表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/184

side巻き込まれ薬師【1】

 ようやくサツキ視点をスタートいたしました!

 これからはもう少し更新頻度をあげていこうと思ってます。

 私の名前は後藤(ごとう)彩月(さつき)。現在、32歳。

 異世界に転移してきて3年目になる、いわゆる巻き込まれ転移者ってやつだ。


 3年前のあの日、私は妹と一緒にコンビニに行って帰る途中だった。新製品のチーズケーキが食べたいけど夜道が怖いと言われ、仕方なくついて行ったのだ。

 ちょうど公園の横を歩いていて、街灯の下で突っ立ってる男の人に若干警戒しながら通り過ぎようとした時、あたりが急に眩い光に包まれた。

 地面に浮かび上がる魔法陣。

 妹が悲鳴をあげながら私の腕にしがみつき、「うるさいな」と場違いなことを思った瞬間に視界が真っ白に染まった。



 はっと気づくと真っ白な空間に浮いていた。見回してもひたすら真っ白で何もない。

 呆然としている私の前で空間が揺めき、いきなり女性が現れた。

 金髪碧眼で肌は抜けるように白い。ギリシア神話の女神様が着ているような、足首まであるドレープたっぷりのひらひらした服を着ている。めちゃくちゃ美人だしスタイルも抜群である。

 その美女はスーッと私に近づくと、物憂げに目を伏せながら私の手を取り、深々と頭を下げたのだった。


「初めまして、異界からの客人。わたくしは最高神スファル様にお仕えしている、伝令と神託の神サーラです。この度はセラフィールドの世界への勇者と聖女の召喚を行なった際に、あなたを巻き込んでしまったので、お詫びとご相談に来ました」


 そんなことをいきなり言われても、私は当然ながらさらに混乱するだけだった。

 サーラ神はそんな私を痛ましげに見ながらゆっくり何度も説明をしてくれ、最終的にどうにか状況を飲み込むことができたのだった。


「えーと、その最高神が司るセラフィールドの世界とやらに勇者と聖女を召喚する儀式を行なって、たまたま近くにいた私も巻き込まれたと?」

「そうです。最高神様は勇者と聖女が近くにいる瞬間を狙って、一気に召喚を行おうとお考えになりました。その際に、近くに無関係な人もいたにも関わらず……。本当に申し訳ありません」


 3年たった今思い返しても、本当にひどい話だと思う。

 神様が手抜きをしようとした結果、その被害にあったという事なのだから、本当に神様なんてものは身勝手だとしか思えない。


「ここは次元の狭間です。本来は勇者と聖女にその役割を説明してから送り込むための場所ですが、今回に限っては巻き込んでしまったあなたともう一人にお詫びと説明をするために使っています」

「もう一人いるの!?」


 さらりと告げられた事実に驚愕した。

 被害者を出し過ぎだろう……。

 もう一人の被害者とは後々顔を合わすことになるのだが、次元の狭間での説明は別々で、その時には出会わなかった。


「というか、説明よりも元の世界に戻してくれたらいいんですけど」


 私がそう言うと、サーラ神は悲痛な顔をして俯いた。


「申し訳ありませんが、次元をまたいで転移する技は最高神様しか使うことができません。そして最高神様は、勇者と聖女の召喚が為されてさえいれば、他の一切は些事として捨て置くとおっしゃっています。本当に申し訳ありません」

「はぁ!?」


 不可能だから戻れないのではなく、神様にその気がないから戻れないのだそうだ。理不尽過ぎて思わず大声を出してしまった。

 サーラ神はそんな私の反応を見て、ますます申し訳なさそうに縮こまっている。


 この時の怒りは今も不意に甦っては私を苛み続けているし、当時の私は「この神様に何を言っても意味がない」と自分に言い聞かせて、荒れ狂う怒りをどうにか鎮めたのだった。

 元の世界にいたときにあちこちの国の神話を読み漁っていて、神様が身勝手で理不尽なことは知っていた。でも、それを知識として知っていることと、現実として我が身に降りかかることは別なんだと実感した。

 それに、自分でやったことの尻拭いを部下にさせてることが、日本にいた時のダメ上司を思い出して腹が立つのもあった。せめて自分で矢面にたてよ。そしたら盛大に罵詈雑言を浴びせるのに……。



 怒りのピークが過ぎた後に私を襲ったのは「虚無」だった。

 それも戻れないことへの喪失感ではなく、「私がいなくなっても誰も困らないだろうなぁ」という虚無感。


 だってそう。

 両親は妹の方がかわいい。私は「お姉ちゃん」という妹のお世話係を望まれてただけ。

 彼氏は半年前に別れてからいない。

 友人・知人たちは悲しんではくれるだろうけど、でも私はあの人たちの1番の存在じゃないから、しばらくしたら忘れられるだろう。

 職場なんて、混乱するのは一瞬ですぐに私なんていなかったかのように回り始めるだろう。別にそこまで思い入れのある仕事でもないし。


 そう、元の世界に、日本に、私を絶対的に1番に思ってくれる人はいない。


 私が消えたことで、例えば半身がもぎ取られたような悲しみを感じてくれる人はいないのだ。


 そう気づくと、私の心は凪いでいった。

 新しい世界でやり直せるなら、その方がいいのかもしれない。そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ