた。
元々そうなることを予想して準備していたとはいえ、それでも邸中がひっくり返ったかのようにバタバタしていた。
義父上の指示通り馬車は2台用意され、うちで最も各式の高い馬車に義父上、義兄上、勇者が乗る。もう1台、王都に来る時に義兄上と勇者が乗っていた馬車に私とヴォルフィが乗って登城するのだ。
王城の周辺にある貴族たちの邸は、当然のごとく家格が高いほど城に近い。なので、侯爵位であるうちもかなり近くに建っているのですぐに着いてしまう。
その短い距離でも、私の鼓動は早鐘のように打ち始め、変な汗があちこちから流れ、呼吸が荒くなっていくのを感じていた。
「サツキ、大丈夫か? 顔色が真っ青だぞ」
「……大丈夫じゃないけど大丈夫」
「いや、なんだよそれ……」
ヴォルフィは既に私の腰に片腕を回しており、反対側の手でも私を落ち着かせようとしたかったようだが、髪もドレスも顔もきっちり整えられているので触るのが憚られ、困った顔で手を彷徨わせている。
「ちょっと面白いんだけど」
「どこがだ……?」
極度の緊張のせいか変なところに笑いのツボができてしまい、私はしばらくクスクスと笑い続けてしまった。ヴォルフィは憮然とした顔をしていたけど、ちょっと緊張がマシになったからありがたいよ。
そのせいでヴォルフィも肩の力が抜けたようで、急に何かを思い出したようだった。
「なあ、俺たちが今いる王都の邸って手放したって聞いてなかったけ?」
「え、そうだっけ?」
「俺たちがシュナイツァー伯爵のところに行ってる時に、そんなことになってた気がするんだけど。ほら、献上した魔道具に対して金貨を下賜されたって話の時に」
「全然覚えてないけど、結局手放さなかったってことじゃないのかな」
「うーん、そうか……」
ヴォルフィは納得がいかないようだけど、今の私は正直それどころじゃないから後で義父上か義兄上にでも聞いておくれ。
馬車は窓をぴっちりと締め切っているので外の状況が全くわからなかったけど、止まったなと思っていたら御者との間の小窓が細く開いて「到着しました」と言われた。
余談だけどこの御者も隠密で、ザシャさんの次に実力があると言われているそう。今日はザシャさんが義父上たちの馬車の御者に扮しているから、こっちは別の人なのだ。
「控え室で待機ってとこまでしか私は聞いてないけど、どうしたらいいんだろうね」
「たぶん誰か迎えが来るんじゃないのか?」
そんなことを言っていると扉がノックされてから開かれ、お城の使用人らしき人に着いて行くように言われた。
私たちが誰で、どうして別行動しているかまで伝わってるのか不安だったけど、どうやら杞憂だったようだ。
ヴォルフィのエスコートを受けながら案内人に着いて城内へ入る。
お城は石造で装飾もほとんどなく、本当に修道院かと思ってしまう質素さだ。頑丈ではあるんだろうけど。窓も少なくて暗いから、昼なのにあちこちに照明魔道具が灯してある。
「こちらです」
そう言われて足を止めたのは、重厚な扉の前だった。
これまた装飾がほとんどない造りだけど、格が高い部屋なのか扉自体は磨き込まれて艶やかに美しかった。両隣に騎士が立って護衛している。
「……誰かいる」
ヴォルフィが微かにそう呟くと、警戒を強めたのがわかった。
この城で私たちを待っている人なんているだろうか?
義父上、義兄上は勇者を連れて謁見中だろうし、いるとしたら……聖女、なの?
にわかに私の緊張も高まる中、扉が開かれ室内に足を踏み入れる。
室内は床も壁も板張りになっていて、廊下のような寒々しさはなかった。
部屋の1番奥にあるソファに座っていたのは……なんとオーディリッツ公爵だった。
驚きを露わにする私たちを見て、いたずらっ子のような茶目っ気のある笑みを浮かべる公爵。
慌てて礼をとる私たちを笑いながら制し、自分の向かいのソファを勧めてくれた。
「驚いたようだな。遥々領地から来た甲斐があるというものだ」
「公爵様がいらっしゃるとは存じ上げず、失礼をいたしました」
「それは構わぬ。我が仕組んだことだからな」
そう言って、またいたずらっ子の笑いをする公爵。楽しそうでいいですね。
お偉いさんにとっては軽い悪戯でも、こっちには重大事件なんだよ……。
「公爵様も王都に到着されていたのですね」
「うむ、昨夜遅くにだがな。だが、こうして運命の日に間に合ったのだから、急いだ甲斐がある」
「公爵様も……その、書簡のために登城されたのですか?」
「もちろんそれもあるが……。お前は今日が正念場なのだろう。我が居座っておれば、国王とて下手なことはできんだろう。お前を見出したのは、アイゼルバウアー侯爵には先を越されているが、国王よりは我が先だ」
言葉だけなら「利用価値のある存在だから」としか聞こえないけど、その眼差しは優しげで、私は不覚にも目が潤みそうになってしまった。
「おっしゃる通りです。お心遣いに感謝いたします」
「よい。望む未来は己が手で掴み取れ」
「はい」
そうだよ、私は負けない。
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