side巻き込まれ薬師【178】
長らく止まっていましたイザベラと一貫斎の出会いの話、『ある刀鍛冶の神隠し』の更新を再開いたしました!
こちらは火曜・金曜のお昼頃の更新で、11/18に完結予定です。
合わせてお読みいただけると大変嬉しいです!
もう我慢の限界だった。
チラリと浮かんだ義父上の顔に謝罪しつつ、私は勇者を見据える視線を緩めない。
勇者がやって来てから何度となく思ったけど、なぜここまで見下されないといけないのか?
理由を知ったとて何も変わる気がしないから、聞くつもりもないけれど。
確かに私は幸運だったと思う。
最初に出会ったのがヴォルフィで、一般人だけど侯爵家という貴族に迎え入れられた。取り立てて貴族に憧れがあったわけではないけど、立場や身の安全や生活が保証されたことへの安堵は計り知れない。
そのために私は元の世界の知識を利用した。
だけど、それの何がいけないというのだ?
私は勇者や聖女よりも先にこの世界に来たから、先に元の世界の知識を利用することができた。
だけど、それの何がいけないというのだ?
侯爵に気に入られようと、その知識を利用したのがいけないというのか。
なぜ? 私は生きている一人の人間で、まだ生きていたいのだ。
結局のところ、自分より下に見ている私がいい思いをしているから、勇者は面白くないと思っているだけなのだろう。
なぜだか知らないけど、私は惨めに見窄らしく生きているほうがお似合いだと思っているのだろう。
私が得をしては、なぜいけないというのだ?
お前が転移者チートをしたいと思うのは勝手だが、なぜ私が協力しなければならないのだ?
なぜ?
勇者が勝手に私を見下すのは構わない。私のことを嫌うのも構わない。
万人に好かれるなんて思っちゃいないし。
だけど、その扱いを私が甘受するかどうかというのは、また別問題だ。
そして、私はそんなものを受け入れるつもりは毛頭ない。
それは己自身を貶めるものであると同時に、私を認めてくれた人たちをも貶める行為であるのだから。
「ははっ、なにキレてるんですか。図星を指されて逆ギレですか?」
勇者は私の唐突な反論に目を見開いて硬直していたけど、ようやく衝撃から立ち直ったのかぎこちなく挑発してきた。
私は反応しなかったけど、さっきからずっと我慢してるヴォルフィの方に限界が近づいているみたいで、殺気が高まったのを感じた。
それを、さらに腕を強く掴んで押さえ込む。
「一発ぐらい殴ってはいけないのか?」
「ダメ。そんな価値もないし、それで向こうの思う壺になったら余計に癪だもの」
感情面だけでいうなら好きなだけ殴ってスッキリしてほしいところだけど、勇者からそれを誘っている気配がするから止めざるを得ない。
私の言葉に勇者が顔を歪めたから、図星だったのだと思う。
きっと国王に訴えて罰してもらおうとでも考えていたのだろう。
「用は済みましたので、失礼いたします」
私は態度も口調も一切緩めることなくそう告げると、ソファから立ち上がった。
ヴォルフィも殺気を全く抑えず、勇者を睨みながら立ち上がる。
限界まで張り詰めた緊張感の中を通り抜け、部屋の扉を閉めると無意識に息をついていた。
「はあ、やっちゃった」
「別にいいだろ。まだぬるいぐらいだ」
「我慢させてごめんね。気持ちの上では私も殴りたいけど、さすがに後で厄介なことになりそうだし……」
「わかってる。けどちょっと収まりがつかないから、頭冷やしてくる」
そう言うと、ヴォルフィは私を軽く抱きしめてからどこかに向かっていった。
そっとしておいたほうがいいと思ったので追わず、私は義兄上に報告に行くことにした。
さすがに怒られるかな……。




