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side巻き込まれ薬師【91】

 翌日は、午後からサンルームに全員集合するよう指示があった。服装も軽装でいいとのことで、メアリが用意してくれた楽だけどいい感じに見えるワンピースを着た。


 いやそれよりも、なんでメアリが休みもなく働いてるのかってところにビックリしちゃったよ……。

 明日からちゃんと休みがもらえるらしいけどね。

 昨日は旅の荷物の片付けを指示して、今日はコンスタンツェさんが来たことによる業務の再編と引き継ぎがあるんだって。

 しばらく私に付けないことをものすごく申し訳なさそうにしてたけど、私はメアリに休みがないことの方が気になるからしっかり休んでほしい。

 


 そして昼食後。

 ヴォルフィにエスコートしてもらってサンルームに行くと、座り心地のよさそうなソファが置いてあり、お菓子や軽食がたくさん用意されていた。

 今日の日差しは強すぎないぐらいの柔らかいもので、サンルームの中はちょうどいい明るさと暖かさだった。

 ソファは2人掛けが3つだったので、そのうちの1つに並んで座っておく。


 すぐにベルンハルトさんとコンスタンツェさんも来て、同じように並んで座っていた。

 程なくして侯爵がやってきて、お茶の用意がされるとサンルームは5人だけになった。


「さて、皆それぞれに気になっていることがあるだろうから、それらを解消し情報の共有を行うために集まってもらった。だが、この席は内輪のものとするゆえ、腹芸も駆け引きも要らぬ。思ったままに話すとよい」

「「はい」」


 私も一緒にそう返事したものの、侯爵の言葉をどこまでそのまま受け取っていいのか……。

 私の困惑に気づいた侯爵がふっと表情を緩めた。


「先に伝えた方がいいであろう。ベルンもヴォルフも、アルビーの婚姻がまだ整わないがために不自由をかけているな。先方の顔を立ててアルビーからと思っていたが、婚約の解消も視野に入れて話をしていくことになったから、お前たちが先になっても構わないだろう。あまり盛大なものにはできぬがな」

「父上、いつなら結婚していいんですか? 早くしたいんですが」


 侯爵の言葉に喜ぶ間もなく、ベルンハルトさんがさらにせっついている。


「ベルンはどうしてそれほど急ぐのだ?」

「今のままでは魔道具の担当者として表にコンスタンツェの名前が出せないからですよ。彼女がどれだけ尽力しても、今は非公式に力を借りているだけだから、出るのは僕の名前だけになってしまいます。それではあんまりだ。侯爵家の一員としてきちんと遇したい。それが力を尽くしてくれた人への礼儀でしょう」


 いつもの人を食った雰囲気ではなく、空気がひりつくぐらいの真剣さ。侯爵は表情を引き締めているし、コンスタンツェさんは涙ぐんでいる。

 私もベルンハルトさんを見直したし、ちょっと感動してる。


「ベルンの考えはわかった。さすがにアルビーの帰還を待たぬわけにはいかぬから、今日明日とはいえないが準備はすぐに取り掛かろう。()()()()()()()も、当家の事情により長らく不自由な思いをさせてしまったことを詫びる。これからも我が息子をよろしく頼みたい」

「はい、はい!」


 コンスタンツェさんはハンカチを顔に押し当てて泣きじゃくってしまっていて、それをベルンハルトさんが優しく宥めていた。


「父上、俺たちもできるだけ早く結婚したいです」


 ヴォルフィも私の肩を抱き寄せながら侯爵に訴え始めた。


「サツキも異界からの客人だと公表して表に出るなら、手に入れようとする輩が絶対に出ます。俺の妻として俺が守れるようにしておきたいです」

「わかっている。魔道具が思わぬ方向に転び始めているから、サツキの安全も考慮しなければと思っていたところだ」

「お願いします」


「侯爵様」


 結婚について話がまとまるのはとても嬉しいけど、ずっと気になってた話題が侯爵の口から出たので口を挟んだ。私としては先にそっちをはっきりさせたい。


「侯爵様。その魔道具についてですが、王家の不興を買ったと聞きました。そのまま事業として継続されるのですか? それに、原因となってしまった私がこのままお世話になっていいのですか?」

「その件についても話さなければならないと思っていた。まず、そこから整理しておくか」


「父上、サツキを追い出すということにはならないですよね……?」

「そのつもりはない」


 1番重要だけど聞きにくいところをヴォルフィが聞いてくれた。私はこのままお世話になっていいようで、顔を見合わせて安堵した。


「魔道具の献上に対して金貨を下賜されたというのは聞いているな?」

「はい。それで父上は王家に見切りをつけて、王都の邸を引き払うことにされたと。アルビー兄上はその始末のために王都に残っておられると聞きました」


「その通りだが、それで全てではない。まず王家の対応の意図を探ったのだが、どうやら我らが魔道具を献上した時に国王陛下は聖地で儀式を行っていて、王宮には不在だったことがわかった」

「誰かが勝手に金貨を下賜したってことですか?」


「書面には御璽があったゆえ、正式な手続きは踏んであるとは思う。だが、国王陛下が意図しない形になったことは否定できん。さらに調べたところ、王妃殿下が代理で行ったということがわかった」

「王妃殿下……?」


「サツキ、王妃殿下はエレオノーラ様といってね、ジェンティセラム公爵家から嫁がれた方だよ。ざっくり言っちゃうと国王陛下ととても不仲なんだ」


 王妃が誰かもわかっていない私の表情を見て、ベルンハルトさんが解説を初めてくれた。

 いつも通りの軽い口調に戻ってるけど、痒いところにさっと的確に手を届かせてくれるのはやはりさすがだなと思う。


「不仲、ですか?」

「そうだよ。そもそもジェンティセラム公爵家っていうのは、元々は別の国の王家だったんだ。だけど、ある時の『災厄』で危機的な状態に陥って、オーレンシア王家に助けてもらう代わりに臣下になったんだよ。だから王家と自分たちは対等、なんなら領地が広くて豊かな自分たちの方が上だと思ってると思うよ」

「それはベルンハルト様個人のお考えではなく、オーレンシア王国の人間は皆感じていることです。『国内の隣国』と表現されることもあるぐらいです」


 コンスタンツェさんも補足してくれた。


「じゃあ、王妃殿下が嫁いで仲を改善しようとしたってことですか」

「そこがね、よくわからないところなんだよ」

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