side巻き込まれ薬師【162】
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山奥での生活は思ってた以上に穏やかで楽しいものだった。
早朝に起きて、私は薬草畑の手入れに行き、草むしりと収穫。水やりに水魔法を使うようにしていたら、前よりちょっとは上達してきた。畑なら失敗して水浸しにしても問題ないから、めちゃくちゃ気楽だしね。
ヴォルフィは、時間がある日は仕掛けておいた罠の様子を見にいって、獲物がいたら血抜きと皮を剥ぐところまでやっておいてくれる。
時間がない日は起きたらすぐにサイファ村に行っちゃうけど。
それから朝食。だいたいは前夜のスープの残りを温めて、チーズを乗せて焼いたパンと一緒に食べるシンプルなもの。
スープは、サイファ村から分けてもらった野菜やクセの少ない薬草に、罠にかかった獲物の肉を合わせたもの。もちろん、食事として摂取しても平気な薬草を選んでる。
その後は、私は昼食を挟みつつひたすら調薬をしている。納品する量は決まってるけど、収納スキルで保存しておけばいいだけだから作れるときに大量に作っておこうと思ってね。それはアルブレヒト義兄上も同じ考えだから、薬草畑では採れない材料を大量に用意してくれている。
それに、こんなに集中して調薬だけをやってられる時はなかなかないから、腕を磨くためにもね。薬師の職業のおかげで私の調薬能力は高いと思うんだけど、それでも納得できない品質のができてしまう時があるんだよね。特にポーションが。それを減らしたい。
納得できないやつは自分用にして、特別にいいできのはヴォルフィに渡してる。ポーションを使う必要があるケガをしないでほしいってのが本音だけど、なにがあるかわからないからね。
ヴォルフィはゆっくり出発の日は朝食後にサイファ村に向かう。
やってる仕事の内容は教えてくれたり、くれなかったり。
教えてくれた仕事は基本的に冒険者を入れてないエリアの手入れなので、普通に魔獣退治とか木の伐採や枝払いに採取だった。
後は、義兄上が派遣した領主館勤めの人からモンテス子爵領の経営を習ってる日もあるそうだ。どういうエリアに冒険者を受け入れて、どこは領主が直接管理しているかとかそういう話だって。ヴァイス地方でも役に立つことを教えてくれてるのがよくわかる。
教えてくれない仕事の内容は、聞いちゃいけないんだろうから気にしないことにしている。あんまり危険なことじゃないといいんだけど……。
ヴォルフィのほとんどの仕事は日帰りなんだけど、たまに1日じゃ終わらない内容の時は帰ってこない。つまり、夜のこの家に私ひとり。これだけが今の生活でどうしても慣れないところ……。いくら防犯はしっかりしているとは聞いていても、やっぱり不安で怖いもの。謎の遠吠えとか聞こえるとさらに怖い……。
その日も、ヴォルフィは帰って来れないと言ってサイファ村に向かって行った。
今日はなぜだかいつも以上に不安で、行かないでって縋りつきたくなるのをこらえて見送った。無事に帰ってきてくれますように……。
その不安は的中したけれど、降りかかってきたのはヴォルフィにじゃなくて私の方だった。
「なんか全然集中できない……。もうやめるか……」
朝からおさまらない不安感のせいで調薬に全く集中できず、史上最悪の品質のポーションを作ってしまった。まあ、これでも中くらいの品質で出回ってるレベルなんだけど、そういう問題ではなく……。
諦めて道具を片付けてしまい、ラグにだらっと寝転がる。
罠に獲物がかかってるか見に行こうかなぁ。でも、どうせひとりだからわざわざ捌く気にもなれないなぁ。
うさぎぐらいの小動物なら私も捌き方は知ってるけど、そんなに得意じゃないんだよね。ヴォルフィに比べるとスピードも遅いし、下手。きっと集中力のない今日はボロボロにしてしまうと思う。
何も手につかず昼寝さえもできないまま、だんだん日が傾いてきた。
山の中の夜は冷えるので、暖炉はつけなきゃ。
暖炉の前まで横着に転がって移動し、のそのそと火を点ける。パチパチと火が燃えるのを眺めていると少し気持ちが落ち着いてきたので、そのままボーッとしていると不意にノックの音がした。
だ、誰……!?
急いで玄関に向かい、護身用に置いている短剣を手に取る。ヴォルフィと違って私は気配を探ったり感じるのが苦手だけど、ノックされるまで気づかなかった不覚に自己嫌悪が湧き上がる。
この小屋があるのは関係者以外立ち入り禁止のエリアだけど、ぐるっと柵とかで囲まれてるわけじゃないから迷った冒険者がやってきてしまう可能性はある。その場合、私は表向きはただの薬師なので保護しないわけにはいかない。
それにしても、どうしてひとりの時に……。
「はい」
嘆きつつも私は覚悟を決めて返事をした。
「すみません! 助けてください! もう動けないんです!」
扉の向こうからは切羽詰まった男性の声がする。
男か……。重ね重ね、どうしてひとりの時に……。
警戒しつつ細く扉を開くと、へたり込んでいる男の姿が見えた。
その姿は……まさか、嘘でしょ!?
私は衝撃で思わず硬直してしまった。
だってそこにいたのは黒目黒髪に彫りの浅い顔。何よりもその服は、元の世界では見慣れに見慣れていたダウンジャケット。
「日本人なんですよね? 麓の村でサツキさんって人がいるって聞きました。あなたなんですよね? 俺も日本人で、さっきこの辺にきたばかりなんです!」
その男が捲し立てた言葉を聞いて、反射的に鑑定スキルを使ってしまった。普段は人に対してはプライバシーを侵してる気がするから使わないんだけど……。
そこに見えたのは「職業:勇者(異世界よりの客人)」という文字。
ああ、ついに来てしまった。
私は真っ暗闇に落ちていくかのような感覚に捕らわれたのだった。
ようやく勇者くんとの出会いまで辿り着きました!
当初想定してたよりも長く長く長くなって、ようやくここまできました。
これに伴い、勇者くん視点の話の中の細かな数字なんかを訂正していきますのでご了承ください。




