side巻き込まれ薬師【159】
そんなこんなで義母への報告が終わってしばらくたち、フランツィスカ義姉上の懐妊が発覚した。
この国では男女どちらでも爵位は継げるので、無事に産まれたら次の次の侯爵までの継承者がいるってことになる。
ということで、侯爵家はおめでたいムードと同時に、無事に生まれるか否かというピリピリ感が共存した状態になっている。
アルブレヒト義兄上は単純にフランツィスカ義姉上を心配しすぎて、若干鬱陶しい人扱いされている。もちろんみんな表立ってそんな態度は取らないけど、心の中でこっそりね。
フランツィスカ義姉上の懐妊がわかった瞬間から、私の毒関係の勉強は中断というか禁止された。本当に万が一の万が一があってはいけないってことで。
代わりにというか、私はメイヤさんと一緒に義姉上の様子を見て薬湯なんかを処方する任務を与えられた。まあ、ほとんど百戦錬磨のメイヤさんの言うがままなんだけどさ。
そんなおめでたムードの陰で、ひとり思い悩んでいたのがコンスタンツェ義姉上だった。
コンスタンツェ義姉上の方はなかなか子どもができなくて悩み始めていたところに、フランツィスカ義姉上の懐妊によるお祭りムードだ。
当然ながら自分の悩みは押し殺して祝わないといけないし、気遣わないといけない。それが更なる悩みの元になるという悪循環に陥っていた。
私からしたら、まだ「なかなかできない」ってほどでもないと思うけど、本人のなかで気になり出したらどうしようもないもんね。
それに、あのふたりは結婚前から一緒に暮らしてたし、たぶん関係持ってたんだろうなと思う。それなら、後から来たフランツィスカ義姉上が先に懐妊して焦るのもわからなくはない。
それを見かねたベルンハルト義兄上が、私に助けを求めてきたのだ。
専門家じゃないよ……と言いたいけど、薬師を名乗ってる私はこの世界では立派な専門家だからね……。それに、コンスタンツェ義姉上を気遣う人が必要だというのは私もひしひしと感じるし。
私はメイヤさんを連れて、コンスタンツェ義姉上の担当に移った。フランツィスカ義姉上の方は侯爵家の主治医がついているから、私がいなくても大丈夫だろう。
それに、私がいることで主治医がやりにくそうなのが気になってたんだよね。
雇い主の義娘が薬師だって言ってしゃしゃり出てきて、しかも雇い主も手出しを認めてるなんて鬱陶しいに決まってるじゃない。更に、処方するものが間違ってなかったら文句も言えないしさ。
私もそれは感じてたけど、こっちはこっちで義父上とアルブレヒト義兄上からやれって言われてるから、やらなきゃダメなわけで。
私と主治医の微妙な対立は、私がコンスタンツェ義姉上の方に移ったことで解決した。
もちろん、医療的なことをしなくなったってだけでフランツィスカ義姉上と会わないわけじゃないからね。
さて、コンスタンツェ義姉上の方はというと……。
結果的に、数ヶ月後に無事に懐妊した。号泣しながら感謝されて、本当によかったと思ったよ。
私がしたのは、元の世界で好きだった漢方とか薬膳といった東洋医学的な知識の提案がひとつ。体を温める食材を使ってもらうとか、その程度なんだけどね。
あとは、気晴らしと体を動かすことを一緒にしたことかな。部屋に籠って思い悩んでるのが1番よくないからね。
義姉上とした気晴らしは、なんと乗馬。
おかげで私も馬に乗れるようになりましたよ。
もともとは雑談の中で、私が馬に乗れるようになりたいって言ったことから始まった。義姉上は乗れなくはないけど長らくのブランクがあるってことで、ふたりまとめて教えてもらうことになった。
まあ予想通り私の方が大苦戦したけど、最終的にはヴォルフィとベルンハルト義兄上を加えた4人で遠乗りもできた。いや、遠乗りっていうほど遠くないって突っ込まれそうだけど、とにかく4人で馬に乗ってお出かけした。
なんてことない原っぱでサンドイッチ食べて、みんなで行儀悪く寝転んで。
明るい陽の光を浴びて体を動かした、それがよかったみたい。
それからしばらくしての懐妊だったからね。
その後は大きなトラブルもなく、義姉上はふたりとも無事に出産した。どっちも男の子だったので、いい遊び相手になるかライバルになるか……。
まあとりあえず元気に育っておくれと叔母さんは思いますよー。
そんな平和な日々の中、私とヴォルフィは父上に呼び出された。
いよいよ領主として領地へ行けって話かな?
「父上、話というのは?」
「ああ、サツキの裏の薬師としての教育がずっと止まっているだろう。再開をウドに打診したところ、もう教えるべきことは教えてあるから再会の必要はないそうだ」
「あ、そうなんですか」
領主じゃなくて私の勉強の話だった。
しかもこのまま終わりでいいという、なんとなくスッキリしない内容の話だ。
「だが、できるなら修了の課題を出したいと言っている」
「はい」
「ウドはもともとモンテス子爵領の山の中で、薬草を育てながら調薬をして暮らしていた。自分の立場をサツキに引き継ぐに当たっては、できれば自分が行っていた暮らしを体験してほしいと言っている」
「……山奥で薬師をしろってことですか?」
なんということだ。有耶無耶で終わってしまうのも嫌だと思ったけど、そんな課題が出てくるとは夢にも思ってなかった。




