side巻き込まれ薬師【172】
気づけば25000PVを超えていました!
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そういえば、嬉しい再会もあった。
ポーションの形だけの納品を済ませて庭を散歩し、館内に戻った時のことだ。
「サツキ様……」
おずおずと声をかけられて振り返ると、メイドのクララさんがいた。
私がこの世界に来て右も左も分からない時、ここで私の身の回りの世話をしてくれたメイドさんだ。
クララさんからしたら単に仕事の一環でしかなかったとは思うけど、不安と心細さでいっぱいだった私にとっては親切に接してくれるクララさんの存在はとてもありがたかった。
「クララさん! 今もここにお勤めだったんですね!」
私が喜び勇んで駆け寄るのを、クララさんは笑顔で迎えてくれた。
「お元気そうで何よりです。それに、ご結婚おめでとうございます。サツキ様のご活躍のお話はモンテス子爵領にも聞こえております」
「あはは、どうにかこうにかやっていたらこんなことになりました。あの時は本当にお世話になりました。またお会いできてよかったです」
私はさらに言葉を続けようとしたけど、クララさんの雰囲気が急にピリッとしたので口をつぐんだ。
クララさんは姿勢を正すと、深く頭を下げた。
「あの時は馴れ馴れしく接してしまい、申し訳ありませんでした。今も私などに過分なお言葉をいただき、大変申し訳ありません」
明らかに使用人として一線を引こうとする行動に、仕方ないとはいえ私は寂しさを感じた。
でも仕方ないか……。
あの時は身元不明の異邦人で、これからどのような扱いになるかわからなかった状況だったけど、今の私は主家の人間。もしも以前は私に同情や親しみを感じてくれていたとしても、今はもう違うよね……。
私が諦めて侯爵家の人間として声をかけようとすると、やんわりとヴォルフィに遮られた。
「今の俺たちは冒険者と薬師だぞ。迷い込んできた異界からの客人を、領主様のところに連れてきただけだ」
「…………!」
ヴォルフィの言葉に反射的に顔を上げて、戸惑った素振りを見せるクララさん。
「クララさん、あの時の私はこれからどうなるか全くわからないし、この世界のこともわからないし、とにかく不安でした。そんな中でクララさんに丁寧に接してもらえたことに、とても救われました。クララさんにとってはただのお仕事だったとしても、私はとても感謝してます」
「サツキ様……」
「無理に仲良くしましょうとは言いませんけど、またここで会った時にはよろしくお願いしますね」
「……はい!」
おっと、クララさんが涙ぐんでしまった。私も今は情緒不安定気味だからもらい泣きしそう……。
「サツキ、それならクララに対する言葉遣いは他の使用人に対するのと同じようにする方がいい。クララの立場を悪くする場合もあるだろ」
「あ、それはそうだね。じゃあクララ、改めてよろしくね」
「はい、はい!」
モンテス子爵領に来た時は出会った人に対して「私はただの一般人」として接してたから、ついそのままの態度でいたけどよくないね。
親しみを表現するのとなあなあになるのは違うし。
クララが仕事に戻るのを見送る私は、なんだかすごく満たされた気持ちだった。
この世界で必死にやってきて、ちゃんと築けた信頼や人間関係があるんだなぁって。
夕食の席では義兄上が率先して勇者と話してくれたので、私とヴォルフィはほとんど聞いてるだけで済んだ。
義兄上は嘘なような微妙なラインを突きながら、兄妹の構成とかヴォルフィが冒険者になったことなんかを話していく。
あ、ヴォルフィが今も侯爵家を離れて冒険者をしているっていうのは嘘だね。今の私たちの状況を不自然にしないために、そういうことにしてくれたんだと思う。
義兄上自身のことも、嘘と真実を織り交ぜてぐちゃぐちゃにしてあった……。
それはさすがに気になって後で聞いたら、義姉上に結婚歴があることを言いたくなかったからだって。そのために辻褄を合わせようとしたら、前の婚約者と入り混じった人物像になったらしい。
離婚が珍しくない世界で生きてきた私にとっては、勝手に自分のことを偽られる方が嫌な気もするけど……。まして義姉上は夫に先立たれただけで義姉上に瑕疵があるわけじゃないし。まあ、そこは義兄上との価値観の違いだし、義姉上が怒るならともかく私が文句言うのもなんか違うし踏み込まないでおこう。
なんて余裕をこいていたら、義兄上は私と勇者が同時に転移したらしいってことを普通に話していた。どこまでをどう話すか、打ち合わせしておくほうがよかったね……。
「ってことは、サツキさんは俺の転移に巻き込まれたってことなんでしょうか?」
「そうかもしれません……」
「転移のスタートは同じなのに、違う年に行っちゃうってことがあるんですねー」
かもしれないというか間違いなくそうなんだけど、サーラ神に会ったことは伏せておきたいから曖昧に答えた。
勇者は領主に会えたことで気が緩んでいるのか、呑気な雰囲気だ。
「サツキ殿にはこの3年、とても助けられている。知らない世界でさまざまな苦労があったと思うが、本当にありがたいことだ」
「皆様にお力添えいただいたからです」
義兄上の言葉は他人のふりをしつつも本心であることが伝わってきて、またしても私はジーンとしてしまった。
出会ったのがこの家の人たちで本当によかったと思う。
夕食が終わると勇者はすぐに部屋に戻り、私たちもちょっとだけさっきの義姉上のことなんかを聞いた後はすぐに解放された。私が疲れてることを慮ってくれたようだ。
部屋に戻って扉が閉まった瞬間、もう私はヴォルフィの腕の中にいた。
ようやく感じられる安心感。もう平気かなって思ってたけど、やっぱりまだ張り詰めたものがあったのかポロポロと涙が溢れてきた。
「もう離れたくない」
「ああ、わかってる」
もうずっとずっとずっと離れたくないという私の願いは、確かに叶えられた。




