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side巻き込まれ薬師【4】

 次に目を覚ましたら、森の中に転がっていた。


 都市のど真ん中に飛ばされていきなり衛兵を呼ばれるのも困るけど、人里離れた森の中というのも心細いものだ。


 服は日本で着ていたもののままだったけど、コンビニで買ったお菓子やスマホはなかった。

 そういえば次元の狭間にいた時には既に持ってなかった気がする。

 代わりに、なのか見たことのない短剣を握りしめていた。装飾は全くないが、鞘から抜いてみるとなんとなく上質そうなオーラがある。


「鑑定を使えばいいのか」


 鑑定の使い方がよくわからないが、とりあえず短剣をじっと見ながら「鑑定」と言ってみる。

 すると、


名前:神託の短剣

状態:最高

備考:伝令と神託の神が眷属に与える短剣。預言者エリアスに神託を与えた際、先導を務めた天使が所持していたと伝承にある。


 ……えっ。

 なんかものすごく貴重な品のようですが。それに預言者エリアスって誰?

 というか、まずこれで戦えってこと??傷でもつけたらバチが当たりそうなんだけど!!もっと初心者向けの装備をちょうだいよ!!ボロボロにしても惜しくないようなやつ!!


 というのが、私の素直な感想だった。


 仕方がないのでその使い道に困る短剣を握りしめたまま、当たりを見回す。


 若干開けた空間で周りには木、木、木だが、切り株がある。人の手が入っている森ということだ。どこかには人が住んでいるはず。

 改めて周囲を観察してみると、なんとなく道っぽく見えるところがある。近づくと、なんとなくその先に続いてる気がしたので、そちらへ進むことにした。


 素人なりに静かに歩こうと心がけていたがやはり足音は殺せないし、ガサっと音が聞こえるたびに「ひえっ!」と驚くのを止められなかった。

 そんなことを繰り返していくうちに不安が高まってきてしまった私は、早く人里に辿り着きたいと気が焦ってしまい、周りに注意しながら静かに進むことよりも足を早めることを優先してしまった。


 それがいけなかったらしい。


 そのあとすぐに、ホーンラビットという角のあるウサギの魔獣に襲われたのだ。身体は丸くてもふもふのウサギなのに、額に大きなツノが生えていて、めちゃくちゃ顔が怖い。しかも肉食である。


 あとで知ったのだが、ホーンラビットは自分から襲ってくることはほとんどないらしい。どうやら私は気づかないうちにホーンラビットの巣の近くに行ってしまい、怒らせてしまったようだった。


 他に武器のない私はサーラ神の短剣を抜き必死に応戦するが、完全に劣勢だ。擦り傷を何箇所も作り、息が上がってきている。

 ホーンラビットの方は多少の傷は負っているものの、体力的にはまだまだ余裕がありそうだ。


 このままだと確実に負ける、そう思った私はホーンラビットから距離を取り、魔法を使ってみることにした。

 使い方はわからない。しかし、さっき鑑定は「鑑定」と言えば使えた。魔法も同じなら、何か呪文を唱えれば使えるはず。それでダメならもう詰みだ。


「風よ、あいつを切り裂いて!」


 私がそう叫ぶと、体から何かがごっそり抜ける感覚がして思わずへたり込む。

 同時に、不可視の刃がホーンラビットをズタズタに切り裂く。激しく血を撒き散らしながら、ホーンラビットがドサリと倒れる。


 死んでいるか確かめに行きたいのに、体に全く力が入らず動くことができない。

 これがラノベで見る魔力切れってやつなのか?と思っていると、近くの茂みからガサッと音がした。

 音の方へ顔を向けると、ウルフが姿を現していた。戦いの音か血の臭いに引き寄せられてしまったようだ。


 嘘でしょ!?


 万全な状態でもホーンラビットに苦戦する私が、魔力切れで動くことさえできないのだ。万事休すとしか言えない。


 ウルフはすぐに状況を把握し、私の方へ悠々と歩いてくる。強者の優越感が滲み出ている。私にとどめを刺してから、ゆっくりと2体の獲物を食べるつもりなのだろう。


 恐怖で体がガタガタと震えだす。

 ウルフが私に飛びかかろうとしたその瞬間。


 銀の疾風が駆け抜けた。


 永遠のような一瞬が過ぎた時、目の前には血塗れのウルフが横たわり、そのそばに剣を持った男性が立っていた。


 振り返ったその顔は銀髪に緑の瞳。精悍な顔立ちに、野生生物を思わせる身のこなし。

 死んでいるウルフ以上にウルフのような人だな。そう思ったところで、私の意識は途切れた。


 それが私とヴォルフィの出会いだった。


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