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side勇者【1】

初投稿です。よろしくお願いします。

 チュンチュン。

 鳥の鳴き声が聞こえる。


「朝か……」


 俺はよっこらしょと体を起こす。体はバキバキであちこちが痛く、最悪の目覚めだ。

 時間を確認するためにスマホに手を伸ばそうとしたところで、自分の部屋ではないことに気づいた。

 自分の部屋どころか屋内ですらない。森だ。森の中で俺は座り込んでいる。


「え、どゆこと……?」


 呆然として周囲を見回す。俺がいるのは少し開けた草むらのようなところで、その周りは大木が立ち並んでおり、遠くは見通せない。木と草しかない。


「思い出そう、思い出そう……」


 ぶつぶつ呟きながら、記憶を辿ってみる。


「休みの日にゲームしてて、夜になったからコンビニに晩飯買いに行って、それで……。あっ!!」


 思い出した。コンビニから帰る途中、公園に差し掛かったあたりで急に周囲が光出したんだ。地面に魔法陣のようなものも浮かび上がってたと思う。それにびっくりして立ち止まったところから、記憶は途切れている。


「これってあれってことか?異世界に転移しちゃったってことか?」


 異世界転生や異世界転移モノのマンガやラノベは溢れるほどあって、俺もいくつか読んだことはある。文字を読むと眠くなるのでマンガに限るけど。


「いや、まだ異世界って決まったわけじゃないし」


 国民的に有名な映画で、タイトルに「神隠し」って入ってる作品がある。あんな感じで神隠しにあったっていう可能性もある。でも、あれも異世界といえば異世界だし、結局異世界転移ってことになるのか?


「そんなこと考えてる場合じゃなかった」


 とにかく誰か人を探して、ここがどこなのか聞かないと。元の場所に戻る方法も知りたい。よくあるストーリーだと元の世界に帰れなくなる場合がほとんどだっていうのは、あまり考えたくないことだ。


 立ち上がって適当なストレッチをして、バキバキな体をほぐす。

 自分の周りを見ても、コンビニで買った食料は見当たらなかった。ポケットに入れていたスマホと家の鍵もない。服だけは着ていたままで、グレーのスウェット上下に黒のダウンジャケット、足元は履き古したスニーカー。全く森にふさわしくないが、スニーカーを履いていただけマシだろう。サンダルだったら詰んでた。

 気温はあまり高くなく、ダウンを着ていてちょうどよかった。


「さて、どっちに行くか…」


 俺は完全インドア派だから、登山とかキャンプの経験はない。知識もない。

 空を見上げても木々の間から曇り空が見えるだけで、太陽の位置はわからない。というか、これが本当に異世界なら太陽があるかもわからないし、元の世界と同じような方角を示すのかもわからない。そもそも方角が分かってもどっちに行けばいいのかわからないし。

 森は全部同じに見えるが、なんとなく木が少ないような気がする方に行ってみることにする。

 歩き出しかけて、俺はあることを思い出した。


「一応、言ってみるか。ステータス・オープン」


 それも異世界モノの鉄板のセリフだ。作品によってステータスはあったりなかったりするが、ないとしてもここなら誰も聞いてないし恥ずかしくない。うん、恥ずかしくないよ。

 全然期待していなかったが、俺の目の前には半透明の画面のようなものが浮かび上がった。


「うわ、まじかよ」

 

 名前:山本 敦史

 年齢:24歳

 職業:勇者(異世界よりの客人)

 スキル:剣術、弓術、体術、魔法(属性:火、水、風、土)

 ギフト:天の御剣


「え、俺、勇者なの!?てか異世界からの客人ってことはほんとに異世界転移かぁ。勇者って何するんだ?魔王とか倒すの?スキルもこれってすごいんじゃないの?ギフトもよくわかんないけど勇者っぽいし、なんか強そう。でもこのステータスってHPとかMP出ないわけ?」


 本当にステータスが見れたことも驚きだが、自分が勇者であるということがもっと驚きだ。でも悪くない。勇者として活躍できるならこの世界でもやっていけるかもしれない。

 しかし、このステータスにはレベルなんかの数値が一切なく、自分がどの程度の強さなのかわからない。不親切すぎないだろうか。


「ああ、こんなことしてる場合じゃなかった」


 早く人のいるところにたどり着いて、この世界のことを知らないといけない。勇者としての使命があるはずだし。それに飲み物や食べ物もどうにかしないと。でも勇者ならなんとかなる気がする。なんか楽しくなってきたな。

 俺は足取り軽く森を進み出した。



 ひたすら歩き続けると、森を抜けることができた。体感時間としては2時間ぐらいだろうか。かなりヘトヘトだが、進む方向は合ってたようでよかった。まあ俺は勇者だから、こんなことで死なないように世界に守られてるのかもしれないな。


 森の先には村があった。

 木の柵でぐるっと囲われた中に、木でできた家が建っている。なんていうか、ほんとに絵に描いたような「村」って感じだ。

 近づくと村人がちらほら見えた。濃淡はあるが、だいたいみんな茶色い髪をしているようだ。目も髪もカラフル設定の異世界ではないみたいだな。

 門というほど重厚じゃないけど、それなりに頑丈そうな木の扉が村への出入り口のようだ。普通に開いてる。そんなに危険な地域じゃないのかな。


 見慣れない人間が近づいて来るのに気づいたからだろう、門のところに男性が数人集まってきた。それぞれ手には棒やクワなんかを持って、警戒している。

 みんな茶髪に茶色い目で、肌は白くてがっしりと背が高い。顔立ちは西洋的だ。

 俺は門の数メートル手前で立ち止まると、両手を上にあげた。

 このジェスチャーが通じるのかわからないし、そもそも言葉が通じるのかわからないけど、他に敵意がないことを示す方法を知らない。


「すみません、怪しいものではないです。森の中で道がわからなくなって、どうにかここに辿り着きました」


 嘘じゃないけど本当でもないことをとりあえず並べておく。異世界って概念を誰でも知ってるのかわかんないし。

 警戒心丸出しで俺を見ていた村人たちだが、一人が「サツキさんと似てる」と言い出し、他の村人も「確かに」と頷き出した。サツキさん??


「あんた、サツキさんと同じような髪と目をしているが、サツキさんと同郷なのか?服装もこの辺では見たことがないし」


 誰だそれ。絶対知り合いではないと思うが、俺と同じような髪と目、要するに黒目黒髪ってことはもしかすると他の転移者かも?名前も日本人っぽいし。

 俺がその「サツキさん」のことをもっと詳しく聞こうとした時、村の奥の方から人が走ってきた。若い男性がおじいさんを背負っている。

 門にたどり着くとおじいさんは若者の背中から降りて、杖をつきながら俺に近づいてくる。


「ワシはここの村長をしておるエイデルじゃ。お主は?」

「えーと、ヤマモトアツシです。森の中で道がわからなくなって、どうにか森を抜けてここまで来ました」


 名前も西洋っぽい偽名を言おうか一瞬迷ったけど、転移者らしき人がいるようだから本名を名乗った。その人に会えるなら会いたい。


「村長、この人サツキさんに似てます」

「うむ、そうじゃな。お主は別の世界とやらから来たのか?」

「あ、はい。たぶんそうです」


 そのサツキさんとやらは余程の有名人なのか、こんな鄙びた村の住人さえ異世界から来たってことを知ってるようだ。


「サツキさんはこの近くに住んでおるのじゃが、知り合いか?」


 知り合いじゃない。だけど転移者で間違いないだろうから、会ってはみたい。


「たぶん同じ世界の人だと思います。直接の知り合いではなさそうですが……。その人はどこにいるんですか?」

「向こうの山の中に住んでおるが、定期的にこの村までやってくる。次は一週間後の予定じゃ。しかし、お主にはまず領主様のところへ行ってもらわねばならん。サツキさんに会うとしてもその後じゃ」


 いや、領主より先にそのサツキさんとやらに会いたい。サツキさんにこの世界のことを教えてもらってから領主に会う方が絶対スムーズだ。勇者のこととか、領主なんかに聞いても向こうの都合のいいような情報しか教えてもらえないかもしれないし。


「先にそのサツキさんに会いたいんですけど」

「それは困る。今日はワシの家に泊り、明日ワシと一緒にご領主様のところへ行ってもらう」

「じゃあ今からサツキさんのところに行って、明日またここに来ます。それなら問題ないですよね?」

「山の中にはサツキさんの家以外に寝泊まりできるような場所はない」

「サツキさんのところにお世話になったらいいんじゃないんですか?」


 俺の返答に村長も村人も困惑しているが、そんなに変なこと言ったかな……。初対面の女性の家に泊めてもらうのは普段なら問題があるかもしれないけど、ここは異世界だし俺は非常事態だ。別に何もしないし、サツキさんだって俺と同じ境遇になったことがあるんだから気持ちはわかってくれるだろう。


「サツキさんの家はあっちの山なんですよね。道はどうなってますか?」

「……このまま道なりに進めば山に入る。山に入ってからも一本道だから、外れなければ迷うことはないはずだ。他に家はないから、建物があればサツキさんの家だ」


 村人の一人が渋々といった感じで道を教えてくれた。ルートはシンプルなようで助かる。目印のない山の中で複雑な道のりは俺には厳しい。


「ありがとうございます。じゃあまた明日、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて立ち去る俺を微妙な顔で見送る村人たち。村長が村人の一人に、誰それに知らせをやれとか言ってるのが聞こえた。たぶん領主に知らせだけ送っておくのだろう。


「そういえば、言葉は通じてたな」


 転移者チートなのかよくわからないが、言葉の壁がないのは大きい。


 

 しばらく歩くと木が増えて鬱蒼とし出した。なんとなく上り坂になってきたので、山に入ったようだ。道は木の根や石ででこぼこしていて歩きにくい。

 たまに立ち止まって息を整えつつ、俺は足を進めた。

 村で水をもらうのを忘れたせいで、喉がカラカラだ。これはヤバいかも……と思い始めた頃に綺麗な泉があった。飲んでも大丈夫な水かはわからなかったが、もう限界だったので何回も手ですくって飲んだ。ああ、おいしい。

 あとどれぐらいでサツキさんの家に着くんだろうか。日が暮れてしまったら間違いなく真っ暗になって進めなくなってしまう。何としても日暮れまでにサツキさんの家に辿り着かないと。

 

 俺はただひたすらに歩き続けた。足も腰も痛すぎて麻痺してきているし、疲れで頭もぼんやりしている。機械的にただただ足を進める俺の前に、突然家が現れた。

 煉瓦造りのこじんまりした家で、煙突から煙が出ている。

 サツキさんの家以外に建物はないと言っていたから、ここで間違いない。


「やっと着いた……!」

今日は夜にも投稿する予定です。

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