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リーダーとしての覚悟

 高所から落下しているような浮遊感。


 ゆっくりと二の腕から着地して、徐々に体が重力を感じていく。その感覚から仰向けになっていることがわかった。

 いつもの百倍は重力が掛かっているのではないかと思うほどに体が重い。


 あれ……私、どうなったんだっけ。


 混濁する意識のなかで、直前の記憶を手繰っていく。


 ダンジョンをさいごまでいって、それで強いモンスターにあって、そこで……アノコトをおもいだしちゃって……。


 そこまで思い出したとき、かすかに声が聞こえてきた。

 モニカは思いまぶたをうっすらと目をあけた。


「エマどうしよう! この傷、塞がらないよ!」


 ルティの手元が白く光っている。誰かを回復させているようだ。


 ヴラドくん……?


 ルティが懸命に回復魔法を施すが、横たわるヴラドの背中がどんどん赤く染まっていく。


「ヴラド! しっかりして! お願いだから……」

 ルティは目尻に涙を浮かべながらも懸命に措置を続けた。


 しかし、彼の命がもう風前の灯火なのは明らかだった。


 あ……そうだ。私が……私のせいだ……。


 動けなくなった自分を助けてくれたのはヴラドだった。

 そのことを思い出したとき、モニカはさっきとは別の浮遊感のようなものを覚えた。横たわっているはずなのに、地面がグルグルと回っているように感じる。


「ヴラ……ドくん……」


 モニカの口からかすかにこぼれた言葉は、誰に届くこともなく空中をさまよって消えた。


「エマ! 僕に魔力を頂戴! 早く!」

「……」


 必死になって施術を行うルティとは対照的に、エマはただ静かにその様子を見ていた。

 しかし彼女の表情には、どこか覚悟したような気持ちが見て取れた。

 エマはゆっくりとしゃがむと、回復魔法を施しているルティのその手をやさしくどけた。


「ちょっ……エマ? ……何、してるの?」


 エマは何も言わずルティに優しく微笑みかけた。


 そして扇子を取り出すと、ヴラドの傷口の上に黒い魔法陣を作った。


「エ、エマ……まさかそれって……」

 ルティは驚愕と悲しみの表情を浮かべた。


「ええ。ようやく、あなたに『呪詛』を見せることができるわね」

「エマ……」

「そんなに悲しそうな顔をしないでちょうだい。ほんの数年よ」


 エマは扇子をバチンと閉じた。


 すると、ヴラドの傷口上に作られた魔法陣はエマから黒い魔力のようなものをぐんぐん吸い取った。


 モニカはその光景を、夢と現実の間のような感覚で見ていた。


「ごふっ」


 手で口を覆ったエマの指先から、かすかに血が流れた。


 その汚れをハンカチで拭った時には、ヴラドの傷は完全に癒えていた。

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