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side巻き込まれ薬師【98】

 午後からはまた一家でサンルームに集まってお話し会だ。

 今日は上空の風が強いようで、日差しが心地いいと思ったらすぐに陰ったりと目まぐるしい。

 

「さて、どこから始めようか」

「父上、俺とサツキの返事をお伝えしたいです。それと合わせてお願いも」

「聞こう」


 ヴォルフィが姿勢を正し、私も隣でそれに倣う。


「ヴァイス地方の領主の話とサツキの薬師の話、どちらも受けます」

「そうか。サツキもそれでよいのだな?」

「はい」


 侯爵は満足そうに頷いた。


「して、願いの方は?」

「ジェンティセラム公爵とサツキが対面する前に、俺とサツキを結婚させてください」

「理由は?」


「南の方の人間は全体的に男女関係に奔放です。また、あの家には未婚の息子がいます。『災厄』に関する情報を手に入れられる()()()()()()、程度の理由で息子の手付きにしてサツキを手に入れようとする可能性があると考えました」

「そうだな、それはありうる」


 ヴォルフィの話を聞く侯爵の態度を見るに、その可能性は既に検討済みなのだと感じた。

 その上で、ヴォルフィがそれに気付くかと、どう対応するかを見てたのかな?


「では、お許しいただけますか?」

「許そう。ただし、準備期間がほとんどないゆえ規模は小さくなるぞ」


「構いません。サツキも気にしないと言っています」

「違いないか?」

「はい。それに、私には招く親族もいませんから」


 できるだけ明るくいったつもりだったけど、若干気まずい空気になってしまった。

 私としては、招く人もいないから準備に手間はかかりませんよってぐらいの気持ちだったんだけど、失敗したな……。


「あ、でも、できるなら招きたい友人はいます。旅の途中で知り合ったエルフなんですけど」


 イザベラさんの話を持ち出した瞬間の反応はみんなバラバラで面白かった。

 苦々しい顔をするヴォルフィ、好奇心で瞳を輝かせるコンスタンツェさん、いいネタを手に入れたと目を光らせる侯爵とベルンハルトさん。


「そのエルフとドワーフについて、今日話す予定であったな。エルフを招くのは賛成だ。エルフやドワーフとの繋がりがサツキがもたらしたものであり、かつ当家と公式のものであると知らしめるのは有益と判断する」

「僕もそう思います。ドワーフの里とは交易を行うのでしょう?」


「そのつもりだ。ヴォルフが受け取っていた里長からの親書、返答はお前と話してから行うつもりでまだ保留してある。交易を行う方向でよいな?」

「はい。彼らを結婚式に招くというのも、父上がそうされるのであれば構いません」


「お前はなにか思うところがあるようであったが?」

「エルフのイザベラ姫に……ほんの少し個人的にわだかまりがあるだけです。サツキとの友情にも侯爵家としての関係にも、異を唱えるつもりはありません」


「ならよいが……。そのエルフの姫であるがな、里長からの親書ではあくまでサツキと友人であるだけであり、当家と公的な付き合いをするのはドワーフだけだと明記されていた。ゆえに、エルフの姫との関係がどうなるかはサツキ次第ということになる」


 なんかいきなりものすごいプレッシャーをかけられた気がする。


「……関係を発展させよということでしょうか?」

「それが叶うなら理想的ではあるが、ひとまずは繋がりが無くならなければよい」


「では、純粋に友人同士であるだけでいいんですね?」

「それで構わぬ。エルフが定期的に我が領に出入りして居れば、差し当たってはよい」


 それならなんの問題もない。何も言われずとも、私はイザベラさんと友人でありたいと思っているのだから。


「そのドワーフの里で魔剣を手に入れたと聞いた。それは使用できるものなのか?」

「はい。お許しいただけるのであれば、ここにお出しします」

「見せてみよ」


 侯爵の許可を得たので、テーブルの上にスペースを空けて、収納から影月と櫻月を取り出した。順に鞘から抜く。


「私以外が触れると呪われるそうなので、触れないようにお願いします」


 折しも雲が切れて日の光が差し込み、ふた振りの刀の白刃を煌めかせた。


「随分と変わった剣であるが、ドワーフの作なのか?」

「いえ、違います。この形状の剣は私がいた国の、古い時代に使われていたものです。その当時の鍛治師がこの世界に迷い込んでしまい、イザベラ様とドワーフの里の力を借りて打った剣だと聞いています。そしてそこにイザベラ様が付与を施されたそうです」


「ほう、異界の鍛治師とエルフの付与か……。サツキは元の世界で剣を振るっていたわけではないのであろう? 使いこなせるのか?」

「……これから特訓します、としか」


「父上、その剣はサツキがイザベラ姫から使うことを許されているものです。サツキが扱えないのであれば、姫にお返しするだけです」


 侯爵家の宝物として取り上げられるんじゃないかってドキドキしていたら、ヴォルフィが先に牽制してくれた。


「魔剣としての能力はどのようなものなのだ?」


 ヴォルフィの牽制を無視して侯爵が話を進める。


「こちらが闇属性で治癒を含む闇魔法が使えます。こちらは火属性で火魔法が使えます」

「どの程度試したのだ?」

「治癒は何度か行いました。1番ひどい怪我は私自身が負っていたものなので、客観的には分かりません。火魔法はその時に魔獣を体内からですが焼き殺しました」


 私が淡々と話した内容にコンスタンツェさんが息を呑む。


「ヴォルフはそれを見ていたと聞いたが?」

「……激しく木に叩きつけられていたので、あちこちの骨は折れていたでしょうし内臓も損傷していたかもしれません」


 その時のことを思い出したようで、ヴォルフィの顔色は悪い。


「それほどの怪我を癒すか……。治癒だけでも価値は高いな。サツキ、その剣はお前に任せるゆえ使いこなせるようになっておきなさい」

「はい」


「ふむ、これで大方は決まったな。ヴォルフは明日より領地経営の教師に付いて学ぶように。サツキは、サイファ村から薬師が到着次第調薬を学んでもらうが、並行して魔剣の特訓を進めるように。コンスタンツェ、ヴォルフたちの婚儀について手配を進めてもらいたい」

「「「はい」」」


 こうして、ようやく侯爵邸での私の日常がスタートしたのだった。

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