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side勇者【10】

 妹……。


 そう言われて改めて聖女をまじまじと見ると、確かにサツキさんに似ていた。

 サツキさんの真面目そうな雰囲気を減らして、田舎のヤンキーもどきの女感を足したような感じだ。

 転移前の俺の住んでた地域によくいる雰囲気の女性だけど、サツキさんが俺の近所に住んでたらしいから、それも当然の話か……。

 もっと庇護欲をそそるかわいらしい聖女がよかったという落胆を顔に出さないように心がけながら、俺は聖女を観察していた。

 聖女も現代日本の服装をしている俺に当然ながら気付き、じっとこっちを見ている。あんまり好意的じゃない気もするな……。人見知りなだけかもしれないが。



 それにしても、さっきの国王と侯爵の会話を思い返すと、サツキさんは聖女が妹さんとわかった上で、勇者と聖女に関わりたくないと言っていたことになる。

 ひどくないか??

 妹が自分と同様に転移してきて、しかも聖女という大役を担っているんだ。そこは姉としても、この世界の先輩としても寄り添ってあげるべきだろう。サツキさんはモブでしかないんだから。



「聖女クミカ殿は一週間ほど前に、王城の召喚陣に出現された。伝承では勇者と聖女が同時に出現するはずで不審に思っていたところに、アイゼルバウアー侯爵より『勇者殿を保護している』という知らせが届いたわけだ。少々伝承と異なっている部分はあるが、こうして二人が揃ったことを嬉しく思う」


 国王が、全く嬉しさを感じない陰鬱な雰囲気のままそう言った。


「して侯爵、余はサツキ殿も召喚していたはずだが、なぜいない。まさかそれも蹴るというつもりか?」

「とんでもございません。サツキも登城させ控えておりますので、すぐにお呼びいたします」


 侯爵がそう言うと同時に、俺たちが入ってきた扉が開いた。そこには盛装したサツキさんとヴォルフガングが立っていて、ヴォルフガングのエスコートで静々と進み出た。

 サツキさんは光沢を抑えた銀色のドレスに、エメラルドか何かの緑色の宝石のアクセサリーをつけている。

 ヴォルフガングは上下とも黒一色だが、部分ごとに素材の違う生地を使っているようで黒ずくめには見えず、手が込んでいるのがわかる。銀髪と緑の瞳がより引き立って見える。

 ラノベ定番の「互いの色を纏った」状態で現れた二人は俺と侯爵の後ろで止まると、サツキさんはスカートを摘んでカーテシーってやつをし、ヴォルフガングは跪いた。子爵はいつの間にか端に避けている。


「サツキ・ゴトウ=()()()()()()()()、王命により参上いたしました」

「……面を上げよ」

 サツキさんは「アイゼルバウアー」を微かにだが強調して名乗った。それはつまり「私はアイゼルバウアー侯爵家の人間としてここにいます」という意思表示であり、先ほどの侯爵の主張を遠回しに肯定しているようだった。


「サツキ殿、これまでの其方の()()への献身を余は買っておる。異界の知識にて()()に新たな技術をもたらしたこと、大儀であった」

「もったいないお言葉に存じます」


 それに対して国王は「王国」を強調している。サツキさんを侯爵家の人間としてではなく、自分に仕える王国民として扱いたいという意図が透けて見える。


「其方も既に承知の通り、ここに勇者と聖女の召喚が成った。それはすなわち伝承にある『災厄』が起こるという証。これは王国を挙げて対処しなければならないということは、わかっておろう。

当代の聖女は召喚されたばかりであり、慣れぬ環境で困惑しておる。しかし幸運にも其方の妹であるという。聖女の力となることが『災厄』を鎮め、王国の益となることは聡い其方であれば説明するまでもなく承知しているであろう。先達として導いてやってはくれまいか」


 侯爵の通知を受けながら、国王は真っ向から対立する要望を告げた。

 普通ならサツキさんはこれに従うしかないと思うんだけど。


「恐れながら陛下、それはわたくしに聖女付きとして仕えよというご意志でございましょうか」

「その通りだ」

「それでございましたら、先ほど当主である義父が申した以上のことを、侯爵家の末席におりますわたくしが申し上げることはございません」

「……余が許すと言ってもか?」

「はい。わたくしは()()()()()()()()この国にやってまいりました。聖女様や勇者様のように庇護される立場ではないわたくしは、すぐに野垂れ死んでもおかしくない状況でした。そんなわたくしの命を救ったのはわたくしの伴侶であり、生きていくための術を与えてくださったのは義父をはじめとする侯爵家の方々でございます。その時より、わたくしの全ては伴侶と侯爵家のためにございます。ですので、義父の意志がわたくしの意志でございます」


 痛烈な皮肉だ。

 そもそもが巻き込まれた被害者であり、勇者や聖女と違って手厚く遇されるわけでもない。助けてくれたのは王家ではなく侯爵家だ。そのおかげで功績をあげた途端、お前は王国民だろうと言って掻っ攫おうとする。どの面下げて言ってるんだい、ということだろう。


「……それについては確かに心苦しく思っている。だからこそ、其方自身にも王家の庇護を与えることで報いたいと思うが故に、聖女のそばにあってほしいと望むのだ」

「わたくしなどものの数にも入らぬ身であり、未だ義姉達に教えを請うております。そのような者が恐れ多くも聖女様に差し出せるものなどございません」


 完全な平行線にままの会話を聞いているうちに。俺は無性に腹が立ってきた。

 王様は遠回しな言い方をしてるけど、要するに聖女が寂しがってるからお姉さんに一緒にいてほしいってことだろう。

 サツキさんだってさすがにそれはわかってるはずなのに、どうして「うん」って言わないんだ。


 聖女に目をやると、唇を噛みながらものすごい表情でサツキさんを睨んでいた。

 あんな会話を延々と聞かされたらそりゃあそうなるだろう。かわいそうに。

 てか、ここまで険悪な空気になったままサツキさんがやってきても、もはや逆効果じゃないだろうか。


「あのう、すみません」


 そう思った俺は思わず口を挟んでしまった。

 全員の目が一斉にこっちを向く。


「あ、急にすみません。でも、もう今更サツキさんを聖女さんのところに連れて行っても、仲良くやれないんじゃないですか。聖女さんもそう思いませんか?」


 俺が聖女に話を振ると、今度は全員が一斉に聖女を見た。


「……お姉ちゃんなんて、死んだらいいのに」


 サツキさんを睨んだまま、憎しみに満ち溢れた声で聖女はそう言った。

 聖女らしからぬ発言を聞いて、国王やあたりにいたお城の人たちは慌てだした。

 言われたサツキさん本人は何も感じていないようで無表情のままだ。いや、どこかホッとしているようにも見える。人の心がないのかな。


「聖女殿はお疲れのようだ。今日はここまでとする。聖女殿と勇者殿をお部屋へお連れせよ。

侯爵、サツキ殿、其方たちの『災厄』及び王国への尽力に期待しておるぞ」

「御意にございます」


 最終的に国王が折れる形になって謁見は終了した。


 片や異世界の服だからと部屋着みたいな格好をさせられている俺と聖女、片や貴族の一員として豪華なドレスを着ているサツキさん。

 服装の違いが、まるでその間に横たわる深い溝を表しているかのようだった。


「あーめんどくせ」


 案内された客間のベッドにゴロンと寝転んで、俺は一人ため息をついた。

 俺は俺でやっていくしかない。サツキさんは自分がこの世界で快適に暮らせるようにワガママを押し通した。俺も快適に勇者がやれるようにしようじゃないか。なあ、そうだろ。

ここで勇者くん視点は一旦終了となります。

次はサツキ視点。彼女が転移してからどうしていたのか、なんであんな態度だったのかが伝わるように書いていきたいところです。

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