side巻き込まれ薬師【179】
義兄上は眉間を押さえて頭痛を堪えているようではあって、「それ以上の手出しはするなよ」と釘を刺されはしたけど、特にお叱りはなかった。
義兄上も勇者に対しては思うところがあるのかもしれない。
そして夕食もお風呂も終えて寝ようかと思っていたら、なんともうすぐ義父上が到着するという先触れが着いたと知らせが入った。
慌てて身支度を整え、玄関で待機することになった。ギリギリまで玄関の内側で待っていていいと義兄上の許しが出たので、使用人を含めて玄関ホールに寄り集まっている。
「義父上、夜に移動して危険じゃなかったのかな?」
「それはもちろん危険だ。けど、今日のうちにどうにか到着できたら明日すぐに王城に使者が出せるし。それを優先したんじゃないか。ただでさえ到着は遅れているからな」
「そっか……」
いつまでも勇者をうちに置いたままだったら、王城にいらぬ勘ぐりをされるかもしれないもんね。勇者を抱え込もうとしてるとか。
そんな誤解は本当に困るわ。いろんな意味で。
ヴォルフィと小声で話しつつ周囲を窺うと、勇者は端っこの方に立っていた。
こっちに呼ばなくていいのかと思って義兄上を見ると、困った顔をされた。
あ、はい。そうですね。
ここに連れてきて何かしでかすとしたら私ですもんね。すみません。
そんな感じで待機していると、ついに到着したそうで扉が開けられ、みんなゾロゾロと外に出て整列する。
義兄上が先頭で、私とヴォルフィがその後ろ。そして使用人たちはさらに後ろにずらっと並んでいる。
ようやく再開した義父上は、馬車ではなく馬に乗っての到着だった。よほど急いで来たようだ。何事もなくてよかったよ……。
おそらく疲労困憊だろうけど、そんな様子は微塵も感じさせずに力強くこっちへ歩いて来る。一同全員で頭を下げる。
「皆、出迎えご苦労。変わりないか?」
「はっ、一同変わりなく」
義父上の問いに、代表して義兄上が答える。
「勇者殿は?」
「ヤマモト殿、こちらへ」
義兄上に呼ばれて勇者が前へ出てきた。義父上は鋭い眼差しで勇者を見ている。
「勇者のヤマモト・アツシ殿です。ヤマモト殿、こちらが我が父であり、当代のアイゼルバウアー侯爵です」
「ヤマモトアツシです。よろしくお願いします」
義兄上に紹介され、ペコリとお辞儀する勇者。
「うむ、我が領は勇者殿を歓迎する。この国のために苦労をかけるが、よろしく頼む」
義父上は簡潔に勇者に声をかける。
そして、すぐに護衛の騎士たちを労って解放した。
「父上もひとまずお休みください」
「うむ」
もう夜も遅くなりつつあるので、この場は早く解散すべきと判断したのだろう。
義兄上に促された義父上はすぐに邸内に入っていった。
「サツキ、俺たちも戻ろう」
「うん」
私たちも邸内に入ると、使用人たちもすぐに引き上げていった。
勇者は……チラリと振り返ると、俯いたまま玄関に立っているのが見えた。
翌朝、朝食の席へ向かうと既に義兄上が着席していた。
「おはよう」
「おはようございます」
義兄上の向かいにふたりで並んで座ろうとしたら、義兄上に手で制された。
「朝食には勇者殿も招いているから、サツキは私の隣へ。ヴォルフはその向かいへ座りなさい」
「……はい」
テーブルのいわゆるお誕生日席に義父上の席が用意してある。
そこに1番近い席の片方に、既に義兄上が座っている。
なので、私はその隣。義兄上の向かいが勇者になり、その隣がヴォルフィ。
私が勇者から1番遠い席なのは義兄上の気遣いなのだろう。そのせいでヴォルフィは隣になっているのでごめんだけれど。
「父上にお任せしておけば問題ないだろうから、ふたりともおとなしくしておくように」
「……はい」
さすがに勇者と義父上の顔合わせが昨夜の挨拶だけではいけないのはわかっている。一緒に食事をとるのは気が進まないけどね。
「兄上、父上へのご報告は」
「書面にまとめたものはお渡ししてあるから、目は通してくださってるだろう。王城への書簡も案は作成してあるから、父上の了承が得られたらすぐに使者を出す。おそらく今日中に登城ということになるだろう」
「はい」
「それから、これも正式には父上の了承を得ないといけないが、当家は勇者殿と聖女殿に関与しないという書簡も用意できている」
「義兄上、それは……」
「うむ、ここまで根回しを行っていたことをついに実行する時がきたな。もちろん『災厄』に対して何もしないという意味ではない。勇者殿と聖女殿に関わらない形でのみ、当家は王家に協力するという内容だ」
「…………」
「サツキが気に病む必要はない。お前は既に当家にとって必要な人間だ。ゆえに勇者殿や聖女殿のために王城へ召し上げられることは避けねばならん。それがお前の望みと一致しているだけということだ」
「……」
「オーディリッツ公爵様へは父上の方から使者が行っているはずだから、我々と同じ内容の書簡がほぼ同時に届くはずだ。ジェンティセラム公爵様へは協力は求めていないが、『勇者召喚』の報は出してある。あそこは魔獣を他人事だと思っているから、王城と距離を取るようになるだろう。そうなったら、王城も我々に強圧的な行動は取れないだろう」
「……」
「民への被害のことも考えていないわけではないから、気にする必要はない」
「……はい」
聖女と関わりたくない。
それは私が当初からお願いしていたことで、いよいよ実現しそうであることにはとてもホッとしている。
だけど同時に、あいつがどう出るかわからないという漠然とした不安にも苛まれている。




