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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【156】

 義母の療養場所は、小高い丘の上に建っているこじんまりした館だった。

 純白の壁に、くすんだ水色の屋根。優美な装飾が施されていて、元の世界だったら趣味のいい美術館かと思うような建物だ。

 丘自体が麓をぐるっと壁で囲って守られているので、義母がいる館はポツンと建っているように見える。


 そんなに大きくない丘とはいえ、やっぱりやることが義父上だなぁと思ってしまう。

 侯爵夫人が居住しているんだから厳重に守るのは当然ではあるけど、館自体じゃなくてわざわざ麓で囲ってあるのは、義母の目に無粋な設備を入れたくないからなのだろう。

 麓から見上げた館の壁が光を反射するぐらい白いのも、きっと手入れを欠かさずさせているからなのだろう。

 恋愛結婚だったという義父上の深すぎる愛を垣間見る思いです……。


 馬車を連ねて丘の麓までたどり着いた私たちは、当然のようにフリーパスで門を潜る。

 麓には護衛や使用人の居住施設、来客用の建物なんかが建っている。

 畑や牧場まであるのは、新鮮な食物が心身にいいって考えてるからなのかな?

 護衛騎士は全員女性で使用人も女性の方が多いため、みんな地味な格好をしているけど雰囲気が華やかだ。


 私たちはぞろぞろと来客用の建物に入っていった。

 基本的に来客がある場所ではないので、主寝室がひとつ、使用人の部屋がいくつか、台所やお風呂、あとは広めのリビングだけだ。テラスはある。

 これが他家を訪問したのであれば、少なくともこの建物が4つは用意されるだろうこじんまり感。今回は身内だし、みんなもてなされるために来たんじゃないってわかってるから文句は出ない。


 一旦リビングに落ち着き、運ばれたお茶を飲む。

 その間に義母のところに到着の知らせが行くので、あとはその反応次第だ。

 私は知らなかったけど、義父上は時間を捻り出しては義母に会いに来ているそうなので、義父上が拒否されることはないだろうという話。


 適当に雑談しながら待っていると、護衛騎士のリーダーがやってきた。彼女は貴族家出身であるためここでは侍女も兼ねており、この敷地内の責任者だ。すらりとした長身で表情や佇まいも凛としており、某歌劇団の男役を彷彿とさせる。


「奥様は、旦那様とアルブレヒト様、それからヴォルフガング様にお会いされるそうです。申し訳ありませんが、他の方はこちらでお待ちください」


 それを聞いて、私たちの間に微妙な空気が走った。

 ヴォルフィを見ると困った顔をしているし、義父上は困惑と諦めが混ざったような表情だった。


「ヴォルフィ、大丈夫?」

「……ああ。正直なところ、母上の記憶はあまりないから大丈夫だ。それに、何を望まれたとしても俺が揺らぐことはないから」

「うん。じゃあ待ってるね」


 フランツィスカ義姉上もヴォルフィたちの子どもの頃の話は聞いているようで、アルブレヒト義兄上を心配している。

 ベルンハルト義兄上は他人事って感じで、それもまたコンスタンツェ義姉上に心配されていた。


 なんともいえない空気を残したまま、指名された3人は丘の上の館に向かって行った。


「………………」

「………………」


 残された私たちは、しばらく全員無言。


「別に何も心配する必要ないでしょ」


 重苦しい沈黙を切り裂く、いつもと同じようなベルンハルト義兄上の声。

 全員が義兄上の方を見ると、義兄上は本当にいつもと変わらない様子でティーカップを口に運んでいる。


「侯爵である父上が、兄上を後継者に決めた。僕もヴォルフもそれぞれ役割を与えられた。僕たちの結婚も父上の許しを得て行った。それ以上に何かある?」


 ないですね。この国ではないですね。

 当主が決めたんだから、それで終わり。あとはそれを粛々と実行するのみですね。


「今日は()()()()()()()()だからね。母上がうちの運営に直接携わってるんだったら、その言葉は尊重されただろう。だけど彼女は不必要なことだけをして実権から遠ざけられた。……そういうことだよ」

「………………」


 義兄上の言っていることはとても正しい。

 義母の行動は誰にもなんの益ももたらさず、家族間の溝のもとになっただけだ。これが会社であるならば僻地に左遷されても当然だと思うだろう。


 でも、だからといって自分の子どもの人生に関することを事後報告されるだけっていうのもなぁ。どうしてもモヤッとする気持ちが消えない。


 とはいえ、最初から今まで母親になんの興味も示されなかったという境遇のベルンハルト義兄上に言えることなんてないっていうのも本音。

 結果として、女性陣3人は無言のままになる。

 子どもを産む気のない私と違って、義姉上たちは自分に重ね合わせることがもっと多いだろうし。


「義兄上はお母様を恨んでいるのですか?」


 つい口から出てしまった私の疑問に、義兄上は小首を傾げた。


「それじゃあサツキは、君をこの世界に追いやった神を恨んでいるの?」

「………………」


 質問で返された。そして私はそれにパッと答えられない。

 恨んでいるといえばそうだけど、じゃあその恨みのために行動するかというとそんなことはない。だって、私にはもっと大切なことがある。

 義兄上にとっても、そういうことなのだろう。


「……すみません、愚問でしたね」

「いや、遠巻きに気遣われるよりもいいよ。恨みや妬みがあったとしてもさ、それ以上に大切なものがあるならそんなものどうでもいいよね」

「そうですね。私もそう思います」


 それでなんとなく空気が穏やかになり、フランツィスカ義姉上が畑と牧場を見たがったので私たちはテラスに移動してのんびりと待つことにしたのだった。

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