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side巻き込まれ薬師【92】

 ベルンハルトさんは侯爵をチラッと見る。侯爵が頷く。


「エレオノーラ様を王妃にという話は、ジェンティセラム公爵家の方から持っていったという話なんだ。だけど最初から仲は良くなく、義務として王子を2人儲けた後はエレオノーラ様は実家に入り浸っているような状態だったんだ」

「いいんですかそれは……」


「よくはないけど、誰もジェンティセラム公爵家に表立って文句は言えないからね。南方の開放的で享楽的な気風で育った上に、娘はエレオノーラ様だけだったからずいぶん()()()()()()育てられたんだと思うよ。それに対して王家は王家と言いつつ神官の性質が強いままだから、禁欲的なんだよ。まあ、合わなくて当然だよね」


 ますますなんのために娘を王妃にしたのかわからない。


「ここからは私が引き取ろう。続きを話す前に、コンスタンツェにもサツキにも当家の秘密を伝えておく。よいな?」


 侯爵がさっきまでと打って変わった鋭い眼差しでこっちを見ている。疑問形になっているのは形だけのもので、私たちは聞かなければならないのだろう。侯爵家の一員たる覚悟を持って。


「ジェンティセラム公爵家は元が王家であったこともあって、抱えている隠密の規模が大きい。その次が当家だ。さらに言うなら、当家の隠密は暗殺者集団から始まっているゆえ、今もその性質を色濃く残している」


 ついにその話が来たか、と言うところだ。ずっと気になってたんだよね。さすがに暗殺もしてるとは思ってなかったけど。


「ほう、サツキはあまり驚かぬか」


 侯爵にそう言われてコンスタンツェさんの様子を伺うと、かなりショックを受けたようで顔色が真っ白になっている。


「そうですね……。なんとなくそうかなと思ってました。モンテス子爵領にあるサイファ村でしたっけ? あそこは拠点の1つなんじゃないですか?」

「……なぜそう思った?」


「なんとなくの違和感としか言いようがないですけど、本当に山奥で糧を得ている人たちと言うより、そのフリをしていると言う方がしっくりくるような気がして……」

「………………」


 侯爵とベルンハルトさんは無言で顔を見交わせている。

 まずいこと言ったかなぁ。

 ヴォルフィを見ると困った顔をしていた。


「これは鍛え直させるべきか、サツキの観察力が優れていると言うべきか……。その通りだ。モンテス子爵領内にあのような村がいくつかある。だがあそこは武器の扱いなどを教えながら本当に領内の管理も行なっている場所で、現役の者たちは各地に散って潜んでいる」


 そりゃそうだろう。隠密とか密偵っていうのはそういうイメージだ。

 逆にサイファ村のように集団で集まってることの方が特殊な気がする。


「モンテス子爵領は元は当家の領地ではなく、独立した家が治めていた。しかし、あのような山深い立地ゆえ貧しく、領地内の隅々にまで目が及んでいなかった。そのため、いつの間にか暗殺者の一味が根城を構えていたのだ」


 なんですか、そのファンタジー小説みたいな話は!?

 目がキラキラしそうになるのと、鼻息が荒くなりそうなのを必死で抑える。


「数代前に当家とモンテス子爵家が婚姻を結んだことにより、モンテス子爵も当家が持つ爵位の1つとなり領地も取り込んだ。統治のために領内の調査を行っている過程で暗殺者たちともぶつかり、最終的に当家の隠密として使うことになった。当時は本当に暗殺を主な生業としている一団だったが、今は密偵の要素が強くなっている」

「それは、裏切られたりしないんですか?」


「もちろん頭目を含むまとめ役の者たちは生かしていない。そしてな、奴らは代々頭目を殺したものが次の頭目になるというルールで代替わりしていたのだ。ゆえに、頭目を殺した当家に従うことに抵抗はなかったと聞く。厳密に言えば、当時の当主の弟が頭目を手にかけたゆえ、その者が頭目となったのだ。そこから奴らの教育方法も変え、今は当家に忠誠を誓っておる」


 いや、これはほんとにファンタジーの世界だよね!

 ヴォルフィもたまに岩に刺さってた剣を抜いたみたいなファンタジー要素をぶっ込んでくるけど、侯爵家自体がファンタジーのようなことしてるよね!


「あまり衝撃を受けぬのだな」

「ツヴァイさんもカイさんも自分は隠密だって言ってましたし、侯爵家にはたくさん所属してるんだろうなと思ってましたので」

「あやつらめ……」


 侯爵は苦々しい顔をした。

 言っちゃダメだったかな?


「カイは有能であるくせにどうしても自由な気質が抜けないがゆえ、王都の邸の家令という表の仕事に変えたのだ。表に顔を出していれば仕事をせぬわけにいかぬだろう。ツヴァイはその直系の弟子で、似たような性質であったゆえ騎士団に回したのだ」


「ツヴァイさんは、旅の間その隠密であった能力も使って私たちを助けてくれました。あまりお叱りにならないでくださるようお願いします。他の騎士たちも、侍女のメアリもです」

「ああ、奴らから自分たちを罰するよう嘆願が出ていたな」


 あの人たちは、魔獣に私が襲われてしまったことをずっと謝罪していたし、罰してくれと言っていた。まさか嘆願書まで認めてるとは……。


「できれば厳罰にはしないでいただきたく……」

「わかっている、もっと護衛の人数を付けるべきであった。さすがに咎め立てなしとはできぬが、重いものにはせぬ」

「ありがとうございます」


 よかった。ついでに、いかにメアリが休みなく頑張っていたかも訴えて、給金をアップしてもらえることになった。


「ふむ、この辺りで少し休憩とするか」


 侯爵がそう言ってベルを鳴らすと、使用人たちがやってきて冷め切ったお茶を交換していった。

 急に喉の渇きを覚えてお茶を飲み干した。それどころじゃないぐらい話に熱中してたからね。

 しばらく思い思いに軽食を摘んだり、お茶を飲んで過ごした。


「さて、続きであるが、当家が隠密を使って王家の意図を探っていたことは話したな。王妃殿下に疑いを持った頃に、当のジェンティセラム公爵が当家に接触してきたのだ。『エレオノーラのことを探るぐらいなら直接話そうではないか。面白そうな魔道具も作っているらしいな』と」

 どこにも明記してませんが奇数日更新をしていますので、明日も更新いたします!

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