side巻き込まれ薬師【175】
旅は順調そのものだった。
人目を忍ぶ旅ではないから、できるだけ整備された大きい道を通っている。そのおかげで、悪路で馬に乗るのには不安のある私も危なげなく同行できている。
勇者は最初のうちは時々窓を開けて外を見ていたけど、義兄上に止められたようで途中からはやらなくなった。
締め切ってると息が詰まるし外の景色が見たいっていうのはよくわかるけど、矢で狙撃でもされたら大変なのでね……。
宿泊は毎日宿を確保することができたので、野営をすることなく快適に過ごすことができた。勇者は街に出たかったようだけど、これも義兄上が許可しなかった。
勇者をどうするかっているのは、人前に出すかどうかも含めて国王が決めることだから、下手に私たちが衆目に晒すわけにはいかないのだ。
窮屈だろうけど、王都に着くまでだから我慢してもらわないといけない。
護衛に紛れてしまっている私たちのことも、宿に着くたびに義兄上がちゃんと弟夫婦だって紹介してくれたから丁重に扱われた。
盗賊や魔獣に出会うこともなく進むこと一週間、私たちの前に王都の城壁と門が見えてきた。
でも、街に入ろうとする人や馬車はほとんどなく、門のあたりは閑散としている。
話には聞いてたけど、本当に活気が感じられない街だ。
まず、王都のある地域は結構北寄りで冬はかなり寒い。さらに、ほとんどの日が曇りで分厚い灰色の雲に覆われており、どんよりしている。
見た目も重苦しい灰色だし、空気にも同じ色がついているように見える。
だけどそれは領地の経営方法によってはどうとでもなる話だ。現に、オーディリッツ公爵領はここよりもまだ北に位置するから、どんよりした気候であるのは変わらない。
でも、あそこは室内で長時間過ごすことをうまく活用して文化芸術を発展させている。私自身は行ったことはないけど、上品で洗練された活気があるらしい。
つまり、王都がこうも寂れて見えるのは気候だけが原因ではないのだ。
じゃあ、それはなんなのか。
それは、王家が神官の性質を色濃く残しているため、王都自体が禁欲的な雰囲気を醸し出していることが最大の要因だ。
例えるなら、街そのものが修道院であるかのような雰囲気なのだ。
「最高神スファルの神官」
それが王家が持つ中心的な役割であり、存在意義そのものと言っていい。
定期的に訪れる「災厄」には王家の力を借りないと対抗することができない。だから、実際の領地の規模や兵力、経済力なんかに関わらず、この小さくて薄暗い街を支配する神官家にみんなこうべを垂れる……。
それがオーレンシア王国がオーレンシア王国である由縁だという。
「サツキ、大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
物思いに耽っていたらヴォルフィに心配そうに声をかけられた。周りを見ると、護衛騎士たちも心配そうに私を見ている。
いけないいけない。
「本当に、話に聞いてた通りの街なんだなって思ってただけ」
「ならいいが。やっぱり不安になったのかと思った」
「まあ不安はあるけど大丈夫。このまま行けるよ」
笑顔を作って見せると、やっとみんな安心したようだった。同行している騎士たちは私が勇者と同郷であることを知っているので、みんな私に同情的なのだ。
王都へはスムーズに入ることができた。
アイゼルバウアー侯爵家の家紋入りの馬車である上に義兄上が持っている身分証明もあったからか、既になんらかの知らせが王家に入っているからなのか。まあそのへんはなんでもいいや。
街の中も重苦しい灰色を凝縮したように活気がない。
まず出歩いている人がほとんどいないし、たまに見る通行人も聖職者なのか灰色のローブを着てフードを目深にかぶっている。
お店はあるようだけど、やってるのかどうかわからない。いや、さすがに軒並み潰れてるってことはないはずだけど……。
王都を直線に貫くメインストリートの1番奥には、街並みから飛び出すように高く作られた建物が見える。
あれがスファル神を祀る大神殿だろう。
本当の聖地は王都から1〜2日進んだところにあるらしいけど、そこは王家の直系や高位聖職者以外入れないので、王都にある大神殿が一般民衆にとってはスファル神の聖地なのだ。
私にとっては疫病神でしかないけどね……。
まあでも、この世界に飛ばされたから私はヴォルフィを初めとしていろんなよい出会いに恵まれたわけだから、結果的には悪くはなかったと言える。それがまた複雑なところだよね……。
大体の貴族家は王都にも別邸を持っているので、今日からは私たちも侯爵家の別邸に滞在する。
と言っても、王家の性質からして社交が盛んなわけではないので、どの別邸もあまり使われてないらしい。
侯爵家の別邸は白い壁なんだけど、周囲の灰色を映しているからかやっぱりどんよりして見える。
うちより王城寄りのところに場違いなオレンジ色の建物が見えるんだけど、あれは間違いなくジェンティセラム公爵の別邸だろうな……。でも、そのオレンジ色すらくすんで見える王都の空気の重さよ。
先触れを出していたので、到着した時には別邸の使用人が玄関に勢揃いしていた。
義兄上が言葉をかけ、私たちは執事に案内されてそれぞれの部屋に入った。
と言っても落ち着く間はない。
旅の汚れを最低限落として着替えたら、すぐに義兄上とヴォルフィと共に執務室で打ち合わせだ。




