表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/31

冒険者として覚醒、そしてベビーシッターへ

 白銀の獅子は総勢十三人で常闇の王宮に向かった。


 しかし、これが正しい判断では無かったことは早々に分からされた。


「くそっ、数が多すぎる」


 全三層で構成されたこのダンジョンは、一層から三層まで中級モンスターが大量発生していた。一体ずつの戦力はそれほどでもないが、まとまった数を相手にするとなると体力の消耗が激しかった。


 人数が豊富な大手ギルドと違い、白銀の獅子は戦力に偏りがある。


 具体的に言えば、全体攻撃を得意とする者が槍使いのナイル一人しかいなかったのだ。

 単体攻撃を得意とする剣士がモニカを含めて四人、単体魔法を得意とする魔導士がリルドを含めて三人。

 その他はヒーラーやバファーなど、後方支援が厚いパーティ構成になっている。

 白銀の獅子が得意とするのは上級モンスター単体の討伐などであり、こういった大量のモンスター相手は苦手な分野だった。


 結果ナイルに労力が集中してしまい、一層をクリアする頃には失敗ムードが漂っていた。


「まだいけるな。モニカ、こいつをサポートしろ」

「リルド、もう引き返そうよ」

「黙れ!」

 モニカに怒鳴ったリルドの目は血走っていた。


「……」


 二層は一層ほどモンスターが大量発生しているわけではなかった。

 その代わり、上級モンスターが等間隔にうようよしていて、ちょっと気を抜くと数体に囲まれてしまうような危うさがあった。


 ここはモニカやリルドの活躍で何とか乗り切ることが出来たが、すべてを片付ける頃にはクタクタになっていた。


「もう少し……もう少しだ……」


 しかし一人だけ、リルドに疲れた様子はなくその目には狂気がやどっていた。


 そして到達した最深部。


「あれが、ボスモンスター?」

「あんな小さいのが? どこかに親玉が隠れてるんじゃないのか」

「あれは『ガーゴイル』です。文句なし、最上級モンスターですよ」


 人間の子供ぐらいの大きさに騙されそうになったが、最上級モンスターというのを聞いてからその姿を改めて見ると邪悪な悪魔の幼体のように見えた。


 キャキャキャキャキャ


 ガーゴイルの甲高い笑い声がダンジョン内に響き渡る。


「さぁ、決着をつけるぞ!」


 リルドの合図で魔法部隊は詠唱を開始し、剣士部隊は突撃した。


「クソ、ちょこまかと!」


 ただでさえ体の小さいガーゴイルは素早く飛び回るので、攻撃をあてるのが至難の業だった。


 対してガーゴイルのほうは鋭い爪でパーティメンバーを襲う。


 剣先でガーゴイルを捉えたモニカは手ごたえを感じたが、それによって勝利が不可能なことを肌で感じ、確信した。


 モニカの攻撃力ですら、ほとんどダメージが入っていなかったのだ。


 それほどガーゴイルのスキンは強固だった。


「リルド、ダメだよ! 今回は引き返そう!」

「うるさい! 黙って俺に従え! 従わないなら、俺がお前をここで殺してやる!」

「……!」

 リルドの目は本気だった。


 今、仲間割れをしている暇など一瞬たりともない。


 もはやモニカに選択肢はなかった。


「わかった」

 ガーゴイルに対して剣を構える。


 リルドの魔法が当たった隙にモニカがラッシュを叩きこむ。


「どうだ?」

「まだ、全然だと思う」


 徐々にガーゴイルのスピードに慣れてきたモニカたちは少しずつではあるがガーゴイルの体力を削ることができていた。


 リルドの氷矢がガーゴイルを捉えたことで、ガーゴイルは部屋の中央高くを飛び上がった。


 そして数十の魔法陣を出現させると、その一つ一つからモンスターを召喚した。


「モンスターがモンスターを召喚しただと!」


 そしてガーゴイルは召喚したモンスター操り、ギルドは大量のモンスターに囲まれてしまう。


 またとしてもナイルの出番がきてしまった。


 リルドは範囲攻撃で敵を減らしていくが、蓄積した疲労が限界を迎えているのは誰の目にも明らかだった。


 それでもリルドから撤退命令は出なかった。


「しっかりしろ! 雑魚だけ倒せればボスは大したことない!」


 ガーゴイルは宙高く浮遊しているだけで戦闘は召喚したモンスターに行わせている。


 魔法部隊がガーゴイルを狙うが、ただでさえ小さいガーゴイルが高所を飛んでいるだけでなく、少し気を抜けばモンスターからの攻撃を受けてしまうリスクもあった。


 モニカや他のメンバーも加勢するが、処理が追い付かない。

 ここから形勢を逆転させるのが無理なことは火を見るより明らかだったが、リルドはギルドメンバーに指示を出し続けていた。


「しまっ……!」


 そんな中、ナイルがモンスターの攻撃を受けて倒れてしまった。


「ナイル!」

 モニカが助けに入った。


「しっかりして!」

「チッ、足手まといのカスが……っ!」

 リルドは不快極まりないといった表情で吐き捨てた。


「仕方ない、今回は引くぞ!」

「待って! まだナイルが!」

 待ちに待ったリルドからの撤退命令を聞いたギルドメンバーたちは一目散に出口を目指して走った。


 モニカがナイルをガーゴイルから離れた場所に運び、リルドのほうを見たときには既にリルドを含めたパーティメンバー全員が外に出ていた。


「なんでこんなことに……」


 しかしモニカは諦めず、ナイルを背負った。


「ナイル、しっかり!」

「すまないモニカ……」


 モニカは身体強化のスキルを発動させ、ナイルを背負ったまま懸命に走った。

 モンスターを飛び越え、致命傷以外のダメージは我慢しながらも出口を目指した。


「アイツらはもう放っておけ! 間に合わん!」

部屋の外からリドルの声が聞こえた。


「えっ……」


 モニカは自分の目を疑った。


 ボス部屋の扉が閉じられたのだ。


 モニカは完全にモンスターに囲まれてしまった。


「うそ……でしょ……」


 あまりの絶望に、膝から崩れ落ちてしまった。


 そのとき、ナイルも地面に伏した。


 モニカたちは捨てられた。


 ちょうど今、手から離れ落ちた剣のように。


 目の前が真っ暗になるモニカ。


 キャキャキャキャキャ


 耳障りな笑い声がモニカの頭の中でこだました。


 白銀の獅子で過ごした忙しいけれども充実した楽しい日々、自分を育ててくれた村の人たち、色々な考え、感情が雪崩のように頭の中に流れ込んできて、何がなんだか分からなくなってしまった。


 ただ、ガーゴイルの甲高い笑い声だけがかすかに聞こえている。


 せめて、このまま眠るように――。


 そう願ったときだった。


 突如として周囲が静かになった。


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。


 しかし他の誰かが助けてくれたのではなく、自分自身で何かのスキルを発動したというのが感覚的に分かった。


 ――これが、モニカが『アブソリュート・スリープ』を習得した経緯と、そのスキルを活かして新たな街で新たな仕事を選ぶことにしたきっかけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ