side巻き込まれ薬師【3】
「それで、スキルはこの中からひとつ選ぶんですか?」
「いえ、ひとつでなくても構いません。さすがに無制限にはできませんので10個ぐらいでしたら……」
「普通の人はいくつぐらい持ってるものなんですか?」
「基本はひとつです。複数持っている人もいますが、かなり少数です」
10倍ってそれはもらい過ぎでは……と思ったけど、全く知らない世界に行くのだからもらえるものはもらっておこう。
「あなたがこれからどうやって生きていくかで、まずは中心となるスキルを決めるといいかもしれません」
そう言われて、私は日本でどうしたかったのかに想いを馳せた。
どうやって生きていきたいかと言われると、私は元の世界でいうフリーランスになりたい。組織にいるのは疲れた……。だから食いっぱぐれない職種で、手に職つけて生きていきたい。あと、接客業は向いてなかったからもうやりたくない。
そう思いながらスキルを目で追っていくと、「薬師」の文字が目に止まった。
「転移先の医療ってどんな感じなんですか?薬師って需要あります?」
「あります。回復魔法はありますが使い手が限られているので、薬草から作られた薬を使うのが主流です。ポーションという万能薬まで作れるようになれれば、仕事には困らないと思います」
薬師なら販売を兼ねずにやることも可能だろうから、理想的だね!
それにポーションなんて、ファンタジーっぽくてワクワクするし。
「じゃあ薬師を中心に決めますね。この『薬師』スキルでどこまでカバーできるんですか?」
「調合、調薬全般です」
ってことは、道具も材料も揃った状態で「さあ薬を作るぞ!」ってところから役立つスキルってことだろう。
その前に必要な工程……。
まずは薬草採取が必要だし、『鑑定』はある方がいいね。採取に関するスキルはないから飛ばす。『収納』も必須だね。これのあるなしで、1回で採取できる量が格段に変わるし。
薬の材料って植物だけじゃないよねぇ、きっと。動物を狩ることも必要だろうし、薬草採取に行くにしても身を守る術は必要だもんね。
「転移先の世界って、魔物とか魔獣みたいなのはいるんですか?」
「魔獣がいます」
いるのかぁ。じゃあやっぱり戦闘系のスキルも必要だね。
「冒険者なんかもいます?」
「いますよ。魔獣の討伐は冒険者や各地の騎士団が行ってますから」
いるんだね、冒険者!!そうなると、もちろんやりたいよね冒険者。ラノベでは必ず出てくる冒険者。浮草稼業だとわかっていても、それでも憧れちゃうよね冒険者。これはもう薬師兼冒険者路線でいくしかないね!!
さて、何で戦うか。まあやっぱり『剣術』かなぁ。薬のための獲物をとるとしたら『弓術』もある方がいいか。
あとは魔法!せっかく魔法のある世界に行くんだから使いたいよね!『火魔法』『水魔法』『風魔法』『土魔法』の全部いっとく?『光魔法』は聖女と被りそうだからやめておこう。『闇魔法』もなくていいかな。
これで9つ。サーラ神は「10個ぐらい」って言ってたから、あとひとつかふたつ選んでもいいでしょう。
うーん、薬師が『回復魔法』使えたら微妙かなぁ。これも聖女と被るかもしれないし。でも使える方がいざというときに便利だよね。入れとこう。人前で使わないようにすればなんとかなるだろう。
これでちょうど10個だし終わろうかと思った時、私の目にひとつのスキルが止まった。
『剛力』
これも欲しい。
なんでかというと、私は自分の見た目にものすごくコンプレックスがあるのだ。身長は150センチほどで、目がくりくりした童顔。若く見られるのはいいとしても、めちゃくちゃ舐められるの。見た目通りに非力だから、気は強くても力技になるとどうしようもなく、嫌な思いをしたことは数知れず。そんな時に、りんご握りつぶしたり、丸太ぶん投げたりして、「何か文句でも?」ってにっこり笑って言えたらいいのになぁって漫画を読みながら思ったものですよ。よし、これももらおう。
「決めました。『薬師』『鑑定』『収納』『剣術』『弓術』『火魔法』『水魔法』『風魔法』『土魔法』『回復魔法』『剛力』でお願いします」
「わかりましたが、ずいぶん戦闘寄りですね?」
「薬師兼冒険者でいきたいのでこんな感じにしたんですけど……。材料の採取も自分でしたいですし」
「そうですね。『薬師』スキルがあれば調合は問題ないので、ご希望通りにいたしましょう」
サーラ神はそう言うと、スキル一覧に手を伸ばして私が希望したスキルに触れていった。サーラ神が触れると、スキルの文字がふわりと浮かび上がっていく。
11個全てが浮かび上がると、サーラ神は私に手をかざし、「伝令と神託の神サーラの名において、愛し子へ祝福を与えん」と厳かに宣言した。すると、スキルの文字が次々と私の体に吸い込まれていった。
「これで先程のスキルがあなたのものになりました」
そう言われても、私にはなんの実感もない。体の感覚も、さっきまでと何も変わってないように思える。
「信じられないという顔をしていますね。先程もお話ししたように、スキルは放っておいても伸びるものではありません。あなたは『才能』を手に入れたのですよ。とはいえ、自覚する方がいいかもしれないのでステータスを見れるようにしておきましょう。『ステータス・オープン』と言ってみてください」
「ス、ステータス・オープン」
私がそう唱えると、目の前に半透明の板のようなものが浮かんだ。
すごーい!ラノベみたいなステータスだ!
名前:後藤 彩月
年齢:29歳
職業:薬師(異世界よりの客人)
スキル:鑑定、収納、剣術、弓術、魔法(属性:火、水、風、土、回復)、剛力
ギフト:神託と伝令の神の加護
ちなみに、ステータスにレベルが載ってないのは鑑定スキルのレベルが低いから見れないのかと思ったけど、そうじゃなくてレベルって概念はないらしい。だからステータスの中で変化していくのは年齢だけなんだって。
ほとんどの人は自分でステータスを見れないから、子どもの頃にスキルを鑑定してもらって終わりらしい。変わらないなら何回も見る必要ないもんね。
スキルはあくまで「才能」。それを知ったあと、どう生きていくのか決めるのは自分だし、スキルの習熟具合も使いながら見定めていくもの。そこは元の世界と同じような感覚だから、馴染むのに困らなくてよかった部分。
ゲームっぽさを求める人には物足りないかもしれないけどね。
スキルを習熟させていくと、表記が職業になることがあるらしい。才能を仕事にできたという感じだと思う。
私の「薬師」スキルが最初から職業になってるのは、サーラ神がおまけしてくれたらしい。なので、実際に調薬をやり始めると飛躍的に上達したのだった。
「では、他にご質問がなければセラフィールドの世界へお送りしたいと思います」
「仕方ないので、お願いします」
「あちらに出口を開きますので、進んでください」
そう言ってサーラ神が手をかざすと、白い空間に切れ目のようなものができて、体がそっちに吸い込まれていく。反射的に目を閉じ、そこで私の意識は途切れた。
そうして私は異世界の薬師として、新たな人生を歩み始めたのだった。




