side巻き込まれ薬師【161】
私たちがしばらく暮らすことになる小屋は、私がこの世界にやって来た場所とかなり近かった。
ヴォルフィと出会って、最寄りのサイファ村で馬を借りていったわけなんだけど、ウドさんはそのサイファ村に所属しているという扱いだったそうだ。
久しぶりに訪れたサイファ村の感想は、「こんなんだったような気もするけど違うと言われたらそんな気もする」という感じだ。
あの時も村の中に入ったわけじゃないし、それよりも考えなきゃいけないことがいっぱいあったからね。二度と来ないであろう村のことなんて気にしてる余裕はなかった。
あ、でも、あの時も「この村、きれいすぎるな」って違和感は覚えたんだった。山奥に住んでる人たちがみんな貧しいっていうのは偏見なのはわかってるけど、なんかこう引っ掛かるものがあったんだよね。
ここが隠密の村だって知ってその疑問は解けたけど、でもそれはうまく擬態しきれてないってことでもあるから義父上とアルブレヒト義兄上に進言はしておいた。
そうそう、アルブレヒト義兄上も少し前からモンテス子爵領に来て領主代理として仕事をしている。
ややこしいんだけど、義父上が侯爵位を継いだ時から「モンテス子爵」という爵位は、名前だけはアルブレヒト義兄上に与えられている。だけど実際の領主は義父上だから、今の義兄上はモンテス子爵でありながら領主代理であるというわけのわからない状態になっている。
私は元の世界の歴史の本でチラッと見た「儀礼上の爵位」みたいなものかなぁって納得してたけど、ヴォルフィは首を捻ってたし今でも理解してないと思う。
まあ、わかってなくてもなんとかなるでしょう。
今回は義兄上のところには顔を出さず、直接サイファ村に来ている。侯爵家の人間が山奥の小屋に滞在しているなんてバレたら困るので、目立たないことを優先したのだ。
だから、馬車も使わずふたりで馬に乗ってやって来た。
義兄上のところには出発前に使者を出したし、村に着いたら村からも知らせが行くので問題ない。
今回は村長にザッと村を案内してもらった。薬の納品は村の広場で行うからその場所とか、村長の家とか、馬を繋ぐ場所とかそのぐらいだけどね。
あとは、これから私の対応をしてくれる村人を何人か紹介してもらった。
「困ったことが起きたら、なんでも言ってくだされ。領主様と距離は離れておりますが、伝令用の鳥はございますのですぐにお知らせできます」
伝令用に調教した鳥が、この世界では通信手段としては最も速く、そして最も高価だ。
道によっては人が馬を飛ばすほうが早いだろうけど、ここみたいに道が入り組んだ森だと空を飛べる鳥の方が直線で届けられるので早い。
というわけで、うちでは昔から伝令用の鳥をかなりの数飼っている。
イザベラさんの通信魔道具が実用化したらもっと早いんだけど、あれはイザベラさんがちょっと前からうちを離れているので中断している。
幼馴染であり、ヒースさんのお母さんでもあるレイリエルさんに相談したいことがあると言われたので、ヒースさんを護衛につけて送り出した。
詳しくは聞かなかったけど、相談したいっていうのは恋愛問題だよねぇ……。
私に聞かれても人間側(つまり短命な側)からの意見しか言えないし、自分と同じエルフに相談したいという気持ちはわかる。
ヒースさんはヴァイス地方に一緒に行ってもらわないといけないので、それぐらいの時期に一旦イザベラさんも連れて戻ってくることになっている。
その後、イザベラさんがどうするのかはわからない。
私は友達だと思ってるから近くにいてほしいんだけどね……。
そんなわけで、旧来からの連絡方法しかない状態で、私はしばらく暮らす山の中の小屋にやってきた。
小屋とは言っても煉瓦造りでかわいらしい建物だ。もうひとつ建物があり、そっちは大きな浴槽みたいなのがドンと置いてあるだけだ。ウドさんが住んでた時は、お風呂兼薬草や道具の洗い場だったらしい。
住居の方は大リフォームされていて、中に入ると靴脱ぎ場があってリビングのようになっている。ふかふかのラグが敷かれ、ローテーブルとソファが置いてある。それに、暖炉がある!
奥に扉があり、その向こうは寝室でベッドが置いてあった。
リビングに面してカウンターキッチンがあって、その奥にはトイレとシャワー付きのお風呂がある。
これは、かなり住みやすそう。
もともとは土間にかまどなんかがあって、一段高く床を作ったところに藁でできた寝床があっただけだそうだ。
さすがにそんなところに私を住まわせるわけにはいかないってことで、フリッツさんとヤルトさんとメアリを中心に大改造してくれたそうだ。
ぱっと見ではわからないけど防犯も厳重に施されているそうだ。
「ここなら快適に暮らせそうだね」
「そうだな」
ご機嫌でヴォルフィを振り返ると、なぜかそのまま引き寄せられた。
「んん?」
「今日は移動日だから、このまま休んでいいだろ?」
「え、いや、まあ」
「ここまで本当のふたりきりになれることってなかったな……」
「あ、確かに」
部屋の中にはふたりでも扉のすぐ向こうには使用人が行き交っている。邸の離れだとふたりきりになれるんだけど、なんだかんだ忙しくて邸の部屋にいることの方が多くなっていた。
誰も、本当に誰もいないのはいつ振り……というか、恋人になってから初めてかもしれない。
ここにも隠密の護衛はいるんだけど、かなり距離を取るようにお願いしてあるし。
「ねえ、ごはん作ってあげる」
「本当か!?」
「うん」
邸では自分で料理することなんて全くなくて、それはとてもありがたいことなんだけど、せっかくふたりきりなら「新婚夫婦ごっこ」をしてもいいよね。
この3ヶ月が終わったら「領主」として表に出ていかないといけないんだから、今だけは。




