side巻き込まれ薬師【157】
8月14日(木)の更新はお休みいたします。
家庭内のバタバタが続いており、申し訳ありません。
来週には落ち着くと思いますので、通常通りに戻れる予定です。
今日も短くてすみません。
体感で30分ほどたった頃、ヴォルフィとアルブレヒト義兄上が戻ってきた。
ふたりとも疲労困憊といった様子だ。
「どうだったの?」
みんなの気持ちを代表するように、ベルンハルト義兄上がさらりと聞いた。
「まあ、予想通りだ。相変わらず母上はヴォルフしか目に入ってなくて、昔と同じようなことをひたすら言っていた。ヴォルフが成長した姿を見せられたのはよかったと思うが」
アルブレヒト義兄上は乱雑に髪を掻き上げながらそう言うと、珍しく椅子の背もたれに寄りかかっただらしない格好でお茶を飲んだ。
ヴォルフィも疲れ切った表情で焼き菓子を摘んでいる。
「俺が母上の話を遮って次の侯爵は兄上ですって言っても、聞こえてないのかなんなのか話をやめないし……」
そこで一旦言葉を切り、言いにくそうに続きを話し始めた。
「やっと俺の言葉を理解したのは、俺が結婚したって言った時だった。その……貴族じゃない女性と」
「…………」
みんなが一斉に私を見る。その視線はみんな気遣ってくれるものだったので、私は苦笑で返した。
「予想してたので大丈夫ですよ。反対されたってことだよね?」
後半をヴォルフィに向かって言うと、彼は苦々しげに頷いた。
「お前が次の侯爵なんだから相応しい令嬢を迎えなきゃいけないってことを、目を吊り上げて繰り返し始めた。だんだん興奮してきたみたいでヒステリックに喚き出して、宥めようとしたけどうまくいかなくて。最後は主治医に俺と兄上は追い出された」
そして深いため息をつく。
「じゃあ義兄上たちも結婚したってことは……」
「言えてない。母上が落ち着いたら父上が話すと思う」
「そっか……」
沈黙。
みんな、誰に何を言っていいのか図り兼ねてるようだ。私もだけど。
義母も突き詰めて考えればこの貴族社会の被害者と言えるんだろう、とは思う。
だからと言って、被害者なら誰に何をしてもいいというわけでもない、とも思う。
でも、こうやって療養といいつつ閉じ込めておくのが本当に彼女のためになるのか、という疑問も湧く。
じゃあ私に何かできるかというと、彼女にとっては私こそが次期侯爵であるはずの息子を惑わせた毒婦なんだろうから、姿を見せるだけで悪影響だろう。それこそ主治医の許可が出ないと思う。
それにだ。私にとって1番大事なのは夫である人で、それはもう揺るぎなく絶対そうなので、今やるべきは疲れ切ってるヴォルフィのフォローだ。間違いない。
私はラノベのお人好しヒロインにはなれないし、なるつもりもない。
「ま、ヴォルフィがやるべきことはやったんだから、別にいいんじゃないかな。義母上がそれをどう受け止めるかは義母上の問題で、そこまで責任を負う必要はないと思うよ」
「サツキ……。いや、俺が不甲斐なくて俺たちのことを認めてもらえなくて本当にすまない。……傷ついただろ?」
「そりゃあまあ祝福される方が嬉しいけどさ、もちろん。でも、こんなどこの馬の骨とも知れない女を迎え入れて、しかも普通に接してくれてる義父上、義兄上、義姉上の方が奇跡的だと思うよ」
「サツキ……」
これは掛け値なしの本音。
ヴォルフィは育ちがやや特殊ではあるけど紛れもない侯爵子息で、私は異界から来たと本人が言っているだけの不審者だ。立場だけを見るとそうでしかない。
もちろん認められるためにがんばったけれど、血統や家門を持ち出されるとどうにもならない。
ああ、よく異世界転移モノにあるようにどこかの家の養女からスタートすればいいのかもしれないけど。それでも、「生まれ」に拘られるとやっぱり身元不明ってことになっちゃうからね。
「世の中の全員に好かれるなんてこともありえないし、私はすぐ近くにいる人たちに受け入れてもらえてる方を喜びたいかな」
「サツキ!」
感極まったらしきヴォルフィに思いっきり抱きしめられた。
人前で何するのって思ったけど、義兄上たちもなぜか感動してるっぽいからいいか。
ベルンハルト義兄上だけは感動じゃなくて当然って顔をしているけど。
それからさらに1時間ほど経って、ようやく義父上が戻ってきた。
こちらも疲れ切っている。
「父上、母上は?」
代表してアルブレヒト義兄上が聞く。
「……言うべきことは言った。それを理解もしたようだ。だが納得はできないようで興奮状態が続いて、今は鎮静作用のある薬湯を飲んで眠っている」
「…………」
「だいぶ負担をかけてしまったから、この話は当分持ち出さないようにと主治医に言われている。お前たちには無駄足になってしまったが、ここまでだ」
「わかりました」
予想はしてたけど、なんとも後味の悪い結果になってしまった。
義父上はそのまま泊まっていくそうなので、私たちはまた馬車に別れて乗り館を後にしたのだった。




