side巻き込まれ薬師【93】
「それってタイミング良すぎませんかね……」
「あちらも隠密を張り巡らせているから、当家の動きを掴んで接触してきたのだろう。王妃殿下のことを探られたら困るという考えもあるのかも知れぬ」
ベルンハルトさんとコンスタンツェさんがどこまで先に聞いてるのかわからないので、なんとなく私と侯爵が話す形で進み始めた。
「王妃様は本当に後ろ暗いことをしてたんですかね……」
王妃が隠したいことといえば、1番に思いつくのは不義密通だ。もしかして王子の父親が国王ではないとかいう話になるのだろうか。
「サツキが考えていることは最もだが、おそらくそうではない。先程ベルンが言っていたように、王家は王家であると同時に神官だ。それゆえ生まれた子は皆スファル神の祝福を受けるのだが、直系でなくば祝福が降りぬと聞く。王族だけで行う儀式であるから祝福がないことを隠せなくはないが、神の加護を失うことは王家にとって最も避けたい事態であるから、今の王子は国王の実子であろう」
「なるほど」
「父上、ジェンティセラム公爵はサツキの魔道具に興味を示したんですか?」
ヴォルフィが会話に加わってきた。
「そうだ。王家に献上した魔道具を見たいと希望された。……既にどのような品かわかっていると感じた」
「それは王妃様から聞いたってことなんですかね?」
「そうであろうな」
そこまで聞いて私とヴォルフィは顔を見合わせた。なんとなく話が掴めてきた気がする。
「じゃあ王妃様はわざと王家と侯爵家の仲が悪くなるように仕向けて、むしろ実家と接近させようとしたってことですか?」
「王妃殿下はおそらく最初から今までずっとジェンティセラム公爵家の人間として動いておられるのだろう。何か明確な目的があって王家に輿入れしたと考えられる。その目的は、『災厄』について調べることだろう」
「『災厄』……」
ここでその話に繋がるのか。
「王家だけが『災厄』に対抗できるゆえに王家たり得ている。それは『勇者』と『聖女』を召喚できるというだけでなく、『災厄』に対するあらゆる記録を独占しているからだ。我らは『災厄』の兆候もわからぬゆえ、備えもできぬ。であるから、かつてのジェンティセラム公爵家のように王家に縋らなければいけなくなるのだ。その屈辱を公爵家はずっと忘れていないのだろう」
「自分たちでなんとかできるようになって、王家から離れたいってことですか……」
それは独立を目指すってことだろうか。だとしたら内乱ってこともあるのだろうか。
「当家はサツキの存在により『災厄』が迫っていることを知り、また魔獣の増加も確認して対策を進めている。おそらくその動きも公爵家は嗅ぎ取っているのであろう。そこに斬新な魔道具が献上されたことも加わり、当家がなんらかの特殊な知識を得たと考えたのだろう」
「なるほど。王妃様の調査はあまり進んでないんですかね」
「そうであろう。聖地の中心まで入れるのは直系だけで、嫁いだ外部のものは途中までしか入れぬと聞く。重要な記録のところにまで辿り着けていないと見ておる」
「……侯爵様は、どこまで情報を明かされるおつもりですか? それに、もしも一緒に王家から造反しましょうって持ちかけられたら、お受けになるんですか?」
情報を明かすってなったら面倒だけど私もガッツリ関わらないといけなくなるだろう。
まあでもそれは面倒なだけ。一緒に独立宣言して内乱になったら『災厄』の被害だけじゃ済まなくなる。それは個人的には避けてほしい。
「情報は明かすつもりだ。だが、造反までは考えていない。ゆえにオーディリッツ公爵家も巻き込みたいと考え、サツキに魔道具の案を求めたのだ」
花火のことですね。
「どうしてオーディリッツ公爵家を巻き込めば防げることになるんですか?」
「あちらは争い事を好まぬ。領地の主要な産業は毛織物をはじめとする工芸品で、多数の音楽家や画家に庇護を与えている。それは平和でないと成り立たぬし、北方にあるゆえ自領内で食物を賄い切ることも難しい。ゆえに争いにならぬように持っていくであろう」
「でも、それだけ聞いているとジェンティセラム公爵の方がより有力というか、勝手にやろうとすればできるのではないですか?」
「ところがそうでもないのだ。オーディリッツ公爵家の周辺の貴族家は、やはり影響を受けるのかどこも文化的で争いを好まぬ。縁戚関係も結んでいるから余計にそうなるのだろう。ゆえに、オーディリッツ公爵家を敵に回した場合、北方の多数の貴族も敵に回すことになる。ジェンティセラム公爵領は豊かであるゆえに、他の貴族たちとの繋がりがなくともやってこれたから、特定の近しい貴族家というものがないのだ」
一匹狼でやってきたから、敵もいなければはっきり味方になってくれる人もいないってことか。
「それで花火を使って両公爵をまとめてお招きしたいってことになるんですね」
「そうだ。当家としてはジェンティセラム公爵の本心には気付かぬふりをして、『魔道具をお披露目するならもうひとつの公爵家にもお見せしないといけない』とだけ考えたことにする。その場でジェンティセラム公爵がどう出るのかはわからぬが、牽制の意図は伝わるであろう」
「それはジェンティセラム公爵家とここが敵対することにはならないんですか?」
「そこはサツキの話と『災厄』の話をうまく使っていくことになる」
「なるほど」
内乱にもならず、みんなで『災厄』を防げるなら私の話などいくらでもしてもらって構わない。
「おそらく両公爵にはサツキから直接お話をすることにもなるだろう。それまでにコンスタンツェから最低限の立居振る舞いは教わっておくように」
「……はい」
やっぱりそうなるよね。嫌だけど、ものすごく嫌だけど、そうなるよね……。
いやいや、内乱と『災厄』を防ぐためには嫌がってられないよね……。
「ヴォルフもサツキをエスコートできるようにしておきなさい。サツキが当家の人間と懇意であるというのも牽制になる」
「はい、父上」
ヴォルフィはやたら嬉しそう。お父さんの役に立てて嬉しいのだろう。
「ハナビは危険であるゆえ離れた場所で試作をしているが、近日中に実用段階に持っていけると聞いておる。イルミネーションとやらも製作を進めている。ハナビが実用化した段階で両公爵家に訪問を打診するゆえ、心しておくように」
「「「はい」」」
「さて、ここからはヴォルフとサツキの話を聞こうか。いや、その前にシュナイツァー伯爵について話しておこう」
その名前を聞いて、私とヴォルフィの空気はピリッと張り詰めた。
トラブルでいつもよりだいぶ更新時間が遅くなってしまい、申し訳ありません!